-96- のべつくまなし
のべつくまなしとは、絶え間なく続く・・という意味で使われているが、元々(もともと)は芝居で幕を引かず、休みなく演じ続ける、[幕なし]から派生した言い回しだ。ただ、のべつくまなしだからといって、効果が上がる・・というものでもない。逆転して、五月蝿く思われたり、手元が疎かになり失敗することも多々あるのだ。『口を動かしてないで、手を動かせっ!』と怒られるケースがそれだ。
「ははは…いや~まいりましたよ。脱線転覆でしょ。私は次のでよかったんですが、お蔭で旅行の予定は大幅に遅れましてね」
「ええ、それで?」
「ところが、旅ってゆうのは何がどうなるか分からんものです。今思えば、それが返ってよかったんですからな、ははは…」
久しぶりの旅から帰った針山は、すでに4時間以上、話し続けていた。聞き手になっているのは、お隣に住むご近所仲間の着物だ。針山の語り口調は、のべつくまなしだったが、馴れているのか、着物の合いの手の入れ方も、のべつくまなしに合わせたようで上手かった。
「と、言われますと?」
「じゃあ、仕方ないから別のルートで鹿馬温泉に向かったんですが、これがどうして、なかなかのいい温泉でしてね」
「ほう!」
「景色はいいわ、料理は美味いわ、湯はいいわ、女将、仲居は美人だわ・・」
「よかったですなっ!」
「ええ、よかった、よかった! よかったのなんのって!」
「ふん! ちっとも、よかないよっ!」
店からコーヒー一杯でいつまでも出そうにない、のべつくまなしの二人に、喫茶店の店主は、レジ台から思わず小声で愚痴った。
のべつくまなし・・は、周りの環境を確認する必要があるのだ。
完




