約束
決めたのは彼自身だった。アイアコスは告げる彼を見つめた。
そして、笑う事が出来た。
彼の眼差しは諦めてなどいないから。
アイグレーはエリテュイアの姿を見た瞬間、耐えられなくなった。零れそうで、零れずにいた涙が頬を伝う。
ただ涙を流すアイグレーをエリテュイアは抱き締める。
「・・・分かってるの」
アイグレーの呟きは掠れていた。
「分かってる、けど・・・っ」
涙が幾筋も流れていく。落ちる先は彼女やエリテュイアの衣。涙が染み込んでいく。
分かってはいても、涙は零れていくのだ。そして、止める事も出来なかった。
「アイグレー、聞きなさい」
エリテュイアの声にアイグレーは顔を上げた。その頬には痛々しい程に涙の筋が見える。
「ウルカーヌス自身が何を考えて、何を思っているのか。それを貴女は知るべきだわ」
知るべき事。それは、アイグレー自身で確かめなければならない。エリテュイアはそう思った。
だから、エリテュイアは彼女の背を押す。彼女の役目は、姉として行動する事だ。アイグレーのたった一人の姉としてその背を押してあげる。母を亡くした妹の為に出来るのはその代わりになる事であった。
エリテュイアは気付いていた。隠れようと思わない背後の気配に。
だから、妹を送り出さなければ。彼女を大切に想う相手の許へ。
エリテュイアは背後に目を向けた。アイグレーがエリテュイアの視線を追う。
「・・・・・・」
アイグレーの目が見開かれる。
「よろしくね」
エリテュイアはウルカーヌスに向けて微笑んだ。そして、その場を後にする。二人の幸せを祈りながら。
アイグレーはそんな姉の背中を見送った。凛とした美しい姿に彼女は勇気付けられた。
ウルカーヌスを真っ直ぐ見つめる。そして、ただ一言告げた。教えて、と。
ウルカーヌスは語り始める。自身の生まれやエリシオンに来た目的、今の考え。アイグレーは何も言わず、彼の言葉を聞く。
そして、全てを聞いたアイグレーは笑った。
アイグレーは立ち去るウルカーヌスの姿を目に焼き付けた。暫らくの間の別れだ。彼女はそう思う事にしている。もしもの事は考えない。
ただ、彼女の胸には約束があった。彼との再会の。
「必ず・・・」
彼女は願う。約束が果たされる事を。
願うアイグレーの背中をアトラスは見つめていた。父として、娘の決意を見守った。それが、彼に出来る祝福だから。
そして、アトラスも願う。
ただ一つの約束が果たされる事。
それだけだ望みだった。
第三章 終
エリシオンの四つの春 完




