-13- 空腹感
[悪い出来事もいい方向に捉え、さも、よいように逆転して話すと、妙なことに悪い出来事がいい出来事へと逆転する傾向が顕著となる。それは、見えない雰囲気に影響するところが大きい]との妙な学説を唱え、研究所で研究を続ける日上教授という風変わりな学者がいた。
「先生! 腹が減りましたね。…そろそろ、出前を注文しましょうか?」
「君は、よく腹を減らすねぇ~」
「いや、ははは…」
日上にそう窘められ、助手の天常は立場を失い、笑いながら椅子へ座った。
「腹は満たされている・・と思えないかね? そうするとだ。私が研究している空腹感が消えるという方向へ事態は変化するはずだっ!」
「はあ…」
師と仰ぐべき日上教授なのだが、天常は仰げず、不振の眼差しで日上を窺った。そして、店屋物の注文電話をかけないまま、時間は刻々と経過していった。そして昼の2時が回った。
「教授! 不思議なことに、空腹感が消えましたっ!」
「いや、不思議でもなんでもないんだよ、天常君。私の学説からすれば、至極、当然の現象さ、ははは…」
笑った日上だったが、笑った途端、見えない雰囲気に支配されたのか猛烈な空腹感に襲われた。今更、天常に腹が減ったな…とも言えず、日上は、減ってないぞ…と自説どおり一心に念じたが、空腹感は消えるどころか益々(ますます)、猛り狂っていった。
「あっ、しまった! 急用を思い出したよ、天常君。戸締りは頼んだよっ!」
日上は慌しく研究室を出ていった。
「どうしたんだろ、教授?」
訝しげに日上が出ていったドアを見ながら、天常は首を捻った。その頃、日上は大学生協の売店で買った菓子パンを、かぶりついて飲み込んでいた。
天常の空腹感が消えた一方、日上は見えない雰囲気に支配され、さらに逆転した空腹感に苛まれた・・というお話である。日上の学説は正しかったのである。
完




