-94- 灯(あか)り
時代劇を思わせるように古式ゆかしく、灯明に灯りが揺らめいて灯っている。注視して灯りが灯った状態を観察すれば、灯るまでに幾つかの物品が必要なことが分かる。まず、油を注ぎ入れる磁器製の油皿、油が染みて火となり灯りとなる。また、イグサの髄から作られる灯心が必要である。他にも幾つかあるのだが、こうした細々(こまごま)な物品がすべて整わないと、灯りとして明るくならない訳だ。要は、灯明家のメンバーといったところだ。これは灯りに限らず、すべての物や事象に当てはめることが出来る。逆転して考えれば、その中の一つが機能しなくなっただけで全体がアウトになるのだから怖い。
とある会社の部長室である。
「君の課はいつ頃、提出できるの?」
「はい、明日には間違いなく出揃うと…」
部長の太丸に訊ねられた鋸切は、他の課に負けてはならない…と、課長として大見栄を切った。
「ほおっ! そりゃ早いじゃないかっ! よろしく頼むよ」
「はいっ!」
鋸切は鼻高々に部長室を出た。出た途端、ひとつ気がかりなことが頭に浮かんだ。選抜したプロジェクト・チームのメンバーの一人、枝木が今一つ頼りなかったからだ。枝木は仕事こそ遅かったが、時折り素晴らしいアイデアを出し、課の営業成績に貢献したからチームのメンバーに入れたのだが、普段は鳴かず飛ばずだったから、果たして分担分をキッチリやってくるか? が心配だった。
そして、次の日が瞬く間に巡った。
「枝木はどうした?!」
「今日はお休みになられるそうです…」
「なんだって!! 他のメンバー分は出揃ったというのに、あいつの分だけないっ! これじゃ、部長のところへ持っていけないじゃないかっ!!」
「私に言われましても…」
係長の金槌は鋸切に弱く返した。
「あいつは灯らんヤツだっ!」
鋸切は切れぎみに愚痴った。
「はあ?」
金槌は意味が分からず、訝しげに鋸切を見た。
「いや、なんでもない…」
そして、ついに退社時間が近づいた。
「今日じゃなかったのかねっ!」
太丸から呼び出された鋸切の姿が部長室にあった。
「はあ…そのつもりだったのですが…」
「ははは…つもりじゃなぁ~」
この言葉の裏には、『君の次長の推挙は諦めてくれたまえ…』の意味が含まれていた。鋸切の頭の中は火が灯らず、真っ暗になった。
「課長、速達書留が届きましたっ!! 枝木さんの持ち分ですっ!!」
金槌が書類を手にし、部長室へ叫びながら飛び込んできた。逆転である。
「そうかっ!」
鋸切の頭に灯りが灯った。
完




