-89- 雑食性
人ほど雑食性の動物はいない。えっ! こんなものまでっ!? というものまで食べてしまう。ある意味、人は他の動物以上に下世話な生き物なのかも知れない。他の動物は必要な食物は本能に従い残虐なまでに獲って食べるが、その種類は限られている。そこへいくと人は雑食性で、珍味だっ! とかなんとか屁理屈を捏ねて何でも食らうのである。
とある飲み屋のカウンターで会社帰りのA、B二人の客が話しながら飲み食いをしている。AはBの上司だ。
「えっ! アレ、食べますかっ?」
「食べるよっ、もちろん! 美味いよっ、どうだい、一度?」
「有難うございます。機会がございましたら是非、一度…」
Bは早や逃げをした。これが、いけなかった。
「そうかい! じゃあ、これからどうかね? ちょうど、いいのが入ったって聞くし、ここから近いからさぁ~」
「はあ…」
Bはあっさりと土俵を割っていた。なにを隠そう、アレとはカラスのステーキで、雑食性のAが誘ったのはカラス料理専門店だった。すでにAはカウンターを立っていた。
「あっ! これから約束がありましたっ! 次の機会ということで…」
「そうかい? それじゃ…」
二人は飲み屋の外で別れた。Bは雑食性のAから、かろうじて食われずに(のが)逃れたのである。
ほうほうの態で家へ逃げ帰ったBは、ホッ! と一息つき、冷蔵庫へ向かった。
「疲れたときは、コレがいいんだよな、コレがっ!」
Bが冷蔵庫から取り出したもの、それはスズメ蜂の蜂蜜煮だった。
雑食性とは、ものすごく野蛮なのである。
完




