見習い教徒のお話
登場人物の名前無しで話を進めようとしましたが、登場人物の増加によりやむなく名前をつけました。
我々魔法使いと教会は古くからの深い因縁がある。
まず世間に広く知られている『魔女狩り』。
あれによって殺された者のほとんどはただ変わった薬を作っているだけの偽者だが、それは本物である我々を消すためのカモフラージュである。
彼らは魔法を使う我々を消す。
殺すのではない、消すのだ。
つまり彼らは我々の存在をなかったことにしたいのだ。
本当は彼らは殺したくて殺しているわけではない。
ただ我々の、正しくは我々の持つ力のせいで神というものの信頼が揺らいでしまうからだ。それは彼らにとって重要なことなのだ。
だが最近になってその考えは変わってきている。
簡単に言うなれば、我々はもはや彼らにとって絶対的な悪となってしまったのだ。
それにより彼らの我々を見る目は前より険しくなり、より一層その攻撃は過激になっていった。
しかしその時は我々も黙っていたわけではない。
同胞を殺す彼らを我々はたくさん殺した。
そんなことをしていた時、私はあることに気づいた。彼らも魔法を使っていたのだ。
私は敵の一人を捕獲し質問した。『お前達は魔法を使う我々を殺す。それは我々が魔法を使っているからだ。では何故お前達が魔法を使っている?』と。
すると向こうは言った。『これは魔法ではない。これは神が神を信じる我々にくれた加護なのだ。そして神は言った。私の力を真似た者達がいる。その者達に私に代わって制裁を加えてほしいと言った。我々の力は神に授かった物、決してお前達のような野蛮な力などではない』と。
その後彼は舌を噛みきり自害した。仲間が治そうとしたが私は止めた。何度やっても彼はまた舌を噛みきるだろう。
しかし自害も躊躇しない集団、そんなものを教会は作っていたのか。我々も十分注意しなければ。
我々の敵の組織が一部判明した。
まず最初にヨーロッパを中心としたキリスト教。彼らはイエスを神のようなものとしているらしいが、一度その教会へ行ったら、なんとそのイエスを磔にしている像を飾っているではないか。これでは本人がいたたまれない。
そのキリスト教が使っている魔法のようなものだが、なるほどたしかに我々の魔法とは違うようだ。
さらに調べてみたころ、彼らの魔法は『白魔術(法)』、我々の魔法は『黒魔術(法)』と呼ばれているらしい。
白や黒と分けているようだが、結局は同じ魔術、そこに良いも悪いもないだろう。だが人間はどうしてもそう二極化したがる。さらにタチの悪いことに自分達を良い方に置きたがるのだ。
他にも我々を狙う輩がいるがその中で私の目に入ったのは一つだけだった。
それは『正教』。表向きにはキリスト教の一部なのだが、実際はそうでもなく『ロシア正教』というのが中心となって新しい勢力として活動している。だからキリスト教との仲が非常に悪いらしい。
とにかくロシア正教には気をつけた方がいいだろう。今はほんの少しの人数しかいないが、そのうち強大な勢力となるだろう――
『魔女狩り』
『著者、エルリーゼ・アルファーム』
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彼らはロシアの首都モスクワに着いた後、いつも通り徒歩で旅をしていた。彼らは計画通りに旅を進めているが、二つほど予想外だったことがおきてしまった。
「……思ったより暖かいですね」
「あたりまえ」
今の季節は夏ごろだ。たとえ地球の上に近いところにあるからといって、四六時中寒いわけではない。
「しかしこの前は砂漠にいましたから、気温差で寒くなると思っていたのですが」
「気温は二十度。寒いわけない」
「……さすがロシア、広いですね」
隣にいる少女の言葉を無視して、彼はこの国の感想を述べた。少女の言うように、今の気温は二十度、寒くもなければ暑くもない。だがローブを着ていることもあって、彼の顔から汗が流れる。
そしてもう一つ予想外だったこと。それは空港にいる人がとてつもなく少なかったことだ。いや、少ないというより、ほとんど無人だった。たがあまり目立ちたくない彼らにとっては、むしろ好都合だった。
そして、今彼らがいるのは、モスクワ郊外の『アルハンゲリスコエ』という庭園。道の横にはたくさんの緑の木々が根を張り、この季節と天気も合わさってとても美しく見える。今は人は二人だけで、怪しまれるといったことはない。
「……次はどの国に行きましょうか」
「もう飽きたの?」
しかしせっかくロシアに訪れたので、二人はモスクワをうろうろすることにした。
「くそっ、くそっ!」
大きな教会の近くで、誰かが薪を割っていた。そこには目から涙を流している子供がいた。十五歳くらいの見た目で、子供の口からは誰かに対する罵倒が漏れている。子供は薪を縦に置いては斧で割ることを何回も繰り返している。
すべて薪を割り終えたころ、空は黒く染まっていた。今の季節は夏だが、昼と夜の気温差が大きいため寒い。さらに風によって子供が感じる温度はさらに低いだろう。子供の手は震えかじかんでしまっている。
子供は斧を肩に担ぎ教会へ帰ろうとすると、教会の方から誰かがこちらに来るのが見えた。その真ん中にいる人の顔を見ると、子供は舌を出し苦虫を噛んだような顔をした。
「よぉライオット。薪割りご苦労さん」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらその少年はこちらにやってきた。
そしてその声を聞いたライオットという、ここで薪割りをしていた子供は、よりいっそう顔を険しくさせる。
「なんだよジャフ。用がないなら帰ってくれないか」
「ああ? オマエ俺様にそんな口叩いていいのかよ」
ジャフと呼ばれた少年はライオットを睨みつける。ジャフの取り巻き達はジャフの後ろでそうだそうだと同調する。
「いいのかって……そもそもお前とは同い年、タメだろうが」
「はぁ!? オマエは本っ当にめでたいな! 十年に一人の天才である俺様と、落ちこぼれのオマエとを一緒にするなよぉ!」
ジャフは顔を歪め高く笑う。まだ喉仏がついていないからなのだろうが、その甲高い声に取り巻き達含めライオットも耳を塞ぐ。やっと笑い声を止めゼエゼエの息をきらすジャフはしばらく間を置き、息を調えてから話を続けた。
「いいか、もう一度言うぞ。オマエみたいな超がつくほどの落ちこぼれと、俺様のような超がつくほどの天才。どう考えたって俺様の方が有能で貴重な存在だ」
ジャフの言葉に、ライオットは困った顔をして、やれやれと言うように両手を上げた。
「なんだオマエ」
「知らないのかジャフ。世間では巨乳より貧乳の方が少ないんだぞ」
ライオットの発言に、ジャフとその取り巻き達はしばらくの間口を開けて呆然とする。そしてその意味にいち早く気がついたジャフはこめかみに青筋を浮かべ、感情のままにライオットを殴った。それに続いて取り巻き達もライオットを殴る蹴るなどの暴行を加える。
「ぐふっ」
「調子に乗るなよこの落ちこぼれ野郎! だからといってオマエみたいな奴がこの世界に必要とされるわけがないだろう!」
ジャフは横に倒れたままのライオットの顔に唾を吐き、取り巻き達と一緒にライオットを蹴り始めた。
「白魔法も使えないグズがっ」
彼らはライオットを蹴るのを止め、薪を持って教会へ戻った。
「へへ、確かにそうだな」
ジャフが戻ってからしばらくした後、ライオットは手を膝に乗せて体を支えながら立った。
「確かに白魔法の才能はないな」
ライオットも口についた血をふき、斧を担いで教会へ戻った。
「「……」」
そして森の中、彼らのやりとりを終始見ていた者が二人。
「どうしましょうか」
「どうしようもない」
彼は少女に聞いた。返答はそっけないものだった。
「どうもこうも、アイツは向こうの人間。私達が介入すれば、戦争になるかも」
「彼一人でそんなに大袈裟なことにはならないと思いますが」
「彼らは私達を殺したくてたまらない。それはもう目で射殺さんというほどに」
教会の中に魔法使いと見れば我先にと殺しに行く者達がいる。特殊な例を上げるとするなら、教徒は発見した魔法使いにストーカーを始め、魔法使いにわざと自分の存在に気づかせ、じわりじわりと魔法使いの心を壊していったとか。それほど教会にとって魔法使いとは憎き宿敵なのだ。
「なんとか彼をこっちに取り込みたいですね」
「うん。下っ端でも一人の教徒。情報の一つは持っているはず」
「ならば少し様子見しましょうか」
「ん」
ライオットは親の顔を知らない。
ライオットは乳飲み子の頃に今住んでいる教会の前に捨てられていたのだ。
だが別にライオットは自分を捨てた親のことは全く憎んでいない。捨てなければならない理由があったのかもしれないし、憎んだところでどうするのだ、という親との再会を半ば諦めたような気持ちがあったのだ。
それに教会にも恩があるのでたとえ捜そうと思っても教会から離れられない。それならここで教会の役に立とうと思ってライオットは教徒になろうと決意した。
だがそこでライオットに絶対に越えられない壁が現れた。
教徒となるのは誰でもできる。しかしもっと上へ行くために必要なものがある。それは魔法の才能だ。教会内で上へ行くほど魔法との関係がより強くなっていく。その過程で教会の敵である|悪魔(魔法使い)達と戦う技術がなければならない。そんな時のためにも魔法というものは上の位の教徒にとって必須の能力なのだ。
しかしライオットにはその魔法の才能がなかった。結果ライオットの教会内での地位は最悪なものとなった。
『自分は白魔法の勉強で忙しい。だがお前は白魔法が使えないんだから自分の代わりに掃除をしろ』と命令され、魔法が使えるが才能がほとんどない教徒達に鬱憤の捌け口とされ、挙げ句の果てに教会のシスター達にまでゴミを見るような目を向けられた。
だが、そんな毎日が続いても、ライオットは教会に居続けた。
「失礼します」
そう言って、ライオットは部屋の扉を開けた。
そこは教会の図書室。その中はとても広く、上の階にまで本が並べられている。
図書室といっても、そこは一般の人の立ち入りが禁止され、教会関係者のみ許されている。
図書室の管理人は中に入ってきた人間を見てすぐさま顔をしかめる。魔法が使えないライオットにとっては、図書室は無用の産物だ。
「ライオット君、ここに君が欲する本はないと思うのだが」
管理人はライオットにそう伝える。ぶっちゃけさっさと出ていって欲しいと管理人は思っている。
「いや、せっかくこんなに本がたくさんあるんだから、読まないと損だと思いまして」
必要ないだろ、お前には。
その言葉を飲み込んだ管理人は笑顔で「そうですか」と言って、カウンターの書類を整理し始めた。
ライオットは本を読むのが好きだ。
何故なら、そこには様々な人間の考え方が書かれているからだ。
白魔法についての研究もそうだ。一という答にたどり着くまでの過程が考えた人間によって違いがあるのだ。そこには考えた人間の性格や環境といったものがあるに違いない。その違いを見るのが、ライオットにとって本が好きな所の一つだ。
だがライオットはただ単に、好きだから本を読みに来たわけではない。
白魔法研究者
それがライオットが目指しているものであり、本を読む理由でもある。
白魔法研究者とは、その名の通り白魔法について研究する教徒のことである。ロシア正教内では百人に一人の割合が研究者である。白魔法の適性がない者は研究者の中にはいないが、それ以外にしかライオットにとって教会の役に立つ方法がないのだ。
「道のりは険しい、けど」
ライオットはそう呟き、本のページをめくった。
ライオットが今まで読んだ本の中で、一番多く記述されていたのは、魔法使いという悪魔についてのことだった。
曰く、彼らは黒魔法という教会が使う白魔法とは対極の悪しき魔法を使い人間を殺すとか。
曰く、魔法で人間を誘惑したり、脅したりして仲間にし、勢力を伸ばしている。などのことが書かれていた。
その後にも彼らへの私念や憎悪といったものが長々と綴られていた。そういったものに感情を左右されないように心がけているライオットだが、とりあえずライオットは魔法使いは悪いやつと考えることにした。
その後、ライオットは教会を出て行った。先輩の教徒に買い物を頼まれたのだ。
「ようライオット。顔に傷ができてるぞ、また虐められたのか?」
買い物の途中、後ろからライオットに声をかける人がいた。振り向くと、中年くらいの気さくそうな男性が手を降ってこちらを見ていた。ライオットが自分に気づいたことを知ると、男は小走りにこちらに走ってきた。
「転んだ」
「転んだらそんな痣ができるのか? ちょっとくらいはやり返してもいいんだぞ、だってお前は――」
「気にしないで下さい。そんなんじゃないので」
男は本当の教会を知らないのだ。男は教会は神の下にみな平等に扱ってくれると考えてくれるからだ。だが厳密にはそうではない。教会にも上下関係というものがある。それでも大した差はないのだが、ライオットは別なのだ。ライオットは教会にとっては役立たずだのただ飯食らいといった扱いで、誰に何をされていようが教会はライオットを助けようとしないのた。だがそれを男には言えない。何故ならそうなっている理由が魔法の適性にあるからだ。男は魔法の存在など知らない。もし言ってしまったら、次の日から男と会うことは二度とないだろう。だからライオットは途中で話をきり、足早に男から去っていった。
「……まあ本人の問題だからね。ライオットもやる時はやると思うし」
男は帽子の位置を整え、ライオットとは反対方向へと歩いていった。
ライオットは買い物を終えて教会へ帰ろうとしていた。時間はとっくに昼を過ぎ、太陽は西に傾き空は橙色に染まってきている。
「ったく、余計なことは言わなくていいっつの」
ライオットは不機嫌な表情を隠さずに歩いている。たまに通り過ぎる人は一瞬ライオットの顔を見てしまう。ライオットはまださっきのことに怒っているが、しばらく愚痴を言うと機嫌を直した。
教会の前で、ライオットは買い物を頼んだ先輩教徒に食べ物などを入れた袋を渡した。教会に入るとさっきの先輩教徒がかなり偉いかもしれないシスターに袋を渡しているのを見た。どうやら彼女に頼まれていたのをライオットに任せたようだ。だがそんなことはライオットは気にしない。帰る途中袋の中に黒いテカテカしたのが入ったところを見た。だがアイツが買い物を頼まれたのだから自分には関係ない。むしろ相手に渡す前に中身を確認しろと学んだのだから感謝してほしいくらいだ。どこからか悲鳴が聞こえたが、ライオットは無視して部屋に戻ることにした。
夕食の時間となった。食事の時は教会のみんながいっしょになる。もちろんピンからキリまで、ライオットみたいな落ちこぼれから司教まで一同に会するのだ。この教会の司教は教会内ではライオットへの扱いが良い方に入る唯一の人物だ。だからこの時はライオットもみんなと同じ食事ができる。だがそれだけに周りの視線が痛く、あまり食べ物の味は覚えていなかった。
夜も遅くなったのでそろそろ寝ようと考えていると、先輩教徒が教会の周りを巡回してほしいと言ってきた。本当は断りたかったが、先輩に頼まれてしまったら首を横に振ることなどできない。ライオットは手渡された懐中電灯を持って教会の外へ出た。
「やっぱり夜は寒い。風も吹いてるし」
毛布とか持ってきて正解だったな。とライオットは呟きながら周りを監視する。これは別の人間がやるはずなのだが、やはり先輩に頼まれたのだがら断るものも断れない。ブツブツ言いながらも、ライオットはあたりを巡回する。
「あーだるい。もうやだなぁ……誰だっ!」
森の方から何かが動く音がした。その方向に光を向けてみると……誰もいない。だがさっきのは幻聴ではない。動物とも考えにくい。虫にしては音が大きすぎる。ライオットは音のした方へ進んだ。
そこには誰もいなかった。だが気のせいなわけでもない。
そしてまた、森の奥から音が聞こえた。ライオットは音のする方へ音のする方へと進んで行った。
森の中は暗かった。頭上で輝いていた星も、森の木々に隠されてしまっている。今はライオットが持っている懐中電灯に頼るしかなかった。
やはり音のした場所には誰もいなかった。だが、そこには草を踏んだ跡があった。誰かが教会をねらっている。ライオットはそう考えた。なら早く教会の人達に報告をしようとライオットは教会へ戻ろうとする。するとそこであることに気づいた。
「……どこだ、ここは」
ライオットはここがどこかわからなくなった。ライオットは方向音痴ではない。もしそうなら教会の巡回や買い物は引き受けなかっただろう。では何故迷ったのか、周りを観察して、必死に頭を回す。
「……先輩、いるんですか?」
ライオットの後ろからゴソゴソと音がする。そこにはライオットに買い物を頼んだ先輩教徒がいた。先輩教徒は両手を上げてライオットに近づいてきた。
「いやいやまいった。どうして私とわかった?」
「昨日の薪割りと今日の買い物。どちらも時間を食う上にそれほどきつくもない仕事をやらせた。どう考えてもそれをしている間に何かしているに違いない。決定的なのが巡回のこと。普通なら別の人達がやるはずなのに、その人達が誰一人いないのにそれを誰も怪しく思っていなかった。どう考えても何かやろうとしてるだろ」
「フフフ。そうだ、では何故君をのけものにしたかわかるかい?」
「……」
「それはね、君を殺すためさ」
先輩教徒が指を鳴らすと、周りから白装束の人間達が現れた。彼らは片手に杖を持ち、それをライオットの方向に向けている。
「おいおい、たとえ落ちこぼれでも一人の教徒だぜ。そんなことしたらどうなるか……」
「君はもう教徒じゃない」
「……はぁ?」
「君は教徒ではなく、我々の怨敵である魔法使いの手先だ。そしてそれを突き止めた我々はあくまで内密に君を抹殺することに決定した。ちなみにこれは教会の総意である。わかったかい?」
「……最初っから期待してなかったんだな」
「ん? そりゃそうさ。そもそもどこの子供かもわからない君に教会に就かせるわけにはいかないし、才能がないやつに生きる資格はない。才能のない教徒はどうなったか君は知ってるかい? 才能がなければ残る希望は白魔法研究者しかない。だが彼らの中にそんな落ちこぼれはいない」
「っ!」
ライオットは下を向いて両手を震わせている。手を強く握っているせいで血が滲み出てくる。元先輩教徒は杖をゆっくりと下ろした。すると杖から炎が飛び出し、ライオットを囲むように円形に移動していった。これではライオットは逃げられない。
最初っから期待されていなかった。いや、そもそも俺の人とすら思っていなかった。
ライオットは走馬灯のように思い出す。ジャフとその取り巻き達に殴られたこと、シスターに陰口を言われたこと。
「……ハハッ。良いことなんて、一つもなかったなぁ」
ライオットは涙を流しながら天を仰ぐ。
白装束の人間達は一斉にライオットに襲いかかった。
『させませんよ』
ライオットの近くを中心に風が吹く。風は勢いよくライオットを除く周囲の人間に向かい、教徒達を吹き飛ばした。そして周りの炎も消してしまった。
「ぐ、お、おまえは!?」
「魔法使いですよ」
ライオットの隣に二人の人影が見えた。一人は肩くらいの長さの杖を持ち、茶色いローブを身につけている。顔は口の辺りしか見えないが、四~五十くらいの男性だろう。そしてもう一人、黒いローブを身につけた女の子。顔は見えないがそこから長い髪が見える。年齢は十代前半くらいだろう。
「『魔法とはそれを使う者のイメージが具現化したものである。なので綺麗な心を持つ者が使えばその魔法は一見幻想的に見え、逆に汚い心を持っていたら、その魔法は禍々しいものとなる。
ギュスター・アベルタス』。正にその通りですね」
「侵入するのに苦労した」
「ま、魔法使い! まさか本当に現れるとは。……ここは引くぞ!」
「懸命でしょう。貴方達は我々を殺す部隊ではありませんから」
白装束は教徒殲滅部隊。つまり彼らは教会の人間を殺すために訓練したのであって、魔法使いとの戦闘は想定していない。分が悪いことを悟った彼らはすぐに去っていった。そして森の中にはライオット含む三人が残った。
「魔法使い……」
「ええ、私達は貴方を助けるために現れたのですよ」
「そう、一応教会の人間だったのだから情報の一つくらい持っているはず。だから助けた」
「……強くなれるか?」
「ん?」
「あいつらを倒せるくらい強くなれるか!? 教会のためにと思っていろんなことをした! 先輩のシゴきにも文句一つ言わずに耐えた! だけど最初っから、何一つ期待どころか信用されてなかった。復讐したいわけじゃない。あいつらを見返したい。あんたは今まで見てきた奴らの中で一番強い。情報ならいくらでもやる。こんな落ちこぼれでも強くなれるなら、魔法を教えて下さい!」
ライオットは名一杯彼に頭を下げる。彼は泣きながらそう言ったライオットの肩を叩き、笑顔で言った。
「元よりそのつもりですよ。貴方には魔法の才能がある。白魔法がどうかはわかりませんが、貴方なら確実に、さっきの奴らより強くなれます」
今ここに、魔法使いの初めての弟子が誕生した。
ライオットは涙で崩れた顔を途端に笑顔にして、再び魔法使いに頭を下げた。
「では弟子よ、貴方の名前を教えて下さい」
「はいっ! 私の名前は『リューシャ・ライオット』です!」
「え」
「? なんですか?」
性別をどちらにするか考えたのですが、これからおっさんが増えてくると思うのでそっちにしました。