発端
それにしても、最近、本当にやたらとホームレスが目に付くようになった。
昔から地下街の薄暗がりや公園の陽の当たらないベンチなどによくいたものだが、その数が増えたように思う。
近くを通りかかると、どいつもこいつも羨望のような、執着するような視線を向けてくる。それが気持ち悪くて、触らぬ神に祟りなしとばかりに、目を合わせないようにしてその場は足早に立ち去る。が、一度離れて日向に出ると途端に強気になって、そんな風に他人を羨むのなら、少しは仕事を探す努力くらいはしたらどうだと軽蔑する。
今日もそう思いつつ、地下街を抜けて待ち合わせ場所の駅前までやってきた。
もう既に、他の二人は到着していた。小走りになって彼らと合流する。
「悪い、待った?」
「別に」
素っ気ない返事をしたのが小学生からの友達である小林だ。僕が来たことすらどうでも良いという感じで、スマホをいじったまま顔をこちらに向けようともしないが、これはいつものことだ。
「いや、待ったぞ。俺を五分も待たせるな」
その横で偉そうにしているのが水本である。こいつは大学からの知り合いだ。入学式の時にたまたま隣の席だったのがきっかけで、何故か仲良くなった。暇があると、時々こうして三人で遊びに出かけることもある。
「はいはい。そいつは悪うございました」
と適当に茶化すような返事をすると、やはりその程度のことで怒っているわけではないようで、すぐに別の話題に切り替わった。
「ってか、それはまあどうでもよくて、お前、SNSやってるなら言ってくれればフォローしたのに」
言いながら水本はポケットからスマホを取り出して何やらいじり始める。
「ああ、まあわざわざ言うほどのことじゃないと思って」
それが本音だ。基本的には愚痴しか書かないようなアカウントである。教えても意味などない。どうせ大学で嫌というほど顔合わせて話しているんだし。
「ほら、これだろ」
水本が画面を僕に見せる。
「この間中村の奴から教えてもらったんだ」
中村というのは僕たち三人が入っている軽音サークルのメンバーだ。一体どこから嗅ぎ付けたのだろう。まあ、一応本名を元にしたアカウント名にしているから、探そうと思えば簡単に見つかるだろうが。
しかし、画面をよくよく見てみると、そこに映っているのは、確かに名前は僕のものになっているし、アイコンも僕の写真になっているが、全く知らないアカウントのホーム画面だった。
「ん、いや、違うよ。それじゃない。ほら、僕のはこれ。IDが違うよ」
と、自分のアカウントを二人に見せる。IDはアカウント名とは別に登録するもので、他のユーザーと同じ名前を使えるアカウント名とは異なり、こちらは他の誰かがすでに登録している場合は同じものを登録することができない。
「え、でもほらこれ。この間の学祭の打ち上げの写真とかあがってるし」
その打ち上げ会なら僕も確かに参加していた。画像を上げたりはしていないはずだ。
不思議に思っていると、水本がその投稿を僕に見せてきた。
『学祭の打ち上げ! 今夜はオールで飲むぞ!』
なんていうコメントと共に、僕とバンドメンバーが肩を組んで写った写真が投稿されている。
この写真自体は僕のカメラで撮ったものだが、メンバーにも送っているから、そこからこのアカウントの中の人間に渡ったのだろう。
それでピンときた。
「あ〜、わかった。サークルの誰かのいたずらだろ。ったく、こんなことして何が楽しいんだか」
軽音サークルは人数が多いため、僕自身全員を把握できていない。僕たちはあまり関らないほうだが、中には悪ノリするグループもいる。多分これもそういう奴らのおふざけなのだろうが、やられた側としては、あまり気分のいいものではない。
「一体いつから自分が本当の自分だと錯覚していた? 的な?」
某漫画からの引用で茶化す小林だが、正直全然笑えない。
「やめろって。まあ、ただのいたずらだし、相手にしないのがベストって感じだな」
結局このアカウントについてはそれで終わり、その日は他に大して気になることもなく、三人で遊んだが、僕の財布が底をつきかけていたので、飲みには行かずにそのまま帰ることとなった。




