-51- コトの次第(しだい)
とある町内での話である。一軒の家を男が訪ねた。
「はい? どちらさまで?」
「こういう者です。つかぬことをお訊ねいたしますが、この男、見かけられたことはありませんか?」
男は背広の内ポケットからチラッ! と警察手帳と一枚の写真を取り出し、格好よく言った。
「あっ! はい…。いえ、見たことはないですな…」
訊ねられた男は写真を凝視したあと、そう返した。
「そうですか。いや、失礼しました」
訊ねた男は右手で軽く敬礼するような仕草をすると、写真を内ポケットに入れ、ソソクサと立ち去ろうとした。
「あのっ! その男がどうかしたんですかっ?」
訊ねられた男は立ち去ろうとした訊ねた男の背に言葉を投げかけた。
「いや、なに…。そう大したことじゃないんですがね」
訊ねた男は立ち止まってふり向くと、返答した。
「なんなんです?」
「いや、お話しするようなことじゃないんです」
「いやぁ~。だから、それを知りたいんですよ。そう焦らさないで…」
「焦らすもなにも、ほんとに小さいことなんですからっ! あんたも諄いなっ! もう、いいですかっ!!」
訊ねた男は、訊ねられた男が逆転してしつこく訊ねるものだから、ついに怒り始めた。
「ええ、まあ…。どうぞ」
訊ねられた男は煮え切らないまま、訊ねた男を解放した。
「たぶん、犯人を追ってるんだ、あの刑事さん…」
訊ねた男が立ち去ったあと、訊ねられた男はそう呟いた。だが、コトの次第は、そうではなかった。刑事は合っていたが、写真の人物は今年、警察表彰される優良人物で、行方が分からなかったのである。
現実に起こるコトの次第はドラマ風ではなく、逆転するコトもある訳だ。
完




