-29- 山姥(やまんば)
旅人に宿を提供し、寝静まったところを食らう・・というのが山姥と呼ばれる妖怪だ。住処は山奥だそうだが、現代の山姥は、逆転してヤマンバと呼ばれる若い娘達だ。都会に棲息していて、娘ながらも、その外見はド派手な化粧を塗りたくり、髪の毛も魔物じみたところからヤマンバと名づけられたそうだ。だが、その手の娘を好物とするさらに上の妖怪もいるそうだから都会とは怖いところである。では、そのヤマンバが山奥で山姥に出会ったとしたら、どうなるのだろう?
秋の行楽のシーズンとなったこともあり、都会に少し飽きたヤマンバ達が紅葉を楽しもうと山を散策する旅に出た。ところが、麓から登り始めた道を、どういう訳か間違い、獣道へと分け入ってしまったのである。秋の陽は釣瓶落としである。たちまち陽は西山へと傾き、辺りには漫ろ寒い風が流れ、夕闇が迫ろうとしていた。
「大丈夫なのっ?」
後ろを歩くヤマンバの一人が、先頭のヤマンバの背中越しに声をかけた。
「大丈夫よっ!」
そう返した先頭のヤマンバだったが、どういう訳か突然、ピタリ! と止まった。
「どうしたの?」
「あらっ? この地図、道が消えてる…」
先頭のヤマンバは地図を凝視して呟いた。
「消えてるって、どういうことよ?」
後ろのヤマンバもそう言って駆け寄り、地図を凝視した。そのとき辺りは漆黒の闇に閉ざされ、なんとも生暖かい風が流れて山姥がスゥ~っと、どこからともなく現れた。
『ヒッヒッヒッヒッ…いかがされたかな、旅のお方ぁ~~。宿ならありますぞぇ~。泊っていきなされぇ~』
山姥は、ヤマンバの後ろから迫ると、ヤマンバの前へスゥ~~っと回った。そしてヤマンバに声をかけようとした。ところが、である。怖がらそうとした山姥だったが、世にも怖ろしいヤマンバの姿を見た途端、逆転して怖くなり、気絶してしまった。
「お婆さん、どうしたの? 泊めてくれるんでしょ?」
ヤマンバは気絶した山姥を抱き寄せ、揺り動かした。山姥は揺り動かされ、パッ! と目を見開いた。
『い、いや、泊められんっ!!』
そう言うと、山姥は慌しく風とともに、またスゥ~~っと消え去った。まさしく、有名小説[風とともに去りぬ]である。
現代に蔓延るこういった部類は、妖怪も逆転して怖れるのだ。
完




