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-31- 分からない
人は見かけでは分からない。まあ、ある程度は雰囲気で分かるものだが、まったく逆転した出で立ちだと見損じることがよくある。
「あんたねっ! いい加減になさいよっ! これで何度目だね。私も終いには注意するだけじゃ済まなくなるっ!」
尾頭巡査部長は、路地で寝込む浮浪者の阿羅に困ったような口ぶりで少し強めに言った。
「へへへ…旦那、そのうち、他へ行きますから…」
「そのうち、そのうちって、もう何年になるんだっ?」
「かれこれ5年にもなりますかねぇ~」
「そうそう。私がここの赤鯛交番へ赴任した頃だったからねぇ~」
「そうでしたか…」
「君が懐かしんで、どうするんだっ!」
「どうも、すいません。しかし旦那、今度のそのうちなんですがね、実は明日なんですよ。長い間、ご迷惑をおかけしました」
「明日?」
「ええ。詳しいことは言えないんですが、昨日、それなりの目処がつきましたので…」
「そう…。とにかく、よかったじゃないか。私も来年は定年だからね。これで、問題が解決した、ははは…。それじゃ、元気でな…」
「はあ、旦那も…」
尾頭巡査部長は知らなかった。何を隠そう、阿羅は公安警察の特別任務を帯びた特捜警部だったのである。密かに交番横のビルのマル秘情報を探っていたのだから、人は見かけでは分からない。
完




