-48- 強制と自然
強制するとは、人に対して自分の思う意思を通そうと無理に強いることをいう。そうすると、相手も当然、自分の意思を持っているから、そこに両者の軋轢が・・早い話、摩擦が・・、ちっとも早くないが、新幹線ほどの速度でお分かりいただくなら、トラブルが・・生じることになる。トラブルは現代社会ではもはや、英語ではなく和製英語的に常用されているから、早く分かっていただけるだろう。まあ、そんなことはどうでもいい話だが、強制せず自然の流れに任せれば、コトは案外、スムースに、しかも早く片づくことが多い。…スムースも、もはや和製英語だが、これも、どうでもいい話だが…。
北風が身に染みる夜の10時過ぎのオデン屋台である。一人の湿気た外見の男が床机に座ろうとした。
「すみませんねぇ~。今日はもう、店じまいなんで…」
「チェッ!」
店の親父に断られると、その男は捨て台詞を残し、去っていった。強制して無理に客になろうとした訳である。その数分後、今度は通勤帰りの男が、首筋を揉みながらやってきた。屋台の暖簾を下ろそうとしていた親父の後ろ姿に、男は小さく声をかけた。
「終わりでしょうね?」
「あっ! これはこれは東崎さん! 今夜は随分、遅いですなぁ~」
東崎はこの屋台の常連客で、いつもは7時頃に顔を見せる客だった。
「ははは…困ったことに急の仕事が入っちまって、残業ですよぉ~」
「それはそれは、ご苦労さんでした。よかったら、やってって下さい」
「いや、悪いなっ、それはっ! 終わりでしょ?」
「ははは…いいんですよ。いつも寄っていただいてるんですから。小一時間くらいはっ」
「そうですかっ? それじゃ、冷やで一杯! それといつものやつを適当に…」
「へいっ!」
東崎は自然と客になった。
これが強制と自然で生じた逆転の結果である。
完




