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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第三話「迷宮で遊ぼう」
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26、「迷宮最深部 迷宮の深遠にて待つもの」

 念のためもう一度。6/28頃、本編の25、「迷宮最深部 消失」は後半の内容が変更され25、「迷宮最深部 黒い、魔法」となっています。

 簡単に変更内容を説明しますと、

 旧「隠し通路見つけた→隠し部屋で死体見つけた→いったん戻る→仲間連れてきたら死体消えてた」

 新「隠し通路見つけた→隠し部屋で死体見つけた→シェイラさんが来て解説」

 という風に変わっています。旧の方で死体消えたたのはシェイラさんがマジックポーチで回収した後だった、というしょうも無いオチですね。

 今回はシェイラさんと一緒にスライム部屋に戻ってきたところからデス。つながりわかんないよ、って方は25まで戻って読み直していただけると幸いです。

「たろーくん、おかえりっ! お宝あった? ねぇ?」

 スライム部屋に戻ってきた俺とシェイラさんを迎えたのは、そんなテンション高めな寧子さんの能天気な声だった。

 全知全能を自称する寧子さんのことだから、俺が何を見たのかを全てを知った上で、それでも暗い気分を吹き飛ばそうとわざとそんな風に振舞っているのかもしれなかったが、流石に今の俺にはそれに軽口で応じることが出来なかった。

「……」

 黙って首を横に振ると、「そっかー」と大人しく寧子さんが引き下がった。どうでもいいときにはまるで空気を読まずに無茶なノリを押し付けてくるのに、こういうときにはきちんと空気読んでくれるところが、一応あんなでも大人なんだなと思わせられる。

「……何か、あったんですか? ずいぶんと暗い表情ですが」

 真人くんとふたりでお餅をぱくついていた真白さんが、顔を上げて首を斜めにした。

『かなしいこと ある?』

 リーアもホワイトボードを掲げてこちらに心配そうな顔を向けて来る。

 俺は、ちょっとだけ斜め上を見つめて。小さくうなずいた。




「……死体を見たくらいでそんなに落ち込むとか、結構繊細なんですね、鈴里さん」

 簡潔に何があったのか俺が語ったあと、真白さんは無表情にそう言って俺を見つめた。それから何かに思い当たったのか、胸の前で小さく手を叩いて「ああそっか、鈴里さんってソロだからか」とつぶやいた。

「……どういうこと?」

 思わず尋ねると、真白さんは真人くんの肩を抱いて彼の顔を指差した。

「さすがにまだ見慣れるとまではいきませんし、見慣れたくも無いですけど、私、もう十回近く真人が死ぬところを見てますし、私自身も五回ほどは死に顔さらしてますから」

 指差された真人くんも、苦笑いしながら小さく頷いた。

「ニャアちゃんのおかげで今ではそれなりに戦えるようになりましたけど、最初のうちは姉弟ふたりして死にまくりでしたからね」

「……そっか、俺はひとりだから」

 ルラやレラにどういう風に死んだかを聞かされることはあっても、実際にこの目で自分の死体を見たことも無ければ、死んだという実感もない。その意味で、俺は死に対する感覚が薄かったのだろう。

 真人くんの方が死んでいる回数が多いのは、あるいは姉の真白さんをかばってのことだろうか。いずれにせよ、俺より彼女達の方が場数は踏んできているらしい。

「鈴里さんの異世界がどのくらい危険な場所か知りませんけれど、いざという時にパニックにならないように、心構えだけはしておいた方がいいですよ。自分以外が傷付き倒れたときのこと」

 真白さんがちょっとうつむいて床を見つめる。

「掲示板とかじゃ、冗談めかして投稿してましたけどね、真人がスライムに飲まれた時も、イモムシに燃やされた時も、私はただ茫然と見つめることしかできなかった」

「……そっか」

 頷いて、俺もいちいち死体見るたびにこんなに落ち込んでいたら異世界冒険なんて出来ないよな、と思う。……決して慣れたい感覚ではないけれど。

「なんにしても、自分でどうにも出来ない、終わってしまった悲劇っていうのはつらい」

 たまに一本道のRPGである、避け様の無い悲劇が俺は嫌いだ。自身の努力でどうにもならない押し付けの悲劇に何の得があるというのだろう。

 ……いや、この世界はゲームじゃないんだったな。

 神さまとかいるくせに、なんでこんな悲劇が起こっちまうんだろう。

「……寧子さん、神さまってなんなんですか?」

「んー、ずいぶん哲学的な問いかけだねっ? どしたのさ」

 にま、と微笑んで寧子さんが俺の隣に並んで腰掛けた。

「このセラ世界にだって、神さまいっぱいいるわけでしょう? なのに、どうしてこんなひどいことが起こるんだろうって」

 それに本人の目の前ではいえないけれど、俺の住む現実世界だって凄惨な殺人事件や大災害などで人の命が奪われてしまうことは多々あるわけで。神さまというのがいるのならば、なぜそういう悲劇を回避してくれないんだろう。

「……お客さん、勘違いしちゃいけませんよー?」

 俺の問いに、横からシェイラさんが割り込んできた。

「勘違い? 何がですか」

 思わずむっとして視線を向けると、シェイラさんはいつものニヤニヤ笑いで小さく人差し指を左右に振った。

「神さまにはひとを助ける義務なんかないってことですよー。祈るのは人の自由、なら助けるのも神の自由ってもんです。それともアレですか、何もかも神さまに監視・管理されるものすごく窮屈な管理世界ディストピアをお望みで? あたしは嫌ですねー、そんなつまらない世界は」

「……自己責任ってことですか。死んだ人は運や力が足りなかったと?」

「そゆことです。神さまなんてものは、人間こどもが馬鹿なことやっても、黙って背中から見守っていてくれて、笑って許してくれるだけの存在でいーんですよぅ」

 シェイラさんは腕組みして、むふー、と息を吐いた。

「……この世界の神さまは、割と好き勝手やってるみたいですが」

 確か姉妹ゲンカして世界を三つに割っちゃったりとか、なんか無茶苦茶やってなかったか。

 俺のツッコミに、シェイラさんは苦笑いして答えた。

「あはは、それは人間こどもの方にも神さまのオイタを笑って許すだけの寛容さが必要ってことかなー」

「……シェイラさんて、やっぱり神さまのひとりだったりしません?」

 これまでに会った女神って、大概~ラって名前だったんだが、唯一、~ラで女神でないのは目の前シェイラさんだけだった。前に聞いたときにはあっさり否定されたけれど、神さまに関する考えだとか、どうにもアヤシイ。

 あるいはロアさんと同じ……?

「……違いますよー?」

 シェイラさんがそっと視線を外して気の抜けた声で否定した。

 答えるまでの一瞬の間が非常に怪しかったが、無理に追求するほどのことでもなかったので、ため息を吐いて気持ちを切り替える。

「話を戻すと、結局のところ悲劇を防ぎたければ自分が力をつけるしかないってことですか」

「世の中のすべての悲劇をお客さんひとりで防ごうなんていうのも傲慢な話ではありますけれどー、少なくとも目の前の悲劇を止めるだけの実力をつけることは無駄にはならないでしょうねー?」

 要するに、つまんねーことでぐだぐだ落ち込んでないで、てめーが力を付けて自分で何とかしろ、神頼みなんかすんじゃねーってことか。

「あははー。全部シェイラちゃんに言われちゃったねーっ」

 隣に座った寧子さんが、小さく頭をかいた。

「……もう大丈夫、たろーくん?」

「ん」

 寧子さんの問いに、大きく頷いて立ち上がった。腰のソディアの柄をつかみ「力を貸してくれよな」とつぶやく。

”無論のこと。我はマスターの剣である”

 優しく力強い声に、俺はもっと強くなろう、と意識を新たにした。






「さて、この後どうされますかー、お客さんたち?」

 落ち着いたところを見計らって、シェイラさんが気の抜けた声を上げた。

「どうするって、まだ探索を続けるつもりですが」

 何を言っているのかよくわからず首をかしげると、シェイラさんはぷるんぷるんと首を左右に振った。

「いえいえ、この迷宮をクリアするのが目的でしたら、当然ボス部屋を目指すわけですよねー?

 そして目の前にはボス部屋へと続く隠し通路あるわけですがー?」

 ああ、そういえばシェイラさん、あの隠し通路の先がボス部屋に通じてるとか言ってたっけ。

「このまま地下三階を探索して宝箱を探したり、敵役を倒してコインを稼いだりしながら通常のルートでボス部屋を目指すことも当然おっけーですがー、この隠し通路を通ってボス部屋に一気にいっちゃうのもー、ということなのですが。どうなさいますかー?」

「……どうする?」

 ぐるりと見回すと、真白さんがこくこくと頷いた。

「ボス部屋いきましょうよ! これだけのメンバーそろって何度も挑戦できるとは思えないしまだ時間もあるでしょう?」

「いや、まだ連休初日だし、あと二日はあるだろう?」

 俺が首をかしげると、真白さんが「むー」と唸った。

「だって、クリアできそうなのに。わざわざのんびりする必要なんてないでしょう?」

 真白さんが口をとがらせる。俺はゲームで終わりが見えてくると、取り残しの宝箱がないかとか倒していない敵はいないかとか迷宮を隅々まで歩き回ってからボスを倒す派なのだが、どうやら真白さんはイケイケごーごーとにかく目的を果たせばおっけー派であるらしい。

「いやそういうけど。……あのシェイラさんが、自分から俺達の得になるような情報を開示してくるのって非常にアヤシイ気がしてるんだけど?」

 シェイラさんがああ言わなければ、俺たちは普通に通常の手段で迷宮の探索を続ける気でいた。わざわざシェイラさんがああ言うってことは、おそらく彼女たちにとっても俺達がボス部屋に向かうのが得であるということに違いない。

 だいたいラスボスじみたあの巨大スライムとマジバトルして退けたわけだし。あれ以上となるとおそらく本当のラスボスくらいしかいないんじゃないか、という推測も出来る。

 ……つまり準備万端整えて、俺たちを戦闘不能にするべく手ぐすね引いて待ち構えている可能性が大、ということだろう。

「考えすぎじゃないですか?」

 真白さんはすっかりやる気のようで、剣をぶるんぶるんと振り回している。真人くんやヴァルナさんも同様の考えのようで、ボス戦に向けたアイテムの準備や装備を整え始めていた。

 これは俺が嫌だと言ったら勇者候補生側の四人だけで突入しそうだな。

「……ふむ、タロウ。出発した日の翌日に帰れるという話だったがな。色々新たな魔法を得たことでもあるし、早く戻れるのであればわたしもその方がよい」

 シルヴィまでそう言ってボス戦に乗り気なようだった。

「どうする? あたしはたろーくんが思う方でいいけどっ?」

 寧子さんは保留と。

 リーアを見ると、よくわかっていないようで、ディエを胸に抱いたままふわふわと頭上を漂っていた。

『おなかへった』

 言われてみると、体感時間では結構時間がたっているのか。途中で携帯食料やらみやげ物のお餅を食べたりしたけれど、今日は色々身体を動かしたからがっつりお肉とか食いたいところだな。

「……そっか。じゃ、とっとと片付けてうちに帰るか」

 俺も意を決して、うなずいた。

「……じゃ、そゆことでー?」

 シェイラさんがにやりと笑った。

 やっぱり何か思惑がありそうだな、と思ったものの、みんながやる気になっているわけだからこの勢いのまま向かってしまうのも間違いじゃないだろう。

「ええ、お願いします」

「はい、それじゃ九名さまごあんなーい」

 嫌な笑みを浮かべるシェイラさんに続いて、俺たちは隠し通路に足を踏み入れた。




 通路は狭いので、一列になって入る必要がある。

 まずはシェイラさんが先導。続いて猫の姿のニャアちゃん、寧子さん、真白さん、真人くん。

 飛べるリーアが、その後ろにでろんと尾を伸ばしてしてディエを胸に抱いたまま続く。冥族のシルヴィとヴァルナさんのふたりは、狭い通路で仲間に触れると精気吸収をしてしまうので少し離れて後に続く。何かあっても大丈夫な俺が殿しんがりを勤めることになった。

「……ずいぶんとせまいな」

 大柄なヴァルナさんの体格では、横幅はともかく通路の高さが問題のようで、ほとんど四つんばいになってしまっている。その大きなおしりがふりふりと通路の奥に消えるのを見送り、少し遅れて俺も通路に入る。

「ヴァルナさん、大丈夫?」

「ふむ、心配無用だ少年。しかし、急に立ち止まることもあるだろうし、わたしに触れぬように気をつけて欲しい。さすがに後ろには目が付いていないからな……。いや、そうだな」

 不意に通路の途中で足を止めたヴァルナさんが、何かを思い出したかのように何事かつぶやいた。

「……え」

 一瞬、ヴァルナさんの身体が光ったかと思うと、その身体が縮んでいた。

「……ヴァルナさん変身とかするんですか」

 先ほどまでは四つんばいでしか通路を進むことの出来なかったヴァルナさんが、普通に二本足で立って歩けるほどに縮んでしまっていた。単純に背が縮んだというよりは、若返って子供の姿になったという感じだろうか。すぐ前を歩くシルヴィと同じくらいだ。

「……む、ヴァルナ殿その姿は?」

 ヴァルナさんの前を進むシルヴィも驚いたようで、こちらを振り返って声を上げた。

「冥族の特性ゆえ、わたしは少年に触れるわけには行かない。そういう状況を想定して一時的に自身の構成を変える魔法を使った。あまり多用は出来ないが」

「すごいですね」

 身体変化シェイプ・チェンジの魔法か、種族変更ポリモルフの魔法というやつだろうか。あるいはその両方なのかもしれないが。

「そうでもない。あと少年は幼い少女を好む性質のようだが、わたしに欲情はしてくれるなよ?」

「俺はロリコンじゃないですよっ!」

 からかうように小さく微笑むヴァルナさんに怒鳴り返すと、「そう怒るな少年」とヴァルナさんがくっくと声を上げて笑った。

「……ぜひその魔法も学んで帰らねばな」

 シルヴィが何かつぶやいたような気がした。






「さてー、この先がボス部屋ですよー。ちょっと中途半端なところに出ますがー」

 先頭のシェイラさんの気の抜ける声がして、隊列の歩みが止まった。

「中途半端って?」

「具体的にゆーと、天井ですねー。落ちるときには気をつけてくださいねー……」

 言いつつ、どうやらシェイラさんは部屋に降りたらしい。気の抜ける声が遠ざかって行く。

「……は?」

 降りるでなくて落ちるとか。

 ……なるほど、出口がそういうところにあるからボス部屋のほうから隠し通路が見つかることも無かったわけか。

 シルヴィとヴァルナさんに全員に浮遊の魔法をかけてもらい、ひとりづつ部屋の中に降りる。

「……ボス部屋なのに、なんか真っ暗だねっ?」

 降り立った寧子さんが不思議そうに言った。

 懐中電灯で照らすものの、どうやらダークゾーンのように光を阻害する霧の様な物が漂っているようで遠くまで見通せない。

 とりあえず隊列を整えて身構えたところに、奇妙な声が響き渡った。

「おー、ほー、ほー、ほー、ほー」

 部屋中から響く奇妙な声。どこかで聞いたような気もする。

「……なんだ?」

 今の奇妙な声は、微妙に時間差で部屋の四隅から聞こえてきたようだ。なんかスピーカーかなにかで声を響かせているような感じだったが。

 不意に、どーん、と身体に染みる重低音が響き渡り、闇がカーテンを引いたようにさっと掻き消える。

 煌々と燭台の灯りがいくつも連なり、明るく部屋を照らしている。急に明るくなったので目が痛い。

 広い部屋の中央には大きな天蓋があり、細かな模様の施されたカーペットの上に豪奢な椅子とテーブルがあり、そこに黒い衣装を身にまとった少女が優雅に腰掛けていた。

 テーブルの上のカップを片手でそっと持ち上げ、口に付けて微笑む。

「よーく、きーたー、なー! ぼーけんしゃー、ども、よー!」

 ものすごく棒読みだった。

「……!」

 カップをソーサーに戻そうとして中身をテーブルの上にこぼしてしまったらしい少女が、あわあわしながら涙目になる。そこに影からそっと小さな人影があらわれ、テーブルの上を片付けた。

「……えーっと」

 ここ、ボス部屋で間違いないんだよな?

 ってことはあの少女達がこのダンジョンのラスボスってわけで。

「……で、そんなとこで何やってるの、まおちゃん、すらちゃん?」


 俺はため息を吐きながら、問いかけた。

……まあ、お約束ということで。

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