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-81- お金持ち

 お金持ち・・という言葉を聞けば、大概たいがいの人がうらやましくなる。それは、自分達がお金持ちではないからだ。ところが、お金持ちというのは人々が羨むほどでもない存在なのである。逆転の発想でよくよく考えれば、お金持ちでない方が、返って幸せが長続きする場合が多い。その生活がたとえ、わびしく質素しっそなものであったにしろ、幸せが持続するとすれば有り難い話なのである。それにひきかえ、お金持ちにはお金持ち特有のしがらみが付きまとって離れない。それは手を変え品を変え、お金持ちのすきや油断をつけねらっている。まあ、よくよく考えれば、そんな人の不幸を狙う手間てまひまがあるのなら、地道じみちに働けっ! と怒れる話ではある。

 とある会社の事務室である。

蛸岸たこぎしさぁ~ん!」

「なんですっ!? 烏賊場いかばさん!」

「… いや、なんでも」

 蛸岸は最近、社内で理由なくお金持ちになった。その理由をき、自分もその恩恵にあやかろうという手合いがひっきりなしで、今朝の烏賊場もその一人だった。

「社内で飛びってる私のうわさのことですか?」

「ええ、まあ…」

「ははは…別にどうということでもないんですがね」

「どうということもない・・と言われますと?」

「いや、ほんとに。ど~~ってこともないんですよ」

「その、ど~~ってこともない・・と言われるのは?」

「ですから、ど~~ってこともないんですよ。成りゆき、ええ、成りゆきですよ」

「成りゆき・・で、ですか?」

「ええ、そうそう。成りゆき成りゆき、ははは…」

「で、どういった成りゆきで…?」

「どういったも、こういったもありません。自然と、です」

「自然と? そこんとこをお訊きしたいんですが…」

「そこんとこも、ここんとこもありませんよ、ははは…。ただ自然と、です」

「自然とお金持ちに、ですか?」

「誰がです?」

「いえ、蛸岸さんが」

「ええ~~っ! 私がっ!? 私はお金持ちじゃないですよ」

「でも、社内じゃ、そういう噂ですよ」

「ははは…、お金は持ってますがね。くず鉄ばかりです、ははは…」

 お金持ちは裕福だとは限らない訳だ。


                   完

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