俺の名を呼べ!冷凍鈍器でブン殴る!!
俺とオオカミの戦いはなかなかハードなものだった。
何せ相手は素早い身のこなしを持つ野生の肉食獣。
大怪我を負った高校生が鈍器(?)で相手にするには荷が重すぎるのは当然の事だ。
奇跡が味方してズッコケた際にすっぽ抜けた冷凍大根がオオカミの喉元にジャストミートで詰まらなければ本当に危なかった……。
「もうちょっと知恵を絞ったピンチ脱出方法は無かったものか。吾輩誠に遺憾である。」
それは俺だけのせいじゃねえ。
「どうせ奇跡~で済ますならもっと派手な展開を期待したいではないか。すっぽ抜けた『大根』は大気圏を突破して小惑星を破壊し落下した『隕石』がハナコさんの家を直撃し、衝撃で飛んできた『デッキブラシ』がトイレ清掃員の手に渡り、記念に作られた『唐揚げ』にレモンをかけた事でハナコさんの上司が激怒し、給料代わりの『バールのようなもの』が『呪いの石地蔵』となってオオカミを呪い殺すとか。」
「わらしべ長者☆ザ・ワールドぉぉぉ???!」
そしてハナコさんに何の恨みがあるんだよ!?
だがっ……これで…これでっ……
美少女とのイチャコラタイムだあぁぁぁっ!! ぐえっへっへっへ。おおっとヨダレヨダレ。
「危ないところだったな。怪我は無いか?」
俺は緩む顔を引き締め、さり気無く襟元を整えてから自然体を心掛けて振り返る。
精巧な人形に魂が宿ったかの様な美しい少女は、頬をバラ色に染めて俺に微笑みかけた。
「ありがとございます…冷凍大根の勇者さま…」
ちょっと待てえぇぇぇぇぇ!!
「何だよ『冷凍大根の勇者』って!?」
「見たまんまの意味である。」
俺の固有名詞はパグのフロちゃんやモブのハナコさん以下か!?
「さっきは勢いで流したが、そもそも冷凍大根なんて存在は無いだろ!?」
「うっかり属性持ちが間違えて大根を冷凍するのはよくある事である。」
「マジで?!」
「大根オンリーを段ボールに詰めて運ぶ引っ越し業者があるのだ。そんなうっかりさんくらい存在するのである。…山盛りの箱の開封時に干からびた大根を見つけた時には吾輩目を疑ったのである。」
業者の方はたぶんマニュアルとかいろいろ苦労があるんだよっ!
「っていうか大根を冷凍は味を染みやすくする為に普通にやるのである。」
まるごと一本葉っぱ付きでか!? それはうっかりさんでなくても上位クラスのズボラさんだ!!
「……、あ、あの……、勇者さま……?」
そうだった。ワンコ一匹に構ってる場合じゃない!
「勝者への報酬である。存分に愉しんでくるが良い。」
フロちゃんがパグの癖に冷めた半眼で俺を見る。
「お前に焼き餅焼かれてもな。水も滴るセクシーお姉さんにでもなって出直して来いよっ。」
まあ、全く嬉しくない訳でもないぞっ☆
次回、「俺と美少女でラブロマンス~濃密な花園のひととき~」編
乞うご期待!!
全 略 。
「さあ、フロちゃん…魔王を倒しに行くぞ!!」
「貯まった録画ドラマをまだ消化してないのである。」
(念のため)金髪美少女とのラブロマンスシーンはありません。