嫌いです
今日……仕事をした。久しぶりの……
『き』
『今日』
『今日は』
『今日はあり』まで打って携帯の電源を切った……
「好きです……鷹志さん……」
と言ってみた。
返ってくる言葉はない……
瞼を閉じて……耳の中を蝉の声で埋め尽くされる
次の日には電源を切ってたのを忘れ寝坊をして誰かに送ってもらうか悩んだが……
指は勝手に『金子鷹志』と画面が出てた。
ダイヤルボタンを押して『プルルプルル』と電子音が流れる
「はい、なんでしょうか?」
と出てきて言葉が喉を詰まる
時は8時を回っていた
数秒間……沈黙が続く……
「用事が無いなら切るぞ?」
と言われ反射的に「ダメ!」と言いまた沈黙が続く……
「今、家?迎えに行こうか?」と声が鼓膜を震わせる
「え?いいんですか?」と言うと無言で『プツン』と音がした……
ツーツーツーと鼓膜を震わせる……
やっぱり無理か……とため息を吐いて仕事に行く準備をしているとまた『プルルプルル』と電子音が部屋中に流れた
「たぶん……来ない……」
と言い……電話を取り電子音が止まり一言「なにか……」と言った瞬間
「お前のマンションの前だけど……大学の時にいたマンションでいいんだよな?」
と言われた。
泣きそうになったが我慢をして「はい!」と声を押し殺して言った……
電話を切り玄関まで走って靴を履いて下の方を見ると鷹志さんの車が止まってあり……
少しだけ「このまま……このまま、この幸せな時間が過ごせれば……ずっとこの時間が過ごせれば……」と思ってしまった
仕事は順調に終わった……時間は6時が過ぎた頃……
「優斗さん……」
と1人の女が話しかけてきた……
「俺……今、忙しいから……」
俺は鷹志さんの事が気になり……追いかけようとした……
「待って!」
と手を引いてきた。
「私、結依と言います。あなたの事が好きです!」
と言った。
驚いた……正直、驚いた……
「俺、本当!忙しいから!また、君のことは後で考える……返事は来週でいい?」
と焦りを隠しながら少し照れた、その『結依』という女を後にした……
鷹志さんを追いかける。そして、見つけた。
踏切は下がってきて追いかける足も止まった
その時……鷹志さんはユミにキスをした。
『カンカンカン』と鳴り響く音……風をきって走り去っていく電車……
俺は……少しだけ幸せだった自分に浮かれてたのかもしれない……
電車が走りきって踏切が上がった後……鷹志さんとユミがキスをした場所でキョロキョロと首を振りながら周りを見ている……
こんな風に探してるのもわかってるのだろう……
「嫌いだ……」
小声で言った……
「女なんか嫌いだ!」
と大声で言った……
みんながこちらを見て笑ってる……
もう……全部……どうでもよくなってきた……
そう、心の中で少し思ってきた……
ー約1時間前ー
「もしもし……私、私、優斗さん慌ててそっちに行ったよ。ちゃんと『告白』もしたし……これであの人……紹介してくれるんだよね……『ユミ』?」