-92- 子泣き唄
よくよく考えれば、子守唄は赤ん坊や子供にとっていい迷惑なのかも知れない。これは穿った見方だが、逆転してそうとも言えない可能性もあるのだ。というのも、大よそ赤ん坊や子供は唄など聴かない方が寝やすい場合もある・・と考えられるからである。
『♪~どうたらぁ~こうたらぁ~なんとかぁ~かんとかぁ~♪』と、唄い手の父親は、いい気分なのだろうが、『やかましぃ~~!』と、赤ん坊や子供は思っている可能性も否定できない訳である。
「おお、よしよしっ! 眠ったなっ…」
妻に逃げられた父親は久しぶりの名調子を浪曲調のダミ声でガナった。しばらくすると、赤ん坊は瞼を閉じて眠った。いや、両眼を閉じ、眠った振りをした。そうでもしないと、やかましくて眠れない…と、感じたからである。要は、最悪の状況だと思ったのだ。そうとも知らない父親は馴れもしない子守唄を、どれどれ、もう一節! …と、ふたたびダミ声でガナり始めたのである。赤ん坊としては堪ったものではない。こりゃ、ダメだっ! とばかり、身の危険を察知したように号泣し始めた。
「オ、オ、オギャァ~~~!!!」
父親はそのとき初めて、しまった! と気づいたのだがもう遅い。赤ん坊としても泣き始めた以上、意地がある。そう簡単に泣き止む訳にはいかなくなったから泣き続けた。父親は、これは偉いことになったぞ…というところだ。
その後、どうなったのか? という事後話は読者の方々の想像にお任せしたいが、子守唄は逆転して子泣き唄となることに心して戴きたいとは思う。
完




