-33- 最強の男
プロの格闘家である黄金は、最強の男・・の名を欲しいままにし、国内に敵などいなかった。世界の異種競技格闘試合はドローに終わったが、それはそれで全世界に名声を高められたのだから、黄金としては満足できる試合だった。巷では、もはや黄金の右に出る者などいないだろう…と噂した。ところが、どっこいである。右に出る者はいなかったが、左に出る者が一人いた。その男は、黄金と同じプロの格闘家だった。黄金とは逆転して実にひ弱で、出る試合出る試合に負け続けたから、この男が勝つ日は、もはや来ないだろう。早く引退したほうが…と誰しも思った。
しばらくして、この男の話が偶然、最強の黄金の耳に入らなくてもいいのに入った。
「ほう! そんなに弱いやつがいたか…」
黄金は同じプロとして、なんとかしてやろう…と、思わなくてもいいのに上から目線で思ってしまった。そして1勝をさせるため、鍛えてやろう…と、男が所属するジムを訪ねた。
「強くしてやろう! かかってきなっ!」
「はいっ! それじゃ、よろしくお願いいたしますっ!」
男はヨタヨタと黄金に近づくと、なんの前触れもなく黄金をぶっ飛ばしていた。黄金としては、こんなはずじゃねぇ…である。フラフラとマットから立ち上がると身構えた。
「おお! なかなか、やるじゃねえかっ! 今度は手加減しねえぞっ!!」
「はいっ! よろしくお願いいたしますっ!」
男は黄金に近づくと、躊躇なく黄金を打ちのめした。黄金はマットから立ち上がれないまま、意識が遠退いた。
気づくと、黄金は病院のベッドに寝ていた。ひ弱で名が通った男に打ちのめされた・・とは絶対、言えず、黄金は病休とだけマスコミに伝えさせた。
『やつこそ最強だぜ…。なのに、なぜ負ける?』
黄金には男がなぜ負けるのかが理解できなかった。原因は簡単明瞭だった。男は有名になりたくなかった・・ただ、それだけの理由で負け続けていたのである。ならばプロになど・・と話はなるが、黄金が後々(のちのち)訊いた話では、ジムから貰える僅かな金が楽しみだったそうである。この変わった男こそ最強の男だ…と黄金は逆転して思った。
完




