歪んだ形で愛してる「親」(掌編)
ふと口の中から鉄の味がすることに気がついて目が覚めた。
最初に目に入ったのは真赤な手。
血、そうそれはどう見ても血だった。
血―、人に流れる赤き生命の水。
それは人に流れているもの、ならこの血はどこからデテキタノダロウ?
目―、物事を映像として認識するための器官。
部屋の中央に転がる二つのモノ、よく見ると少し前までヒトと呼ばれているものだったとわかる。ならあれは誰だろう?
脳―、それは思考と記憶を司る知識の泉。
ここは家、自分の部屋、目の前にあるのは自分の親だったモノ。根元から引き千切られた腕から骨が覗いていて、足も片方しか無く、頭は床に転がっていた。こんなものをヒトと呼んでいいのだろうか?
殺した。朝いつも寝坊する私を苦笑しながらも起こす母を。この私が。
壊した。今日もゲームをやろうと子供のようにはしゃぎながら言っていた父を。この手で。
貫いた。夜突然泣き出した私を見に来た彼らを。この腕で。
食べた。泣いている私を優しく抱いてくれた両親を。この口で。
甦る記憶が、顔面を蒼白にしている親の腹を手刀で突き破り手が肉を貫く感触を思い出させる。彼らの口が吐き出す血の量は既に手遅れの域まで達していた。
意識が掻き消えようとするのを必死でこらえて、親は自分を見つめて「ごめんなさい」と呟いた。彼らの顔に浮かぶ表情は恐怖でも憎しみでもなく、九年間育ててきた娘を慈しむものだった。そして二人は闇の中に沈んでいった。
そんな 彼らを 私は 泣きながら 食べた。
喉が擦り切れるほど叫んでも悲鳴が途切れることはなかった。
悲鳴が止んだ。
彼女は自分の中に笑顔の両親を見つけ、安堵した表情になって眠りについた。
あぁ、これが私の愛のカタチ。