-16- なにがなんでも…
一つのことに意固地となり、なにがなんでも…と焦って重く考えると、首尾よくコトが運ばなくなることが多い。こういうときは、思考を逆転して一服の茶を啜る・・などといった心に落ち着き、ゆとりをもたせてからふたたび始めると、スゥ~~っとコトが終わってしまうものだ。
「樋代床さん、そう目くじらを立てられず、明日にされればいかがですか?」
昼過ぎから始めた数値合わせの作業が思うに任せず、樋代床は意固地になっていた。それを見かねた新入社員で後輩の尾多福が声をかけたのだ。
「いや! これだけはやってしまうよっ!」
分担した尾多福の方は疾うに終わり、帰り支度を始めていた。課長以下、課員もすべて帰り、営業課内には二人以外、誰も残っていなかった。樋代床からすれば、新入社員に先を越され、面目丸つぶれといったところだ。それに尾多福の言葉は嫌味に聞こえなくもない。ここは、なにがなんでも…やってしまわねば格好がつかなかった。
「じゃあ! 僕はお先に失礼しますっ!」
「ああ、お疲れっ! ご苦労さん!」
笑顔でそう返したものの、樋代床の内心は腹立たしく震えていた。その腹立たしさは尾多福にではなく、不甲斐ない自分に対しての憤りだったのである。
「さっき買った缶コーヒー、置いときますねっ。じゃ!」
尾多は福格好よく去っていった。デスク上に置かれた一本の缶コーヒー。それに目を留め、樋代床は、まっ! 飲んでからにするか…と、ひと息入れることにした。急いでも合わないものは合わない・・という諦めの心と、ここは気分も新たに…と思えたからだ。この逆転の発想が、僅か十数分後には数時間かかっても合わなかった計算をピタリ! と合わせたのだから不思議といえば不思議だった。
まあ、なにがなんでも…と力んで重くならず、人生は軽くいくと上手くいくようだ。^^
完




