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-86- 道理(どうり)

 世の中で[無理が通れば道理が引っ込む]とは、よく言われる名言だ。だが、間違った無理は正して通さないようにしないと道理が消え、積もり積もれば逆転して道理が道理でなくなるから、その点は注意を要する。

 一人の男が歩道を散歩していた。すると、とある家の前に捨てられているチューインガムの噛かみ屑くずに気づいた。まあ、普通の神経の持ち主なら人の家の前にポイ捨てはしないだろう…と男は常識的に思った。しかし、その思いはマナーと呼ばれる道理であり、別に捨てたところで非常識ながらも警察に捕つかまる訳ではない。そう気づいた男は、少しテンションを下げ、その家の前を通過した。しばらく歩くと公園があったから、男は設置されているベンチの一つに座った。すると、先ほど通った家の前の噛み屑が脳裏のうりに、ふと浮かんだ。男は無性に気になりだした。

「よしっ!」

 開口一番かいこういちばん、ベンチを勢いよく立ち上がった男は、捨てた人物になり変わり、道理を貫つらぬくことにした。男はその家の前まで戻もどると捨てられた噛み屑を手で拾ひろい、また公園までUターンした。そして、設置された屑篭くずかごへ捨てた。男は[無理]という目に見えない悪霊あくりょうを屑篭へ捨てて退治たいじしたような、いい気分になり帰宅した。男のテンションは道理を通したことで逆転し、高くなっていた。


                   完

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