メンヘラとヴァンパイア
完成まで時間かかったわりにナニコレ感が…
いくら、アドリブ主義でもこれはどいひー( ^∀^)
「なぁ」
「なぁに?」
彼女が首をかしげると肩につくかつかないか微妙な長さの髪の毛が揺れる。
「アンタ友達いないだろ?」
「どうしてそう思うの?」
笑顔で聞き返してきた彼女だけれど、目が笑っていない。
「別に、何となく?」
「ふぅ~ん……」
嫌な視線だ。
「ねぇ、あなた“普通の人”じゃないでしょ?」
「どういう意味だ?」
彼女を睨みながら問い返す。
「別に、何となく?」
「あっそ、はいコレどうぞ」
俺は粛々と図書委員の仕事をこなすことにする。
「どうも、ありがとう」
彼女はうわべだけの笑顔を浮かべ本を受け取るかと思われた、だが次の瞬間俺の手首を掴んだ彼女に引き寄せられる。
油断していたとはいえ彼女の華奢な身体のどこにこんな力があるのか、あっという間にお互いの呼吸が分かるくらいの距離まで接近していた。
「あなた私の手首見てたでしょ?」
彼女の吐息が耳にあたり声が鼓膜を揺らす。それは酷く冷たいものだった。けど…
嫌いじゃないね
*
「なぁんだ気付いてたんだ?」
彼は鋭い八重歯を覗かせ嗤った。
まるで吸血鬼みたいで素敵。
「どうして見てたの?」
「俺さ、血が好きなんだよ」
血が好き?
「傷痕を見てたんでしょ?」
「あぁ…そうだね、傷痕も嫌いじゃないけどそれ以上に血が好きなの」
「それで?」
「アンタの手首の傷からはどれくらい血が出るのかと思ってさ」
やっぱり…この人“普通じゃない”みたい。まぁ、私も人のこと言えるような人間じゃあないけど。
「見たい?」
「えっ!?」
「だから、私の手首から血が出るの見たい?」
彼は少しの間戸惑っていたようだけれど、血の誘惑には勝てなかったのか頷いた。
「そう…分かった見せてあげる。但しここじゃあ本を汚すといけないから自重するけど」
「やっぱ今すぐ見れるわけじゃないんだ」
目に見えて落胆して見せる彼が面白くてつい笑ってしまう。
「今日の放課後暇だったりする?」
*
色白でどちらかというと小柄、髪は短くもなく長くもない手首に傷のある少女は話してみると思ったよりも饒舌な子だった。
きっと話をする相手がいないから静かにしてるだけで他の年頃の女の子が皆そうなように彼女だってお喋りは好きなんだろう。
「早く放課後になんねぇかなぁ~」
喉が渇いた。
彼女と彼女の手首の傷を初めて見たのも図書委員の仕事をしているときだった。
恐らく普段は上手く隠しているのだろうが、本を手渡したときそれを受け取ろうと伸ばした弾みに制服の裾から露見してしまっていたのだ。
彼女のほうは、ほんの一瞬の出来事だったからと俺が傷に気付いたとは思ってなかったのだろうが、思いがけないものを見てしまった俺は内心とても動揺したのは言うまでもない。
自傷行為をする人間がいると知識として知ってはいても、自分の目の前にそう言った人間が出てきた場合、大抵の人間なら俺と同じように動揺するだろう。
だが、俺の場合は少し勝手が違う。
彼女は読書家なのかほぼ毎日いつも図書室を利用していたし、俺も静かなところが好きという理由で図書室には入り浸っていた。勿論、委員の仕事があるときはちゃんと仕事をしている。
そんなわけで俺は彼女とその手首の傷を観察するのが日課になった。
まぁ同級生の女子を日々観察するなんて、なかなかにヤバいとは思うが、最初に気になったのは彼女じゃなくて傷だったし、(厳密に言えば血だけど)その考えは基本的に今も変わってない。
俺にとって重要なのは“血”だけだから。
*
家族以外の人と喋ったのはいつ以来だろうか。
学校では自分からは話しかけないし、言葉を発するのは先生に質問されたときくらいしかないように思う。
始めのうちは一人でいる私を気遣ってか、話し掛けてくるクラスメイトもいたが大抵私の秘密をしると面倒事に巻き込まれたくないのか離れていった。
私はそれをゲンキンだとも悲しいとも思わない。寧ろお互いの為だと思う。うわべだけの付き合いなんて疲れるだけだしなんの生産性もない。だったら同じように生産性がなくても気楽な一人のほうがマシ。
ただ…つまらない。
友達がいない私に出来る暇潰しといえば本を読むことぐらいだ。
今日も私は図書室に向かい、面白そうな本を物色する。
同時に私自身、彼によって物色されるのだが…およそ人を見るような目線の類いではない。例えるのなら、まるで餌を目の前にした飢えた獣のような目だ。
そんな彼と今日言葉を交わした。意外と緊張しなかった。
血を要求するのなら提供してあげよう。そして、他の子達と同じ目で私を見れば良い。
どうせ、私のほうが狂ってるのだから。
*
目の前に滴る赤い液体を見つめる、彼女の色白な肌に良く映えてより美しく感じられる。あぁ…今日はなんて良い日なんだろう。
「どう?」
「最高だね」
俺達以外誰もいない教室は酷く寂しく感じられたが、それが今の彼女には似合いの舞台だった。
「私はつまらないね」
「なんで?」
「私が見たかったのは貴方のそんな表情じゃないからよ」
「心外だな、血が好きって言ったのは虚勢じゃないよ」
「理解できないわ」
「自分だけが狂ってると思わないことだね、俺に言わせれば人間なんて大概どこか狂ってるから」
彼女は形の良い眉をひそめる。
「ねぇ…だからさ、狂ってるもの同士仲良くしようぜ?」
「何言って…」
彼女が俺から距離を取り始める、俺はゆっくり、けれど確実に彼女に近づく、“狩り”に焦りは禁物だ。
「俺に目をつけられた時点で運が悪いよ」
彼女の後退が止まる、後ろは壁だ。
「言ったでしょ?俺は“血”が好きなんだ、“血を飲む”のがね」
恐怖からか彼女の肩が小刻みに震えている
可哀想にと他人事のように彼女を見る、手首からは絶えず血が流れている、非常に勿体無い。
血を前にしたらそれ以外の事なんて些末な事だ。
彼女の震えが本格的なものになった、泣いているのかも知れない。
「ん…ふふふ」
笑い声?
「ふふふ…ふふふふ」
「何が可笑しい」
「くくくっ…」
ここに来て、俺は間違いを犯している事に気付くがもう遅い。
「くくくくっふふふっは…」
彼女が顔を上げる、それを見て疑念が確信へと変わってしまった。
彼女は“泣きながら嗤っていた”のだ。
*
今日は沢山のいろんなことがあった、そのせいなのか布団に入って一時間は経とうというのに全く眠くならない。
それもそうだ、今日は自傷をはじめて肯定出来るような事があったのだ。私の血が無駄にならなくて、且つ自傷を嫌悪しない人がこの世に、しかもこんなに近くに居たなんて!!
「あぁ、神様。」私は今とても幸せです。神が居るか居ないかは知らないが、そう思わずにはいられなかった。
真新しい手首の傷を愛おしく思う。彼の唇が舌が牙がこの傷口から流れ出る血を求めて荒々しく這っていた事を思い出しては身体が疼いた。それは恋のような感覚に近く、甘く苦い背徳を孕んでいた。
いつもより、傷口が熱っぽいのはきっと…
*
さて、どうしたものだろう。
「窮鼠猫を噛む…だな」ベットに仰向けになり天井の染みを数えながら自嘲的に呟く。彼女はまさにそんな人間だった。
支配の基本は飴とムチ、取り込む自信はあったんだけどな~
彼女を恐怖で従わせることは出来ないだろう。なら、どうする? さっきから考えているが名案は浮かびそうにない。
にしても…血と涙を流しながら、あんなに美しく嗤う人間を見たことがない。あれは“普通の人間じゃ出来ない芸当だ”
俺と一緒で“何かが欠落している”
今まで他人になんか興味なかったんだがな。
どちらが先に溺れるだろうか。
「暫く、退屈しないで済みそうだ」唇が三日月を描いた。
二人とも人間ですよ
普通じゃないだけで。