-27- 嘆(なげ)き
生きていると、否応なく嘆きの事態が起こる。それでもまあ、喜びの事態も当然あるから、双方が心の中で上手い具合に混ざり合って相殺され、苦にはならず生きられる訳だ。嘆きが相殺されず、不消化のまま心へ溜まると、心理的な蟠りとなり、最悪の場合は自殺という事態にもなりかねない。だが、嘆きを逆転した発想で自分を高めるための人生修行・・と捉えれば、苦も楽へと昇華され、消えることになる。
「いけませんなぁ~お客さん。この様子では、どうも間に合いそうにありません」
「そんなっ! 今日中に関原野に着かないと、契約に影響が出て、父に叱られるんですよっ!」
忠秀は焦あ(せ)っていた。
「いやぁ~、そう言われましてもねぇ~。事故! 事故ですから…」
「なんとか、なりませんかね?」
「降りられても構いませんよ。ただ、高速道の真ん中ですから、次のサービスエリアまで夜間、歩いていただかないとなりません。大丈夫ですか?」
「どれくらい、あります?」
「そうですね、約30Kmというところですか…」
「さっ、30Km!!」
「まあ、歩けない距離じゃないんでしょうが、もう夜の10時ですから…。このまま車の中で眠られた方が…。携帯で連絡は?」
「それが生憎、先に出た秘書のカバンに入れ忘れまして…。ああっ! あと30分、早く出るべきだった!!」
「ははは…30分ですか? 早いと、逆転して事故にお会いでしたよ。モノは思いよう、よかったじゃないですか、今のままで」
忠秀は運転手の言葉を聞き、嘆きをやめ、しばらく沈黙した。そして、納得したできたのか、また口を開いた。
「そうですよね! 死なないでよかったんですよね、死なないで。ははは…怒られるくらい、どうってことないですよね。どうってことない、どうってことない!」
忠秀は自分に言い聞かせたが、そこは嘆くべきだった。次の日、事態が、どうなったかまでは敢えて書かないが、より忠秀の嘆きが大きくなったことだけはお伝えしたい。
人は嘆くときには嘆き、鬱憤を晴らすことが肝要ということになる。
完




