-56- 先を越す
人は先を越すことに固執する余り、争う傾向が強い。中には柳に風・・と受け流す温厚な人もいるが、気短かな人ほど先を越そうとする。まあ早い話、それだけ出来が悪い・・と言われても仕方がない人々だ。しかも、こういう人ほど失態を起こし自滅するケースが世の中ではあとを絶たないのである。遅過ぎるのも考えものだが、人生、そう急いだからといって変わるものではない。世の中が都合が悪いのだ・・と考えれば、また別の機会に・・という気分にもなれる。そういう人は間違いを起こしにくく、起こしたとしても、すぐ修正が出来る人だ。こういう気長な人は医師に向いている。先を越したつもりが、いつの間にか逆転して先を越されている・・といったこともよくあることだ。
一台の車が時速50Km制限の道を走っている。この車を運転する男は、のんびりした性格の持ち主で、取り分けて急ごうともしていないのか、アクセルを踏まない。50Km少しくらいの速度で安定して車を走らせている。と、そのときだった。一台の車が左斜線から猛スピードで男の車を追い抜いた。70Kmくらいは出ているように思われた。追い越された車は制限速度一杯少々の遵法速度ぎりぎりなのだから、先を越した車が法違反を犯したことは疑う余地がなかった。
「おっと! 危ないなぁ~ …」
追い越された男は、思わず呟いたが、そのまま遠ざかる車を見るだけだった。そのときである。先を越して追い抜いた車が道路の側壁へぶつかり大破したのである。逆転して先を越された男は、結局、再逆転したということだ。後々(のちのち)、男が聞いた話では、事故を起こした車の運転者は即死だったそうである。
先を越すと死ぬのだから怖い。
完




