-11- しまった!
人が生きていく上で失敗は付きものである。まさか…と思っていたことが逆転して悪くなったり、または正反対の結果を招いたりと、人生はとかくそうしたものである。だから、しまった! と悔やんだことも、強ち、悔やまなくてもよかった・・と逆転することも起こるのだ。
ここは、とある神社の境内に設けられた社務所前の御神籤台である。参詣を終えた男がガチシャガシャと御神籤筒を振り、三度目の御神籤を引いた。出てきた竹籤の先には、[凶]の墨字が記されていた。
「チェ! 凶しか出ねえんじゃねえかっ!!」
そこへ、神社の宮司が偶然、通りかかった。これ幸いと、男は宮司を呼び止めた。
「あの~~っ!!」
「はいっ! なにか?」
「この御神籤、[凶]しか入ってないんじゃないですかっ!?」
「いえ、決して、そのような…」
「だって、三度引いて、三度とも[凶]ですよっ!」
「どれどれ…」
宮司がガチシャガシャと御神籤筒を振って籤を引くと、中から[大吉]と書かれた竹籤が出てきた。
「ほらっ! でしょ?」
「怪しいなぁ~…」
訝しげに男は宮司から御神籤筒を受け取ると、また振って籤を引いた。中から出てきた竹籤は、やはり[凶]だった。
「ほら、ねっ!」
「いえ、これは偶然ですよ!」
「いやぁ~、私には、そうは思えない。嫌だなぁ~、怖い怖いっ!」
「お詣での方、[凶]はなにも悪い八卦卦とは限りませんよ。今が最悪の凶と逆転してお考え願えれば、それでよろしいかと…」
「どういうことです?」
「ですから、今が最悪ならば、これからは吉事が起こるとお考えいただければ…」
「ああ、なるほどっ! ということは、これからは吉だと!」
「そうそう! そうですよっ!」
男は嬉しそうに御神籤筒を置き、社務所で料金を支払って凶の[おみくじ]紙をもらうと、有難げに懐へ入れた。
「またお詣でくださいませ…」
朗らかに立ち去る男の後ろ姿に、宮司はひと声、かけた。そして男の姿が消えたとき、宮司は、「しまった!」とひと声、発した。
「凶の[おみくじ]は、木に括りつけてお帰り願うのを言い忘れたわい。凶事が起らねばいいが…」
宮司の心配を他所に、男にはそれ以降、逆転した吉事が続いたということである。
完




