-63- やらねばっ!
寒い凍えるような日でも人が行動するのは、やらねばっ! と思うからだ。そう思わなければ、人は動かない。やらねばっ! という気力の源泉を辿るなら、それは生活の手段である。生活の手段として、自分の意思を超越する気力がそうさせるのだ。働くのはそのためで、誰も働かずに、美味しいものを鱈腹食べ、絶景を堪能しつつ優雅な気分で暮らしたいはずなのである。が、しかし、それが出来るのは一部の富裕層のみで、多くの人は、やらねばっ! という柵に支配され、優雅に暮らすだけでは許されない。
とある会社の営業統括部である。
「最近、どうも利益が出ないようだが、どうしてだろうね、谷底さん」
「部長は私のせいだとおっしゃるんですかっ!」
部長室の応接室で語り合うのは、次長の谷底と部長の頂だった。
「何もそんなことは言ってないよ」
「では、どういう意味でしょう!」
「いや、他意はない。君に分かるか訊ねただけだよ」
「そうでしたか…。興奮して申し訳ありません」
「いやいや…」
「そういえば、一つ思い当たるのが社員達のやる気の萎えでしょうか。どうも、やらねば! という気力といいましょうか、アグレッシブさが弱くなったように…」
「それが原因だと?」
「いや、そうだ! とは断言できませんが、最近、派遣社員が増えておるでしょ?」
「ああ、4割を超えたな…」
「会社方針だから仕方がありませんが、どうもその辺りに原因があるような、ないような…」
「どっちなんだい!?」
「いや、まあ、あるように私には思えておるんですが…」
「なるほどね。それが、やらねばっ! という気力を削ぎ、利益に影響が…」
「はあ、まあ…。逆転した発想で、派遣法を逆手に取る・・というのは?」
「だな…。役員達に諮ってみることにしよう。人件は会社の宝だからな、ははは…」
「はいっ!!」
半年後、経営方針大転換により社員達のやらねばっ! という意識は自ずと高まり、この会社の業績は飛躍的な改善を見せたのである。
完




