表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/100

-73- 注文

 とある高級酒店へ寄った矢川やがわに、ふと昔の記憶がよみがえった。かなり以前の記憶で、夜も更けたスナックのカウンターに矢川は座っていた。

『安ものなら、いくらでもありますよ。それで、よろしいか?』

『ああ、ともかく今日は飲みたいんだっ! 適当に作ってくれっ!』

『矢川さん、何かあったんですか?』

『ああ、まあな…』

 会社の労働争議に巻き込まれた中間管理職の矢川は、会社と社員達の板ばさみに合い、身動きも取れないまま、ショボい気分でスナックへ入り、注文したのだった。

 注文を受けたマスターが出した酒は、どういう訳か実に美味うまかった。

『これ…美味いな』

『安ものシロップのジン・ライムです…』

 矢川がそんな回想を巡っていると、女店員が奥から出てきた。

「ジン・ライム、ない?」

 無意識で、矢川は注文していた。

「ジン・ライムですか? ジン・ライムでしたら、こちらになります…」

 女店員が誘導ゆうどうし、示したたなに並んでいたのは、高級ジン・ライムのびんだった。

「いやっ! こうゆうんじゃないんだっ」

「えっ?! どういった?」

「シロップだよ、シロップ!」

「シロップ? そういう安ものは当店では扱っておりません…」

 上から目線の、めかし顔で、さも上品を気取って返した女店員の言葉に、矢川は思わずムカッ! とした。

「いやっ! もういいですっ!」

 き捨てるように小さく言うと、矢川は足早あしばやに店を去った。

 人が要求する注文は、なかなか他人には理解しづらい。


                   完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ