オークに転生させるなんて聞いてないんですけど。
勢いで書いた。本当にごめんなさい。
俺は森の中に突っ立っていた。
オーク。
ベオウルフの叙事詩にその姿が見られた架空の怪物。ゾンビに似たグレンデルの一種として描かれそのときの名はオーク=ナス、意味ではオルクスの死人ーーローマ神話のハデスの別名がオルクスだーーとされている。
また、オルカという海の怪物が語源でありオークは海の生き物という説もある。これは大プリニウスの博物誌から理由が来ている。
そして現在の、特に日本での人型としてのオークを形付けたのはかのトールキンである。指輪物語の中で敵役として登場する美しくないものしか想像できない生物としてオークは描かれている。
まとめるなら。
破壊活動大好き暴力行為大好きで死人だったり海の生き物だったりする多分恐らく精霊、というところだ。
そんな生き物に転生したい人間がいるだろうか?日本人的に言えば下半身直結系ビースト男子である。普通に嫌だ。
だが。
「オークはオークでも……樫の木じゃん!」
人型はおろか動物ですらなかった。
なんで俺がこんなことを叫んでいるか。そもそも樫の木なら喋れねーだろ、とか。そんな不思議の理由は簡単だ。
転生したんだよ。
ある夏の日。俺は学校で勉強していた。
俺の学校は結構古くて築84年とかだった。そろそろ建て替えろよとか地震が起きたら確実に死ねる高校ランキング県内1位とかいっそ雷でも落ちて燃えないかとか生徒が言いたい放題言うレベルでボロかった。
そんな学校の備品はもちろん軒並みボロい。それはもう理不尽なほどにボロい。運動部の腕力じゃないと開かない扉とかザラだった。流石に各教室はそこまででもなかったけど。
ボロいってことは壊れやすいってことでもある。
簡単な言えば突然壁についてた扇風機がぶっ壊れて、羽根がぶっ飛んできて、俺の首をぶっ飛ばした。
それだけである。
あとあとで大事件になったんじゃないかな。俺からしたら気がついたら死んでた、くらいなんだけど。
それで気がついたら神界にいた。
そして俺をうっかり殺してしまった神様に謝られた。
本来俺は80過ぎるまで生きて自然死するはずだったらしい。
だが神様が扇風機が壊れる時刻を間違えた所為で俺は死んでしまったということだ。
具体的に言えば午前5時32分に壊れるはずの扇風機が午後5時32分に壊れたそうな。
……12時間表示の午前と午後を間違えることってあるよね。俺も約束より12時間と5分早く現地に行ったことがあるからよくわかる。
「で、俺はどうなるので?」
「……まあ、死んじまったものは仕方ねぇ。寿命65年分を何らかの形でて補填するってーのが妥当だな」
神様でもそんなにホイホイ蘇生はできないらしい。あまり深く語れないらしいが一応やった奴はいるということだ。
どこのクリスマス=バースデーな人だろう。
「てことは転生後ボーナスが貰えるってことですかね?」
「そのとおりだ。とりあえず転生後に納得してもらわにゃ困るから記憶の引き継ぎだな」
確かにもっぺん死んでからおい話が違うじゃねーか!あれは俺の才能だー!とか言われても困るだろうしな。
「どんな世界に転生するかって決まってんですか?」
「んー、体内に大分魔力が溜まってるから魔法のある世界だろうな」
「どういうことで?」
「この世界にあっても殆ど役に立たねーから役に立つとこにセットで魔力送る」
「理解しました」
なんかわりと考える余地ねぇなぁ。
「ボーナスこっちが適当に選んで良いか?」
「いいっすよー」
面倒だし。なんかもう死んだせいか色々どうでも良い。紅茶美味い。
「じゃ、魅力、魔力、忍耐力、精神力を種族限界までにセットしとくわ」
あ、なんか強そう。カッチカチや。
「これでよし……あ、折角だから美女に出会える可能性を限界まで上げといてやろう」
「お、嬉しいですねー」
「ま、次の世界で男は限らねーけどな」
「なんですと!?」
俺が素っ頓狂な声を上げると神様はカラカラと笑った。
「嘘だ。次に転生する種族に女はいねーよ」
「……え?」
「お前が次に転生する種族、オークだから」
「聞いてない!」
「言ってないからな。因みに理由はお前が前世で全然子供作らなかったからそのリバウンドだな」
「それこそ知らねぇ!」
そんな俺の叫びを残して神様は俺を転生させてくれやがった。
……しかしこれは酷い。適当過ぎだろ流石に。
樫の木とか。
寧ろこれじゃ樹精霊じゃねーか。樹精霊もトールキンが作……あ、違うそれエントだ。
つか何、樫の木って。ドングリ食べたいの?豚かよ。オークは豚だよ。何故食べられる方のオークなんだよ。
「ファアアアアアアアア!」
どうすんだよこれ。どう考えても動けないじゃん。こんだけ高くても意味ねーよ。ざっと8メートルくらい?
……あれ?なんで俺、俺の身体を客観的に見れてんの?
あ、身体あるじゃん。透けてるけど。よかったー。身体あって。これでご飯たべれるね。
「いや、これ完全に樹精霊だから!豚人間じゃないから!」
しかも飯とか食えねーよ!てか光合成で事足りるわ本体植物なんだから!
「ちょっと!うるさいわよ!」
「あ、すみません」
どうやら騒ぎ過ぎたようだ。なんだか透けてるおねーさんに怒られた。
「ん?」
「どうしたの?」
目の前の女性をじっと見つめる。
胸はでかい。なんか全体的に青い。それに胸はでかい。目鼻立ちはすっきりとして美人だ。で、胸がでかい。下半身が溶けてなんか虚ろだ。
「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆ幽霊!?」
誰か!ゴースト掃除機で吸い取りますよ隊連れてきてー!
「失礼ね!私は水精霊よ!幽霊なんかと一緒にしないでちょうだい!」
ん?水精霊?
「生きてる?」
「生きてるわよ」
「死んでない?」
「死んでないわね」
「夢に出てこない?」
「出てこないわよ……というか水精霊が夢に出てきたら吉事よ」
「よかったー!俺幽霊だけは怖いんだよねー!殴れないから」
あ、でもどのみち今の身体じゃ殴れないね!てへ!
「あ、じゃあ水精霊さんよろしく」
「あなたね。精霊には縄張りがあるのよ?生まれたばかり見たいだけどーー」
「いや、親切そうな先輩に会えて良かった!俺、樹精霊!よろしく!」
「あの、ここ私の縄張りだからーー」
「そうだ!お近づきの印にドングリとかいりません?」
「話を聞いて!?」
……これが2年後俺の嫁さんになる。先輩、ウォンレイさんとの出会い。
先輩の住んでる泉の中に聖剣が眠っていてその泉の水を吸って育った樫の木が光、土、水の三属性を操る精霊になってエルフに崇められたり、切り出した枝が世界最高の杖になって魔王を打ち倒したりするけどそれはまた別の話。
続きはまたいつか。この樫の木が枯れたら話そうか。
世界樹にランクアップしたこいつは世界滅ぶまで枯れないけど。