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Heretical Magician  作者: 藤高 那須
彼らのお話
1/7

始まりのお話

 ある村に一人の男の子がいました。


 男の子はとてもかしこく、みんなにも慕われていました。


 ある日男の子の村で怪我をした人がいました。


 男の子は怪我を治す方法を考えました。


 そして男の子は怪我を治す方法をみつけ、怪我人を治してあげました。


 その後男の子は火がおこせないので火を操る力を手に入れ。


 喉が渇いた時は水を飲むために水を操る力を手に入れました。


 後に男の子はこの力を『魔法』と名付けました。


 それを見た村人は男の子を称賛し、魔法を男の子に教えてもらいました。


 そして村はとても豊かになりました。


 そして魔法が世界中に広がり、みんなが笑顔になり、男の子は人々から英雄のように崇められました。


 そして男の子は幸せに暮らしました。





++++++++++++++++++++++++++






「何だこれは!」


 黒いローブを着た男は持っている本を地面に叩きつける。

 その男のいる部屋は洞窟のような場所で、周りは数本の松明とロウソクがついてるがそんなに明るくはない、そのせいか男の顔ははっきり見えない。

 中心には丸テーブルと数脚の椅子があり、どれも使い古されたようにぼろぼろである。


「い、いやしかし世間ではこれが一般的な内容でして……」

「気に入らんわ! そもそも本当の伝承と全く違うではないか!」


 同じく黒いローブを着た男が怒っている男をなだめるが、それでも男の怒りは収まらない。


「し、しかし世間に広めるにはこう内容を変えなければならなかったのでは……」

「たしかにそれはそうだろう。だがこれはおとぎ話の類ではない、れっきとした歴史なのだ。歴史は人々が受け入れやすいように伝えるわけではなく、そのまま正しい内容を教えなければならない。こんな風にすべてが良い方向に行ったり幸せになったで終わるわけではない。今までにこんな失敗もあったと教え、これを後世に伝えるために歴史を人々に伝えるのだ。なのにこれを人々に受け入れやすいように改竄するというのは歴史に対する冒涜だ!」

「ヒィッ、お、お気を確かに」


 男は壁に向かって火の玉を放つ。それを男が止めようとするが抵抗むなしく壁にあたる。そして火の玉が壁に当たると上から土や埃が落ちてくる。


「フンッ、俺は戻るぞ」

「ハイ、それでは」

「あと、それの内容をしっかり正すんだぞ」


 男はそう言うとどこかへきえていった。

 ここに残っているのはもう一人の男だけ、そしてその男は近くにあった椅子にすわりフゥとため息をつく。


「しかしどういうことでしょう、これはただの人間が書いた絵本なのに、ひょっとして実話があるのか? 我々の魔法の原初が……」


 男はそう呟いたが、その疑問に答える者はここにはいなかった。





++++++++++++++++++++++++++





 むかしむかしある村にひとりの女の子がいました。


 女の子の家族はとても貧乏ですが、子供はたくさんいました。


 女の子はその中で真ん中くらいの子供でした。


 しかし女の子の体はとても弱く、家族の手伝いが出来ませんでした。


 ある日の夜、女の子は親の話を聞いてしまいました。


 その内容は女の子をお金持ちに売る相談でした。


 貧乏な生活に体の貧弱な子は足手まといにしかなりません。


 さらに女の子はとても綺麗だったので、お金持ちはほっとかないだろうと考えました。


 それを聞いた女の子はとてもおびえました。


 そして家族に売られないよう必死で自分は何か出来ないか考えました。


 そして女の子はある『力』を手に入れました。


 そして女の子は家族に売られないためにその力を使いました。


 しかし現実はそんなに甘くありません。


 それを見た家族はとても恐怖しました。


 ひょっとして女の子は悪魔の使いなのではと思いました。


 それを聞いた女の子は怒りません、泣きません、笑いません。


 女の子は家族を馬鹿にしました。


 こんなすごい力があるのに自分を悪魔の類だと考えこの力のすばらしさをまったく理解していない。そんな家族を女の子は馬鹿にしました。


 そして女の子は村から出ていき、自分の力を理解できる人間にその力を教えました。


 後にその力は『魔法』と呼ばれ、人々はその力を持った人々を悪魔と言ってみんな殺しました。後の『魔女狩り』の始まりです。


 そして人々はその力を恐れ、歴史から消し去り、今はもう魔法は空想上のものと思われていて、科学というものが世界に浸透していきました。


 しかし魔法を使う人間はまだ生き残っていました。


 魔法を創った女の子がまだ生き残っていたのです。


 そして女の子はまた、しかしひっそりと魔法を人々に教えていきました。





++++++++++++++++++++++++++





 そしてこれは、女の子に魔法を教わった一人の人間のお話。


 その人はとても優秀で、女の子の魔法を次々と覚えていきました。


 その人はとても残忍で、自分に襲いかかってくる者を躊躇なく殺していきました。


 その人は長い年月を経たこととたくさんの人を殺したせいで、感情というものがほとんどありませんでした。


 ある日どこかの国の戦場で、その人はある家族と出会いました。


 その家族のお父さんにあたる人が、今にも死にそうな怪我をしていました。


 その人は何の気まぐれか、お父さんの怪我を魔法で治しました。


 そしてこれ以上用はないと、その人は後ろを振り向き、どこかへ去ろうとしました。が、家族のうちの長男にたる男の子がその人を止めました。


 そしてその男の子は……






++++++++++++++++++++++++++





 ピーピー


 プーップーッ


 ブゥーン


 シャカシャカ




 歩く人、走る人、自転車に乗る人、車。さまざまな人が行き交う道路。信号が青になり、人がどんどん道路の上で移動していく。別々の方向へ進む人の波がぶつかる。それがこの場所の、いつも通りの風景だった。


 しかし


「キャアァァァァァァァァァ!」


 女性の叫び声に周りの人間はその方向へ向く。そこは銀行で、なにやら中が騒がしい。

 周りの人間はよくわかっていないが、その女性は目が良いのだろう、中の状況がわかっているようだ。


 ウィーン


 そして銀行のドアが開き、中から人が出てきた。その人は男性で大柄で黒のタンクトップと緑の柄、俗に言う迷彩の長ズボンを履いていた。そしてその男は片手に銃を所持していた。


『ウワァァァァァ!』


 数秒後、周りの人間は状況を察知したのか、バラバラと銀行から離れていく。


「ウヒャヒャヒャヒャヒャ! ここは俺達が乗っ取った! ポリ公を呼んでもいいが、その時は俺のチャカ――銃の俗語のようなもの――が火を吹くぜぇぇぇぇぇェェェェェェ!」


 男は甲高い声を上げながら銃を上空へ発砲する。

 そしてあの男が持つ銃とは別の音がすると、男は仰向けに倒れた。


『ピ――。こちらスナップ。強盗の死亡を確認。中に仲間は見当たらない。銀行内を捜索してくれ』

『こちらアレン。了解した』


 二人の無線機のやり取りが終わると、どこからか人が現れ、銀行内へ入ろうとしていた。そしてその人達が全員銀行の前に到着した瞬間


 ドシャアァァァァン


 と銀行の横から大きな車が現れ、彼らを横切って行った。


『ガッデム! ヤツは囮か! お前ら! 発砲を許可する! 打て、打てぇ!』


 彼らは一斉に銃を発砲する。しかしあの車には防弾性があるのか、当たっても止まる気配がない。しかし、車が裏路地を通り過ぎようとしたところで


 ガァン


 と、車が横へ吹き飛ばされた。


『っ! なんだなんだ!?』


 彼らも理解できていないのか、戸惑っている。それもそうだろう。突然車が吹き飛ばされたのだから。


「ヒ、ヒィィィィィ!」


 中にいた男達が出てきた。そして地面にへたりこみ、ある方向を見ていた。彼らが見ているのは銀行の前にいる彼らではなく、裏路地の方だった。


「! お前ら、銃をあの裏路地の方へ向けろ」


 彼らの指揮官なのだろう、彼はあそこにナニかがいると察知して彼らに命令する。そして彼の命令に彼らはすぐに反応した。訓練されている証拠である。そして彼らは裏路地に銃を向けたままじっとして、そこにいるナニかが現れるのを待つ。


「……」


 周りに緊張が走る。もうあの強盗のことなどどうでも良いようだ。それはどうかと思うのだが、未知の襲撃に恐れているのだろう。だれかの唾を飲む音さえ煩く聞こえる。

 そして、スッと裏路地からナニかが現れた。


「っ!」


 そして彼らは一斉に銃を発砲するのだった。






 魔法使いについて考えてもらいたい。

 魔法使いとは言葉通り魔法を使う者の総称である。その力に誰もが魅了され、夢見る。しかし一部では、魔法よりも現代兵器の方が優秀だと言うものがいる。

 それは間違っていないのかもしれない。だが、どんなに優れた兵器でも、時と場所によって大きく変わることがある。

 しかし今は銃をもつ彼らに地の理があるだろう。

 そしてもう一つ、考えてもらいたいことがある。

 まず、魔法には無詠唱というものがある。つまり、呪文などの言葉を発さずに唱えるというものだ。この原理は簡単で、例えば算数の掛け算のするとしよう。二つの二桁の数字を掛けるのは、数字を紙に書いてやらなければ難しいだろう。しかし、同じ問題を何度も繰り返していけば、計算しなくとも答えがわかる。魔法とはこれと同じような原理なのだ。要するに、慣れというものだ。言葉に出さずとも、頭のなかで、一瞬で唱えるようなものだ。


 では、今、あの裏路地にいるのが魔法使いだったら、どちらが勝つ?

 結局は呪文を唱えるのだから銃だろうとかんがえる者がいるだろう。だが、この状況では間違っている。

 彼らはまず、裏路地から現れたナニかを見た。そしてそれに反応して銃を撃った。この間、早くても0・1~0・2秒。それが人間の限界である。

 この限界とは、人が目で見たものに対し素早く反応する限界だ。まず目で見た情報が頭に入り、それを瞬時に理解して脊髄に移動。そして脊髄の神経が腕から指まできて、初めて攻撃ができる。

 しかしどうだろうか、もしあの裏路地にいるのが魔法使いで、攻撃を凌ぐのに無詠唱がつかえたなら。目で見た情報が頭に入り、そしてそれを瞬時に理解、そしてもうその時点で魔法の詠唱が終わっていたとしたら。


 魔法は銃の弾丸が魔法使いに届く前に、防御が簡単に発動できる。

 つまり、もしも突然の遭遇があった場合、魔法が圧倒的に有利ということだ。


 そして数秒後、銃声が止み、煙が立ち上る。徐々に煙が晴れていき、壁中に弾痕が見え隠れする。そしてとうとう煙がなくなった時、彼らが見たものは、無傷の人間と、その前に落ちている弾丸だった。


「んなっ」

「Oh my god…… .」


 裏路地にいた人間は茶色いローブを纏い、肩くらいの長さがある木製の杖を右手に持っている。性別は顔はがよく見えないが、口のあたりを見るからに男性で四~五十歳。身長はおよそ180だが、背中が曲がっているためもっと背が高いだろう。


「バケモンが! ってぇ!」


 指揮官の支持と共に、また発砲を開始する。しかし彼らの放った弾丸は裏路地の人間に近づくにつれ速度を落とし、そして弾丸が届く前に地面に落ちた。


 魔法とは簡単にできるものと難しいものがある。今の兵器のように指を動かすだけで攻撃が可能なものは少ない。その理由も、詠唱を計算で例えた時と同じである。二桁の問題が、難易度が上がると数字が三桁四桁と増えていくからだ。だから場合によってはあの男は死んでいたかもしれない。しかし、今男が使った魔法は簡単な魔法である。そもそも銃とはあの筒のような部分で弾丸を瞬間的に押し出し飛ばすためのものだ。その弾丸は筒から飛び出した瞬間もう何の力も働かず、慣性の法則に従って前へ進み続ける。つまり、弾丸の慣性が無くなった時、弾丸は止まり重力によって地面に堕ちる。男が使った魔法は要するに弾丸の慣性をゼロにする魔法だったのだ。


 チリンッ、と弾丸が落ちる音がした。どうやらこれで全弾使ってしまったらしい。しかし彼らはそれでも引き金を引き続ける。これ以上撃っても無駄だとわかっていても。


 裏路地の男は彼ら、ではなく、横倒しになっている車の隣でへたりこんでいる覆面の奴らの方を向く。


「ひっ、ヒィッ」


 覆面をしているので顔は見えないが、その表情はなんとも情けなくなっているだろう。そして男は覆面達の方へゆっくりと近づいていく。覆面達は逃げることも、これ以上声を上げることもできず、ただ男が向かって来るのを待つだけだ。覆面達の内の一人は失禁してしまったが、本人はそれに気づかず、男を見ることしかできない。


 男は覆面達の前に立つと、後ろに回り込み、覆面達の服を掴んだ。三人ほどいるため、右手で二人持っている。杖はもう一人の覆面と左手で持っている。そして男は今度は銀行前の彼らの方へ進んでいく。


 彼らも、覆面達と同じように動けない。動けば覆面達と同じような目に遭ってしまうのではないか。そう考えていた。


 男は彼らの前に近づき、そして覆面達を彼らの方へ投げた。彼らは一瞬怯んだが、徐々に覆面達の所へ近づき、男が何もしないか警戒しつつ覆面達を逮捕した。そして彼らはもう一度男を見る。男は口の端を上げ、言った。


「お務め御苦労様です」


 そう言うと、男は振り返り歩いていく。数歩ほど歩いた後、フッという音と共に、男、一人の魔法使いは消えてしまった。

次回更新は明日同時刻です。

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