-40- 上下関係
戦国時代は下克上の時代と、よく言われる。身分にかかわりなく、弱者も強者もない時代である。強い立場だからといって安心は出来ない。今でいうクーデターというやつで、いつ家臣に寝首を掻かれるか分からないのだ。そこへいくと、安心できるのはむしろ家臣の方である。これは逆転した安堵感の差である。上下関係で下の方が安心できる・・というのは、どう考えても逆転現象なのである。
「蕗皮さん! ちょっと、すまないがね…」
万年主任の蕗皮は課長席の生節に呼ばれた。蕗皮と生節は同期入社だったが、蕗皮の方は長期病休のため万年主任を余儀なくされ、一方の生節は、順調に出世して課長に収まった・・と、まあ話はこうなる。
「課長、なんでしたでしょう?」
「あなたには、誠に申し訳ないんだが、明日、都合がつかんか?」
「はっ? 都合ですか? 都合はつきますが、どういった都合でしょう?」
「いや、実はね…」
生節の声は急に小さくなった。生節のヒソヒソ話によれば、酢味専務の機嫌が悪かったのか怒られ、あと味がよくない・・のだという。
「はあ…それが明日の都合とどういう関係が?」
「いやぁ~酢味専務が、いたくあなたを贔屓していてね。あなた、部長と何かあったのか? 君はいいから、ゴルフを蕗皮君と・・と、こうだっ! 私はポイ捨てられた格好だよ」
「ああ、そういうことでしたか。実は家の娘が専務の息子さんと結婚することになりまして…。たぶん、それで、だと思います」
「ええぇ~~!」
生節の驚愕の大声に、課員達の視線は課長席へ一斉に注がれた。
「恐れ入ります…」
「いや! こちらこそ。どうりで最近、ひと皮、剥けられたなと思っておりましたよ。今後ともよろしくお願いいたします…」
「はあ…」
蕗皮と生節の上下関係が、美味しく逆転した瞬間だった。
完




