-9- 建て前
格安で購入し、¥2,500万で建てた家の建て前の悪さに浅畑が気づいたのは、引っ越してからひと月ほど経った頃だった。なにげなく目に入った部屋の片隅のフロアが傾いていたのである。その傾斜角は、見た目には見えない僅か数°だったが、それでもボールやビー玉を置けば、勝手にコロコロ…と転がるほどの傾きがあった。これは捨て置けないっ! と噴飯やる方ない浅畑は、さっそく施工先の工務店へと動いた。
「そう、言われましてもねぇ~。完成検査の折りは大丈夫だったんですから…。おたくも一緒に見て回られたじゃないですか。建築確認のOKも役所から出てますし…」
「なに言ってんだっ! 傾いてるもんは傾いてるんだっ! なんとか、してくれっ!」
「なんとか・・と申されましてもねぇ~。当方としては、いかんとも…。もう、出来上がってますしねぇ~」
「ああっ!! 君では話にならん! 責任者を出しなさいっ、責任者をっ!!」
「…責任者は、私ですが」
「!! もっと、上のっ!」
「上もなにも、ここでは私が一番、トップですが…」
「…!!」
興奮冷めやらぬ浅畑の顔は益々、紅潮して、茹蛸のように赤くなった。
「まあ、落ち着いて下さい。あの…お子さんは?」
「なにっ?! どういうことだっ!」
「まあまあ。そう、目くじらを立てられずに。ただ、お訊きしただけですから…」
「…いるには、いるが。それと、どういう関係があるっ!」
「おいくつですか?」
「おいくつもなにも、まだ生まれて半年だっ!」
「おお! それはいい!」
「なにがいいんだっ!」
「逆転の発想ですよ、逆転のっ! 傾いているとお考えになられるから腹も立つ訳です」
「当たり前だろうがっ! 現に傾いてんだっ! なにが逆転の発想だっ!」
「お子さんの遊び台を特別に工夫して作った・・とは考えられませんか?」
「遊び台!?」
「ええ、遊び台です。コロコロと玉なんか転がせば、きっとお子さん、大喜びされますよ~」
「… そ、それは。… そういうの …それもありか?」
浅畑の顔は赤→黄→緑の信号のように、正常へと戻っていった。
今では、傾いたフロアの建て前も、浅畑家の子供の遊び場・・という立て前で、ダジャレではないが、ごく当り前に使われている。物事も違った逆転の角度から捉えれば、割合とスムースにいくものである。
完




