-1- 逆転試合
テレビ画面にはプロ野球中継が映し出されている。枯葉は風呂上りのビールを飲みながらポカ~~ンと、その画面を眺めていた。公平な立場から、ここでは敢えて実名は出さず、仮にAチームとBチームの試合としておこう。
回は4回の表、先攻のBチームが1アウト3塁の好機に犠牲フライで1点を入れた。観ている枯葉としては、おお、入れたかっ! くらいの軽い気分で、Bチームを応援している訳ではないから取り分けて喜ぶでもなく、当然、興奮もしなかった。ところが、観ているうちに[判官びいき]という日本人独特の気分となり、枯葉は得点されたAチームに肩入れしたい気持に傾いていった。夕飯は終わり、風呂も入ったあとだった。加えて、この夜は妻へのサービス日ではなかったから、精を吸い取られない安堵感が加味され、時間のゆとりも、たっぷりとあった。枯葉は次第にテレビ画面へ埋没し、試合に釘づけとなっていった。
試合は両チームの投手の出来がよかったせいか膠着状態となり、回が流れていった。7回の裏、後攻のAチームが2アウト2塁でタイムリーヒットを放った。1-1の同点となり、枯葉は思わず、ふふふっ、よぉ~~っしぃ!! と興奮の声で叫んでいた。妻はすでに寝室の人となっていた。たぶん、今頃は高鼾だろう…と、絶対に本人の前では口に出来ないような怖ろしいことを思うでなく浮かべながら、枯葉は冷蔵庫へ追加の缶ピールを取りに歩いた。チェンジして8回の表になったこともある。そのとき、だった。
『打ちましたぁ~~っ!! これは大きいっ! 入ったかっ?! 入った入った!! 場外へ突き刺さる怒涛の打ち上げ花火っ! まさしくっ、火の玉ホームランと言っても過言ではないでしょうっ!!』
興奮したアナウンサーの雄叫びのような声が大きく響いてきた。2-1となる逆転打である。冷蔵庫にビールは入っていなかった。どうも切れているようだった。
「チェッ! 逆転されるわ、ビールはないわ、 かっ!」
枯葉は腹立たしくなりながらテレビ前のソファーへ戻った。その後は悪い意味でコトもなく流れ、いよいよ9回裏となった。このまま2-1で終わると思われた2アウトで打席に立った打者に投手が投げた球がボークとなったから試合は最後の最後まで分からない。
「おおっ! よしよしっ!! いいぞっ、落ちつけっ!」
枯葉は腕を組み、そう言いながらソファから立ち上がると、ふたたび冷蔵庫へと歩いた。落ちついて探せば、もう1本くらい缶ビールがあるように思えたからである。落葉が、落ちつけっ! と思わず呟いたのは、実は自分に対してだったのである。そのとき、だった。またしても、アナウンサーの叫ぶ声が枯葉の耳に聞えてきた。
『げっ! …劇的なっ!! サヨナラですっ!! サヨナラ、サヨナラ、サヨウナラ~~ッ!!』
アナウンサーは泥酔状態になった酔っぱらいのような訳が分からない言葉を口にした。そのとき枯葉も劇的な逆転場面を迎えていた。冷蔵庫の野菜入れの下に隠れるように落ちていた1本の缶ビール・・それは紛れもなく缶ビールだった。枯葉と冷蔵庫の試合も枯葉の逆転で終わったのである。枯葉は心地よい缶ビールで喉を潤しながら、いつもは応援していないチームの勝利に酔いしれた。
完
※ 2/28 投稿文




