発見
エリテュイアは歩いていた。今は澄んでいる、戦場になった川の畔。清らかだった川の水は濁り、嘗て彼女達の足に心地良さを与えてくれた姿は何処にも無い。そんな川の様子にエリテュイアは眉を寄せた。
争い、血を流した場所。幾人もの人が傷付き、死んだ。
今の川の姿はその証である。この光景にエリテュイアは胸が痛んだ。何故、こんな事になってしまったのか。悩む必要が無い程に理解している。
「・・・・・・」
視線を彷徨わせる。何処かに変わらない所は無いのかと、願いながら。しかし、それは見つからず、悲しみの光景が広がっていた。
溜息を吐き、立ち去ろうとした時の事だった。
「・・・?」
何かが、見えた。そちらの方に目をやれば、エリテュイアは驚愕した。そこには、美しい馬が佇み、彼女を見ている。何かを訴えるかのような馬の目に魅かれた。彼女の足は自然と馬の方へと向かう。
そして、見つけたのだ。馬の傍らの塊を。
「あ・・・!」
その正体に気付いたエリテュイアは走った。急いで呼びに行かなければならない。彼女では彼等を運ぶ事は出来ないであろう。馬は二人の人間の傍らに佇んでいたのだ。何時から居たのかは分からない。しかし、急がなければならない。もう、この場所で誰かがこの世から去るのは辛いのだ。
そして、彼等は助かった。
兵士によって運ばれたのは二人の男女。衰弱が激しい女の方は未だ目覚めない。だが、男の方は鍛え上げられた身体を持ち、翌日には起き上れるようになった。どちらも上品な顔立ちと上質な暮らしで培われる物があるのが分かった。おそらく彼らはいずれかの国の上級階級の出身だろう。
アトラスは彼らの許に足を運ぶ事を決める。彼等は何かを成さなければならないのだろうから。
目の前の人物から感じる威圧感。強者の証であるそれは自分の父には無かった。
「アトラスと申す。険しい旅路を来たであろう若い方よ、名をお聞きしたい」
柔らかな声だが、そこに宿るのは嘘を許さない迫力。初めは偽りの身分を名乗ろうと考えていた彼だったが、それを断念する。おそらく、偽りは見破られるだろうし、大体の事は勘付いている筈だ。
彼は正直に己を語った。
「私はウリクセスと申します。テーヴァの第一王子です」
彼、ウリクセスの言葉にアトラスは驚かなかった。何故ならば、アトラスは彼が何者であるかを気にしていないからだ。そして、ウリクセスの容姿や衣服、今は身に付けていない武器からその正体を正確に把握していた。
名を訊ねたのはウリクセスの応えを知りたかったからである。彼等への対応を決める為にも、知らなければならなかった。
現在、テーヴァから罪人の行方を訊ねられ、見付けたならば差し出す様に要請されていた。
アトラスはテーヴァへの返答を決定する。
知らぬ存ぜぬ。罪人など、エリシオンには来ていないと。




