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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第三話「迷宮で遊ぼう」
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27、「迷宮最深部 現れたダンジョン・マスター」

 迷宮の最深部でいよいよラスボス戦だと思ったら、知り合いの少女がコスプレして棒読みのセリフで迎えてくれた。

 ……いったいどういう状況だっ?

 ご丁寧にも、いかにもラスボスでござい、といった雰囲気の妙に丁寧な出来の豪奢な黒いローブに身を包み、ちょっと魔王っぽいねじくれた山羊のようなツノをこめかみの辺りにつけ、手にはなんかドクロっぽいものが付いたいかにも悪の魔道士とかが持ってそうな杖を持って。

 ……ああ、そういや、まおちゃんってこっちの世界には魔王として来てるんだったけか。

 セリフが棒読みだったり、お茶こぼしてあわあわしてるところがちょっと残念だが、意外と立ち居振る舞いはしっかりとしていて割と様になっている。喋らないでただ椅子に座っていたならば、背筋とかぴんと伸びているし、見た目はやや幼い少女ながらもなんというか魔王っぽい雰囲気というか貴族っぽい雰囲気というか、なんか上流のお嬢様っぽい感じが確かにする。

 詳しい話聞いたこと無いけど、意外とまおちゃんってお嬢様なのかもしれない。小学校とか中学校って公立なら大概徒歩で通学可能な場所にあるから、小中学生で学校行くのに電車とか使うってことは、まおちゃんどっか私立の良い学校に通ってるってことなんだよな。

 ぼんやりそんなことを考えていると、シルヴィがちょっと拍子抜けした顔で、それでもまだ警戒を解かず視線を前にむけたままで「……あの娘は、タロウの知り合いか?」言った。

「ええ、まおちゃんといいまして、向こうで俺と一緒に冒険している、もうひとりの勇者、ってところなんですが……」

 まだあわあわしているまおちゃん達に目を向けながら答える。

「……あのカワイイ生き物がまおちゃんなの?」

 真白さんが、なんだかふにゃりとした顔で振り返った。

「やっぱり、この迷宮に来てたんですね!」

「俺、掲示板見る暇なかったらあんまり事情に詳しくないんだけど、真白さんわかる?」

 なんか迷宮経営?のための研修のようなものを受けにどこかの迷宮に来てるっぽいことは知っていたけれど、まさか同じ迷宮に来ていたとは思わなかった。

「いえ、午後からは演技指導受けるとか言ってたのは見ましたが、その後は戦闘続きでしたしね」

「実地で研修ってことなのかなー……」

 しかし、これはどうしたものだろうか。

 ラスボスとして立ちふさがるのであれば、これを倒さなきゃ迷宮をクリアしたことにはならないんだろうし、地下三階の流儀とやらに従うのであればそれは相手を戦闘不能状態にすることに他ならない。だからといって、いくらなんでもただの女の子であるまおちゃん達に、巨大スライムとやったときのように魔法を叩き込んだりとかできるはずもない。

 ……と、そこまで考えてから不意に嫌な考えが頭に浮かんだ。

 ――まさか、それを狙ったシェイラさんの策略かっ?!

 確か売店前で真白さんたちと合流した時に、まおちゃんもこちらに来ている、みたいな会話をした覚えがある。たったそれだけの情報から、知り合い相手には剣を向けづらいと踏んでこの状況をセッティングしたってわけか! くそ、どうりでボス部屋まで自分から案内してくれるわけだ。

 ……あるいは、仮にまおちゃん達を倒したとしても、正規のラスボスじゃないからとクリア報酬を支払わないとか報酬を減らすとか、そういう目論見なんじゃ。いずれにしても迷宮側としては大きな損はない。さらには見ず知らずの冒険者の前に立たせるよりは、比較的安全にまおちゃんに迷宮ボスとしての経験まで積ませることができるという。

 ……あいかわらず策士だな、シェイラさん。

 思わずシェイラさんの姿を探すと、壁際によりかかってにやにや笑っていた。

 ちくしょう、憎たらしい笑顔だっ! してやられたって感じだっ!

「……どうしようか?」

 思わずもらしたつぶやきに、シルヴィがふん、と鼻を鳴らした。

「知り合いであろうとも、立ちふさがるなら敵であろう?」

 言いつつ指輪に力を溜めはじめたので、あわてて彼女の腕を押さえて止める。

「まおちゃん、何の力も無いただの女の子なんですから! そんなの一発でも当たったら死んじゃいますよっ!」

 思わず触れてしまったために、少し精気を奪われてがくりと力が抜けた。

「……ふむ」

 シルヴィはつまらなさそうに息を吐き、腕組みをしてまおちゃんを見つめる。

「気に食わんな……」

 それからちらりと俺の顔を見つめて、シルヴィは息を吐いた。そのまま、ぷいと目をそらしてしまった。よくわからないがなんか俺の態度が怒らせてしまったようだ。

「……いやでも、実際どうしましょうか?」

 真白さんが腕組みして、むむー、と唸った。真人くんもちょっと苦笑いして首を斜めにしている。

 お茶をぼしてあわあわ涙目な女の子に、武器を振りかざして襲いかかれるはずもない。

 かといって、このままお見合い状態を続けていても埒が明かない。

「……私から説明いたしましょう」

 まおちゃんが何度か口をぱくぱくさせていたものの、パニくっているのか「ひゃう」だの「あわわ」だのといったまともな言葉にならないのに業を煮やしたのか、隣に佇んでいたなぜかメイド服仕様のすらちゃんが口を開いた。

「本日魔王ちゃん様は、迷宮経営の研修のためにこの迷宮を訪れていました。黒神ネラさまのご案内ということで、勇者候補生のみなさま方や太郎さん達と同じ迷宮であったのはもしかしたら意図的なものだったのかもしれません。たまたま魔王ちゃん様と皆様方が知り合いということで、実地でラスボスをやってみてはどうかということになりまして、このようになった次第です」

「なるほど」

 だいたい俺の想像通りのようだった。

「でも、なんですらちゃんがそこに? ルラレラと一緒に案内所に戻ったんじゃなかったの?」

 首を傾げて尋ねる。それに姿は見えないが、まおちゃん関連ということでりあちゃんまで向こう側にいるような気がする。

「……すらちゃんも、りあちゃんも、あげないんだもん!」

 ようやく少し落ち着いたらしいまおちゃんが、よくわからないことを言った。

「……どういうこと?」

「私、スライムのすらりん、および、ドラゴンのリアさんは、魔王ちゃん様のしもべです。魔王ちゃん様のお力により、私はスライムでありながらこのように人の姿を取ることができていましたが……。その、先日のアレで、どうやら魔王ちゃん様の支配が緩んでしまったようなのです。おそらく、リアさんの方も」

 先日のアレってなんだ? ……すらちゃん大暴走のアレか?

 (しもべ)って言い方はあれだけど、まおちゃんがなんかチート能力もらって魔物を仲間にすることが出来るというのは前掲示板で見たし、そのおかげですらちゃんが人型を得ているのも知っていた。

 ……もしかして、今日なんかすらちゃんが妙に大人しかったり、ときどき姿を消してスライムの姿に戻ってたっぽいのは、まおちゃんの支配下から離れつつあったせいで元のスライムに戻りかけてたってことか?

「……つまり、もう一度まおちゃんにちゃんと”すらちゃん”にしてもらったってことか?」

「はい。それと一応、私は魔王ちゃん様の四天王のひとりということで、こうしてみなさまの前に立つ事に」

 四天王って、すらちゃんとりあちゃんのふたりだけじゃん。あとの二人はどうしたってゆーか、そもそも今時、四天王だとか魔王ちゃんもけっこうノリがアレな感じだな。

「……ん? 姿が見えないけれど、ということはやっぱり、りあちゃんも居るの?」

 何気なくそう言った瞬間に、気配が膨れ上がった。

「――っ!」

 つい先ほどまで、そこには誰もいなかったはずなのに。最初からそこに立っていたかのように、まおちゃんを挟んですらちゃんと反対側に、全身を黒い鎧に身を包んだ小柄な人影が現れていた。

「……私なら先ほどからここに居る」

 竜を模したフルフェイスの兜の面覆いを上部にずらすと、そこには見慣れたりあちゃんの顔があった。

「……個人的には、勇者、あるいは英雄とよばれるものに強い憧れを抱く身ではあるが、しかし、ただの戯れの遊びとわかっているこのような遊戯の迷宮であるならば、あえて勇者の道を塞ぐ悪の竜を演じるのも、また一興というもの」

 にやりと微笑んで、りあちゃんは面覆いを降ろしてから剣を構えた。

「まあ自分で言うのもなんだが、竜は勇者の道を塞ぐのが似合いの仕事というものだろう。もっとも大人しくやられる気はないがな」

 ふしゅー、と兜の奥でりあちゃんが息を吐く音が聞こえた。

「うわー……なんかどらごんちゃんもノリノリっ?」

 寧子さんが、むしろ喜んだような声を上げた。

「……えーっと、結局どうするのかな?」

 真人くんが困惑気にこちらとまおちゃんたちを交互に見つめる。

「らすとばとる、やっちゃうひとーっ?!」

 寧子さんが生き生きとした声で右手を上げた。




 ……暗黙の了解で、魔法は使用禁止になった。ふてくされたシルヴィは、ヴァルナさんに背中を預けてまた掲示板をのぞき始めたようだった。

 大魔法は威力減衰されるとはいえ、小魔法はほとんどそのままの威力がでる。それなりに戦えるりあちゃんはともかくとして、まともな防御手段のないまおちゃんやすらちゃんは当たったらマジでやばいからだ。同様の理由でリーアも戦闘参加禁止になった。衝撃波マジやばい。

 被殺傷の呪いがかかっている武器であればまだそれなりに安全であるし、魔法と違って寸止めも可能なので主に物理戦闘で勝負することになったのだった。

 もっともまおちゃん側はまともに戦えるのがりあちゃんだけっぽいし、全員でやったら弱いものいじめのようになってしまう。なので形だけでも団体戦の形をとって、先鋒りあちゃん、中堅すらちゃん、大将まおちゃんとして勝ち抜き戦を行うことになった。

 対するこちらも勇者候補生側はパスを宣言したので先鋒が俺、中堅が寧子さん、大将ディエということになった。もっともほとんど大将戦までいった時点でどちらも降参するのが目に見えているので実質先鋒戦が決定戦みたいなものだ。

「大将ナニソレおいしいの?」

 と首を傾げたディエにあとでなんかおいしいもの食わしてやるからと丸め込んだ。

 真白さんが、最強女神決定戦ゴッデスオブゴッデスみたいだわ!とかなんか異常に興奮していたが見なかったことにする。

「シェイラさん、念のため確認しときますが、この形式で勝利した場合クリアしたと認めてもらえます?」

 方針が決まった時点で壁際のシェイラさんに確認をとる。

「……なんであたしに聞くんですかー?」

 我関せずという顔で空とぼけるシェイラさんを睨みつけると、そーっと目をそらした。

「やっぱりごまかす気満々でしたね……」

「何の話ですかー?」

「例えば俺達が勝った後、指輪なり奥にあるらしいワープ装置から戻った場合、ラスボス倒してないから未クリアだって主張するつもりだったでしょう?」

「……実際彼女たちはダンジョンマスターじゃないですしー?」

「ならダンジョンマスター呼んで来てもらえます? ここボス部屋なんでしょう? 決められた場所にいないのは迷宮側の不手際じゃないんですか?」

 思わず詰め寄ろうとしたところ、不意にまたどーんと重低音が響きわたった。

「――ふわはははは、なかなかやるものだなっ!」

 若い男の声。姿は見えない。

「上だよっ!」

 寧子さんの声に天井を見上げると、真っ赤なマントを羽織った若い男が、天井から空中をゆるゆると降りてくるところだった。意外なことに、現代で通じるようなスーツ姿だった。それも、一着何十万円とかしそうなすごく仕立てのよいものだ。

 やや女性的にも見えるその顔は非常に整っていて、男でありながら妙な色気があった。鋭い眼差しで、興味深げにこちらを見つめている。

「私がこの迷宮のダンジョンマスター、レイル・オードだ」

 ふわりと床に降り立つと、レイルと名乗った男はまおちゃんのテーブルの向かい側の席に腰を下ろし、足を組んでふんぞり返った。

「あ、ダンさんだー」

 まおちゃんが「はわわ」と手をばたばたさせ、すらちゃんが静かにどこからともなく取り出したカップにお茶を注ぎ、男の前に置く。

「ふむ」

 レイルは香りを楽しむようにカップを顔の前に持ち上げていたが、わずかに口に含んだ後テーブル上に戻した。

「さて、呼ばれたから来てやったが、正直な所、私には貴様らと戦う気は無い」

「……?」

 じゃあ、何のために来たんだこの人は。

「ダンジョンマスター戦の話は、シェイラから聞いているか?」

 首を横に振って答えると、レイルは「ふむ、そうか」と腕組みしながら足を組み直した。

「……当迷宮は、初心者の育成を目的としたものだ。だから初心者にクリア出来ないものでは意味が無いのでな。通常のダンジョンマスター戦は、私に一撃でも攻撃を当てる、もしくは五分間戦闘不能にならずに持ちこたえれば勝利となるルールだ」

「必ずしも、あなたを倒さなくても勝利できるということですか?」

「ふはははは。この私を倒すつもりでいたとは片腹痛い」

 くっくっくと肩をゆらしてレイルは笑い、カップを傾けて中身を飲み干した。

「まあ、よい。だがエッグノッグ卿の万雷のエルライナ・魔法メルウェルトに耐え切った貴様らでは、そのルールでは簡単すぎるだろう? 同じような課題を私が課しても面白くはないだろうし、マオに代理をまかせることにする」

「では、りあちゃんたちとの勝負に勝てば、迷宮クリアと認めてくれるということでいいんですね?」

「うむ、その場合には修了書を発行してやろう」

 鷹揚にレイルは頷き、「だがそううまく行くかな」と嫌な笑みを浮かべた。




「……勝ち負けにはこだわらぬ。が、以前無様な姿を勇者タロウ殿にはさらしてしまった。今度はそのようなことにはならないようにしよう」

 長剣を斜め下に構えて、全身鎧のりあちゃんが静かに言った。

 クリティカルが封じられているから、確かに前みたく、りあちゃんを裸に剥いちゃうことはないだろうし、まともにやったらむしろ俺がズタボロにされると思う。いや、俺もソディアに認められたことではあるし、前よりは戦えるはずだ。

 りあちゃんに応えて、こちらもソディアを両手で構える。

 以前は人を傷付ける武器を訓練とはいえ向けたくないなどと言ったが、今更ながらあれはずいぶんと傲慢な考えであったと思う。鞘付きとはいえ真剣を持つ相手に対して、木の棒で相手にしてやろうだなんて、我ながらずいぶんと思い上がった態度だった。

 正直今でも真剣を人間に向けることには忌避感があるのは確かだが、静かに手合わせを願うりあちゃんに対しては、こちらも真摯な態度をとらざるを得ない。

「……いや、むしろこちらが無様をさらさないように気をつけるよ」

「さて、お二人とも準備はよろしいですかー?」

 審判を勤めるシェイラさんの気の抜けた声が、場の緊張を削いだ。

「ああ、いつでもよい」

「望む所だ」


「――では先鋒戦、始め!」

 ダンジョンマスター・レイルが、ラストバトルの開始を告げた。

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