表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/100

-1- 逆転試合

 テレビ画面にはプロ野球中継が映し出されている。枯葉かれはは風呂上りのビールを飲みながらポカ~~ンと、その画面をながめていた。公平な立場から、ここではえて実名は出さず、仮にAチームとBチームの試合としておこう。

 回は4回の表、先攻のBチームが1アウト3塁の好機に犠牲フライで1点を入れた。観ている枯葉としては、おお、入れたかっ! くらいの軽い気分で、Bチームを応援している訳ではないから取り分けて喜ぶでもなく、当然、興奮もしなかった。ところが、観ているうちに[判官びいき]という日本人独特の気分となり、枯葉は得点されたAチームに肩入れしたい気持に傾いていった。夕飯は終わり、風呂も入ったあとだった。加えて、この夜は妻へのサービス日ではなかったから、精を吸い取られない安堵あんど感が加味かみされ、時間のゆとりも、たっぷりとあった。枯葉は次第にテレビ画面へ埋没ぼっとうし、試合にくぎづけとなっていった。

 試合は両チームの投手の出来がよかったせいか膠着こうちゃく状態となり、回が流れていった。7回の裏、後攻のAチームが2アウト2塁でタイムリーヒットを放った。1-1の同点となり、枯葉は思わず、ふふふっ、よぉ~~っしぃ!! と興奮の声で叫んでいた。妻はすでに寝室の人となっていた。たぶん、今頃は高鼾たかいびきだろう…と、絶対に本人の前では口に出来ないようなおそろしいことを思うでなく浮かべながら、枯葉は冷蔵庫へ追加の缶ピールを取りに歩いた。チェンジして8回の表になったこともある。そのとき、だった。

『打ちましたぁ~~っ!! これは大きいっ! 入ったかっ?! 入った入った!! 場外へ突き刺さる怒涛どとうの打ち上げ花火っ! まさしくっ、火の玉ホームランと言っても過言ではないでしょうっ!!』

 興奮したアナウンサーの雄叫おたけびのような声が大きく響いてきた。2-1となる逆転打である。冷蔵庫にビールは入っていなかった。どうも切れているようだった。

「チェッ! 逆転されるわ、ビールはないわ、 かっ!」

 枯葉は腹立たしくなりながらテレビ前のソファーへもどった。その後は悪い意味でコトもなく流れ、いよいよ9回裏となった。このまま2-1で終わると思われた2アウトで打席に立った打者に投手が投げた球がボークとなったから試合は最後の最後まで分からない。

「おおっ! よしよしっ!! いいぞっ、落ちつけっ!」

 枯葉は腕を組み、そう言いながらソファから立ち上がると、ふたたび冷蔵庫へと歩いた。落ちついて探せば、もう1本くらい缶ビールがあるように思えたからである。落葉が、落ちつけっ! と思わずつぶやいたのは、実は自分に対してだったのである。そのとき、だった。またしても、アナウンサーの叫ぶ声が枯葉の耳に聞えてきた。

『げっ! …劇的なっ!! サヨナラですっ!! サヨナラ、サヨナラ、サヨウナラ~~ッ!!』

 アナウンサーは泥酔状態になった酔っぱらいのような訳が分からない言葉を口にした。そのとき枯葉も劇的な逆転場面をむかえていた。冷蔵庫の野菜入れの下に隠れるように落ちていた1本の缶ビール・・それはまぎれもなく缶ビールだった。枯葉と冷蔵庫の試合も枯葉の逆転で終わったのである。枯葉は心地よい缶ビールでのどうるおしながら、いつもは応援していないチームの勝利に酔いしれた。


                  完


※ 2/28 投稿文

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ