表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第一話「女神と書いてようじょと読む」
9/246

 5、「おお勇者たろーよ、しんでしまうとはなさけない」

 ――気がつくと、薄暗い部屋の中に居た。


「……知らない天井……じゃないな」

 よく見ると自分の部屋の見慣れた天井だった。状況が分からずに混乱する。

 朝か夜かも分からない。部屋の薄暗さからして、夕方なのか?

 起き上がろうとして、身体が動かせないことに気がつく。ずしりと重みを感じる。

 ……一体、何があったんだ?

 直前に何があったのかを思い出そうとする。

 確か今朝はいつもより少し遅い時間に目を覚まして、それからちみっこどもと朝ごはんを食べて……。ちみっこどもの母親に会って、それから、そうだ、異世界に行ったんだよな?

 ずきり、と胸に強い痛みを感じた。

 草原で、何かに会って……そこから先の記憶が、ない?

 思い出せないが、そこで何かがあったのだろう。

「くそ、いったい、なんだっていうんだよっ!」

 無理に身体を起そうとしたら、何かが俺の上から転げ落ちた。

「あいた」

「ひゃう」

 薄暗くてよくわからなかったが、どうやらちみっこどもが俺の両肩を枕にするかのように抱きついていたのが身体が重かった原因のようだった。

「あ、すまん」

「おにいちゃん、ひどいのっ!」

 ベッドから転げ落ちたレラに謝ると、レラはあくびをひとつして部屋の電気を点けた。

「……教えてくれ、いったいなにがあったんだ?」

 起き上がってベッドの上で胡坐をかく。

 まだ頭がはっきりしないがあの場にはルラとレラもいたはずだ。何が起こったのか知っているに違いない。

 ふと壁掛けの時計を見ると、もう夜の九時前だった。思ったより時間が経っている。

「……」

「……」

 ちみっこどもが、いそいそと俺の膝の上に乗ってくる。

「……おおゆうしゃたろーよ、しんでしまうとはなさけない」

「じごうじとくなの、おにいちゃん」

「は?」

 ちみっこどもが何を言っているのかわからなかった。




「……つまりなんだ、話をまとめると、異世界で死ぬと俺の部屋に戻ってくるってことか?」

「そういうことなの」

「そういうことね。おにいちゃんの部屋をホームポイントにせっていしてあるもの」

「いやわけわからん。どういう理屈だ。あのカプセルベッドの装置で目覚めるんじゃないのか?」

「あんなものはかざりなの」

「えらいひとにはそれがわからないの!」

「いやお前ら……それ説明になってないから。いやそれより、俺むこうで死んだのか?」

 最後に何か、いや誰か、を見たのだけはなんとなく覚えている。

 しかしその後の記憶が無いので何がなにやらよくわからない。

「だからじごうじとくなのー。へんたいなの」

「おとめのむぼうびな姿をのぞきみた罰なのー。のぞきまなの」

 ふたりそろって責めるように俺の胸をつんつんとつつく。

「……いや、記憶に無いんだが?」

「(ひそひそ)……せいじかみたいなの」

「(ひそひそ)……つぎはひしょが勝手にやったとかいいだすわ」

「いや、もう、からかわないで教えてくれよ」

 がしがしと双子の頭を乱暴になでると、どうやら本当に俺の記憶が混乱していると分かってもらえたらしい。

「……おにいちゃん、おトイレしてたオンナノコに」

「……ざっくり殺られちゃったのー」

「むねにぽっかり穴あいちゃったの」

「ほぼ即死なの」

「たぶん、いきなりだったからあの子も手加減するよゆうがなかったの」

「でもおにいちゃんがぜんめんてきに悪いの!」

 双子がぐりぐりと俺の胸を指でつつく。ちょっと痛い。

「……なるほど。しかし、出会い頭にいきなりぶっ殺されるような世界なのか?」

 確かに、その、用を足しているところを覗いてしまったのであれば俺が悪いわけではあるが。

 それでもいきなり即死するような攻撃をされるだなんて、ずいぶん物騒な世界のようだ。

 胸に穴って、いきなり剣でも突き刺されたのだろうか。

 記憶がないので痛かったり怖かったりということはないが、そういう世界でなんのスキルも無い現代日本人がぶらぶら世界を歩けるものなのだろうか。

 おそらく異世界に居たのはほんの数分だったと思われるが、すでにもう一度行く気が薄くなっている。

「そんなことはないの」

「たぶん、たまたまだと思うわ」

 双子が顔を見合わせて、ちょっと首をかしげた。

 俺は深くため息を吐いた。今日はもう遅い時間だし、買い物にいくことも出来ないし異世界ならなおさらだ。明日また出かけるとして……準備はしっかりとしておく必要がありそうだ。

「あ、そうそう、おにいちゃん。向うで死んでもこっちではだいじょうぶだけれど、いくつかぺなるてぃがあるのよ?」

 レラがぷらぷらと何かを指でつまんで、にやぁ、と笑った。

「……あ、俺のサイフじゃねーか」

「向うでかんたんに死んでもらってもこまるから~」

「ぺなるてぃとして所持金のはんぶんをうしなうの~」

「って、現実のお金かよっ?!」

 今日は帰りに買い物してくるつもりだったし、十万近くはいってたんだが?!

 奪い取って中身を確かめるとお札が大分少なくなっていた……。

「……必要経費で落とせるのか?」

「だめでーす」

「だめよー」

 双子がにっこり笑って、どこからともなく新品の携帯ゲーム機を取り出した。

「ちなみにきえた所持金はこのげーむ機になったの~♪」

「こんどはゲームソフトになるの~」

 おい。いつのまにそんなものを買ってきたんだ。

「ムダにはならないから、あんしんして死んでね、おにいちゃん?」

 レラがにやぁ、と笑って俺にぽすんと背を預けた。






 出かける気も起きなかったので、双子にはぶーぶー言われたが買い置きのカップめんで晩飯を済ませることにした。

 風呂からあがるとさっそくちみっこどもは俺のベッドの上でごろごろしながら携帯ゲーム機で遊び始めた。

 ……昨日もどたばたしてネット出来なかったし、今日はちょっとネット巡りするかな。

 ノートPCを立ち上げて、いつも見ている大手掲示板をざっと眺める。

 あー、そうだ。スレ立てて聞いてみるのもいいかもしれんな。ネタ扱いされそうだが。

「……そういえば、守秘義務とかあるんだろうか?」

 ふりかえってベッドの上の双子の方を見ると、いつのまにか俺の背中に貼りつく様にしてちみっこどもがPCの画面を覗き込んでいた。

「……あ、きにしないでねおにいちゃん」

「……うん、遠慮しないで、すきにえっちなほーむぺーじとかみちゃっていいの」

「いや、お前らの前でそんなことをする気はないからな?」

 じっとみつめると、つい、とレラが目をそらした。

 どうやらこころにやましい所があったようだ。ちみっこのくせに耳年増なやつだ。

「ちょっと夜遅いが、お前らのママに連絡取れるか? ちょっと聞きたいことが出来た」

「あ、だいじょうぶだよ、おにいちゃん」

「異世界のことなら、たにんに話してもだいじょうぶよ」

「……ほんとうに? 寧子さんに聞かなくて大丈夫なのか?」

 ああいうテスター的な仕事というのはかなり守秘義務とかうるさいはずなんだが。

「あのセカイのせきにんしゃはわたしたちだから」

「おにいちゃんが、知っていること、知ったことの範囲内ならなにを話してもいい」

「……ふーむ」

 寧子さんも、守秘義務に関しては何も言ってなかったしな……。

 いやだいたい他人が信じる内容だろうか。

「じゃ、ちょっと掲示板に書いて見るかな……ん?」

 適当にいつも見ている板を眺めていると、ふと目に留まったスレッドがあった。

 【急募】異世界トリップとか勇者にくわしいやつちょっと来い、ねぇ。

 興味にかられてそのスレッドを開いてみると。


1 名前:勇者候補生[] ID:oRzEroYV[1/12]

  週末に異世界に逝って勇者やることになったんだけど、おまいら何用意すればいいと思う?


 週末に異世界で勇者になる、か。なんとも今の俺に良く似た状況だ。俺がスレッド立てて聞きたいと思ったそのままだ。一番最初の書き込みが金曜日の朝。丁度俺がちみっこ女神たちに会った後くらいの時間だった。

「……なぁ、ルラ、レラ。お前達、俺以外にも異世界で勇者になってとか声かけて回ったのか?」

 背後に声をかけると、ちみっこどもはいそいそと俺の膝の上に乗ってきて、PCの画面を見つめた。

「この人をえらんだのは、わたしたちじゃないわ」

「わたしたちは、おにいちゃんを選んだのよ?」

 双子がちょっと口をとがらせてぶーと息を吐いた。

「……そうか」

 この板はネタスレも多いからな。たまたま今の俺と似たような状況のネタスレが立っていたのだろうか? あるいは、こいつらとは別口で似たようなことをしてるやつらがいるのだろうか。

 1から順にスレッドを追っていく。このスレッドを立てた人物は、俺と同じように和服幼女と洋風幼女に出会い、実際に異世界に行ってきたようだった。

「……写真が貼ってあったみたいだが、もう消されてるな」

 しかし他の人の書き込みをみると、どうやら本当だったぽい。

 最後の方の書き込みでは、どうやらスライムに喰われて帰って来たようだった。派生スレッドがいくつか出来ているようだったので、もしかしたら画像があるかとのぞいてみたら。

「……うわ、ゲロイムまじでゲロイムだ」

 ゲロっぽいスライム。略してゲロイム。

「ちみっこ女神は……」

 ちらりと膝の上の双子を見る。

「服はそっくりだが、別人だな。銀髪だし、赤い目なのは一緒だが顔はお前らとあまり似てないな」

 それにうちのちみっこどもは双子だが、掲示板に貼られていたちみっこ女神ふたりはあまり似ていなかった。

「なあ、この写真のちみっこって、お前達の関係者なのか?」

 頭をなでながら聞くと、ルラがぷるぷると首を横に振った。

「しらない」

「わたしたちとは違うわ」

 二人とも興味深げに画像を眺めていたが、どうやら無関係であるらしいかった。

「……ふむ。俺もこのスレッドに書き込んでみるかな」

 ええと、なんて書こう。

 とりあえず無難なところで挨拶だけでもしておこうか。

 俺も週末、異世界で勇者になれと言われた者です。情報交換できたら幸いです、と。

 しかし、俺の書き込みはエラーになった。

「くそ、アク禁かよ」

 俺が良く見ているこの掲示板は、いわゆる荒しと呼ばれる人たちを規制するために、時にプロバイダ単位でアクセスを規制することがある。俺が契約しているプロバイダは大手なので割りと頻繁に巻き添え規制に引っかかる。

 どうやら今日は書き込めないようだ。しかし気になるスレッドだ。ブックマークしておこう。


 明日は書き込めるだろうか。

 俺と似たような状況の「勇者候補生」なる人物のことが、気になってしょうがなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ