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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第三話「迷宮で遊ぼう」
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19、「迷宮最深部 まあ、よくある迷宮の洗礼」

「あー、そういやお客さんたちー、どこまで行く予定ですかー?」

 準備を整えた俺達が地下二階への階段を降りようとした時、売店側でまだにゃんころもちを頬張っているシェイラさんのそんな気の抜けた声が聞こえた。言われてみて思い出してみるが、案内所のサクリュナさんには地下二階の訓練コースと言った覚えはあるが、ガイドのシェイラさんには何も言った覚えが無かった。

 案内所のサクリュナさんも、シェイラさんを「お仕事ですよー」と呼んだだけで特に説明とかしてなかった気がする。

「俺達は一応、地下二階の訓練コースですが……?」

 どのくらい時間がかかるものかわからないが、もう昼を回った所だから今日はあと四、五時間といったところだろうか。三連休だから別に今日中にクリアを目指す必要はないし、明日、明後日もダンジョン潜ることは出来る。どこまでいけるかはわからないが、まぁ目標としてはこの迷宮に慣れることだから、三分の一もマップを埋められればいいんじゃないだろうか。

 ……あれ、そういやここってなんだか遊園地みたいな感じだけれど、営業時間とかあったりするんだろうか。

「……え、ちょっと待って鈴里さん。訓練コースで入ったんですか? 私達は地下三階の賭博コースのつもりだったんですけど」

 真白さんが横から言う。

「そうなの? 真白さんたち、先に行く、って何も言わずに迷宮に入っちゃったから」

 ここに来ていきなり認識違いがあったとは。それなら言っておいてくれればよかったのに。俺らと違って木製の武器持って無いから、ちょっとおかしいなとは思っていたのだが……。

「あー、まとめると皆さんそろって地下三階コースということでいいのかなー?」

 シェイラさんが首を斜めにしながら腕組みする。

「じゃ、初心者さんには簡単に説明しときましょうかねー」

 ちょいちょい、と手招きされて、俺達はシェイラさんの側に集まった。

「経験者の方は、おさらいと思って聞いてくださいなー。えと、案内所でリュナっちに大雑把な説明はうけたとおもうので、具体的なルールの説明をしますよー?」

「お願いします」

 確か、地下二階は訓練施設としての意味合いが強くて、案内所で借りた木製の武器しか使えない。地下三階の賭博コースはより実践的に手持ちの武器を持ち込める、というようなことは案内所のサリュナさんに聞いたと思う。

 具体的なルールってどんなんだろうな?

「まず、当レイルの迷宮は国の支援を受けている公的な施設なので、基本的に安全第一です。これをよく覚えておいてくださいー」

 シェイラさんが指を一本立てた。

「……安全なダンジョンって、なんだかなぁ」

 思わずもらすと、シェイラさんが無表情に見つめてきた。

「私設の迷宮だと、命の保証が無いどころか、積極的に殺しにくる所とかありますのでー。この迷宮は、そういった違法スレスレの場所ではない、ということをまず肝に命じていただきたいです。ぶっちゃけ死人がでると国がうるさいんですよねー……」

「……あるんだ、そういうとこも」

「そりゃあ、ありますよー。うちは初心者を鍛えることを目的とした比較的難度の低い迷宮ではありますが、それだけに当然一攫千金みたいなことはありません。うちみたいなとこに対して、実力のある人たちが一攫千金を目指してハイリスクハイリターンな冒険をする場所だってまぁ、あるわけですよー?」

「ふむ」

 それはまぁ、確かにそうだよな。

「話は戻りますが、ですから当迷宮では事故を防ぐためのいくつかの仕組みとルールがありますー。まず、武器ですね。地下二階は非殺傷の呪いがかかった木製の武器を使用していただきますし、地下三階に挑戦なさる場合にはお手持ちの武器に非殺傷の呪いをかけさせていただきますー」

「地下二階のつもりだったから、木製武器なんだが……」

「追加料金を支払えば、ここでリッタちゃんが魔法かけてくれますよー? その場合でも木製武器はそのままご利用くださって結構ですー」

「ふむ」

 俺は火乃木の棒だし。ソディアを使えるようにしておくべきかな。真白さんも真人くんもアーティファクト持ってるみたいだし。寧子さんも剣持ってきてるっぽいし、木製ハンマーから変えてもらったほうがいいか。

 とりあえず少々心もとなくなってきた銀貨を支払って売店のお姉さん(どうやらサクリッタさんというらしい)に武器に魔法をかけてもらった。

「はい、次に魔法についてのご説明ですよー? 基本的に魔法は常識的な範囲内で使用いただいて大丈夫ですー」

 そういやドラゴン戦でも迷宮崩れるような大規模なの以外はOKという話だったよな。

「ただし、ご注意としてー、”強力な魔法ほど弱くなる”ので気をつけてくださいねー」

「ん? どういうことですか?」

「たとえばー、威力10の魔法はそのまま威力10で使えますが、威力100の魔法を使おうとしたら威力11とかに抑えられる、といった感じですねー。数字は適当ですが。ただしあくまで抑えられるのはダメージに直結する効果であって、例えば眠りの魔法であったりは効果が弱まったりはしませんー。これはまぁ、魔法で死人を出さないようにするためのルールであると共に、この迷宮が初心者向けであるのであまり強力な魔法は使わないように、ということでもあります。なので強力な魔法を連発するより、初歩的な魔法の組み合わせ、使い方による戦いを行いましょうねー」

「ふむ、留意しよう」

 シェイラさんの説明を聞いて、シルヴィが指輪のはまった左手を握ったり開いたりしながらうなずいた。

「次に降参について、です。地下二階では戦闘において降参が認められています。パーティメンバーの誰か一人が降参した時点で、パーティ自体が降参したとみなされるのでご注意くださいー。また降参した場合、速やかに規定のコインをお支払いください。ちなみに、地下三階においては降参は認められていませんのであらかじめご承知くださいー。逃げるが勝ち、という言葉もありますしー、危なくなったら逃げるが吉です。また、敵役のスタッフに関しても同様のルールになっておりますのでー、戦闘時には逃がさないで戦闘不能にしちゃってください」

 ……地下三階がより実戦的、ってそういうことか。基本的に一回負けたらもう終わりって感じなのだろうか。

「補足としては、意識を失う、眠りに落ちるなどパーティ全員が行動不能になる、の状態になると、一定時間後にお渡しした帰還の指輪が自動で発動して案内所まで転移されますー。敵役のスタッフも同様に一定時間で転移されますので、倒した敵からコインやアイテム等をお探しの際にはお早めにー。なお、お客様が戦闘不能で転移される際、一部装備品やアイテムを失うことがありますのであらかじめご承知おきくださいー」

 ……敵から取れるだけじゃなくて、こっちが取られることもあるんか。

「さてだいたいこんなとこですかねー。あ、重要なことを説明するのを忘れてました」

 シェイラさんが売店の先の方にある小さな木製の扉を指差した。

「お客様がご利用いただけるトイレは、地下一階にしかありませんので、今のうちにすませておいてくださいねー。地下二階以降は、その辺に垂れ流しでかまいませんがー、お客様のパーティは女性が多いようですのでー」

「おおう」

 垂れ流しって、それ歩くほうも気をつけなきゃ色々やばいんじゃね? 踏んづけたくないぞ。

「なお、基本的に絶対安全な場所、というものは存在しませんので、休憩や小用などの際には見張りを立てるなどご注意くださいねー」

 にやにや笑いでシェイラさんが言った。いや、俺、女性陣のおトイレに着いて行ったりしないからな?

「……最後に、もう一度言っておきますが、当迷宮は初心者の育成を目的とした訓練の場であり、殺伐とした殺し合いの場ではありません。意図的に命を狙う行為、あるいは重傷を負わせる行為は謹んでください。もっとも、武器や魔法を使って行う実戦的な訓練である以上、事故というものはどうしても起こり得ますので、一応最悪の事態は覚悟しておいてくださいねー」

「……そうならないように、努力しますよ」

「そう願いたいものですねー」

 そう言ってシェイラさんはちょっとだけ微笑んだ。




「みんなトイレは済ませたよな?」

 見回して声をかけると、「もちろん」と真白さんがうなづいた。

「じゃ、今度こそ行くぞ!」

 もう一度隊列を確認して、それから俺達は地下二階へ続く階段を降り始めた。




 地下二階への階段は、地上から地下一階へと降りるときとはまた違っていた。地下一階の時には壁はただ石を積み上げた物で、ところどころカビて黒ずんでいたりしたのだが、地下二階へ階段はよくわからない謎のつるつるした材質で出来ていた。壁も同じような材質で、懐中電灯を近づけてみると、黒い半透明なガラスのようにも見えた。継ぎ目のようなものはなく、奥の方に明かりを反射してキラキラ光る何かが浮いているようだ。

 階段は踏みしめるたびに波紋が広がり、波紋がわずかに光を発して壁を伝わって広がってゆく。歩くたびにピン、という澄んだ音と波紋が広がるのが面白くて、思わずスキップをするように階段を駆け下りたら、途中で足がすべって何メートルが尻を打ちながら転げ落ちる羽目になった。

「子供ですか」

 真白さんが呆れたような声を上げる。

「そう笑うなよ。なんか異世界ぽくて、すごいじゃないか」

 シルヴィが癒しの魔法を使ってくれたので、それほど大したことにはならなかったが、後悔はしていない。機会があればまた駆け出したくてうずうずしている。

「ちみっこちゃんたちがいなくなったら、鈴里さんが子供みたい」

「そうですねー」

 真白さんに賛同する気の抜けた声。あれ、と思って振り返るとシェイラさんが着いてきていた。

「あれ、シェイラさん? 案内って地下一階だけじゃなかったんですか?」

 声をかけるとシェイラさんは首を横に傾けてにやあ、と笑った。

「……本来は地下二階まで案内するのがお仕事なんですねー。ルールを説明しても、理解されていない初心者の方けっこういらっしゃいますのでー。お目付け役というかー?」

「いや、子供じゃないんですから」

 思わず苦笑すると、シェイラさんは首を傾けたままにこりともせずに言った

「いえ、特にあなた方は初心者にしては攻撃力のあるパーティのようですから。先に説明したルールは、敵役のスタッフにも適用されます。つまり、あなた方がスタッフを害しないか、気にしてるということですよー? 他にも理由はありますが……」

「……ああ。なるほど」

 俺達みたいな初心者って、加減って物をしらないからな。どこまでやっていいかという経験が足りないから。

「じゃ、ご自由に」

「ええ、そうさせてもらいます」




「ここから一気に地下三階におります」

 階段を下りて地下二階に着いたとたんに、真白さんが宣言した。

「え、今地下二階ついたばっかりだけど?」

「ショートカットがあるんです」

 言いながら真白さんは壁に近付いて冒険者カードらしきものをかざした。

「冒険者レベル5以上になると、ここからショートカット出来るんです」

「また、隠し通路とか……っ?」

 不意に足元が。

 ぽっかりと。

 真白さんが、悪戯っぽく微笑んだ。

「最下層へはシュートがお約束ですよね?」

「先に言ってくれっ!!」




 シュートというのは要するに滑り台みたいなものだ。落とし穴と違ってダメージを受けうことはなく、多くの場合下の階層に向かって割と急なスロープになっている。

「ひゃっはー! 滑り台たのしいねっ! たろーくんっ」

 寧子さんが楽しげに笑いながら、盾をそりのように尻の下に敷いて滑り降りてゆく。

「っく!」

「きゃー」

 俺は頭にしがみついている妖精(偽)ディエをつぶさないように胸の前に抱きしめ、なんとか体勢を整えた。長い滑り台だ。いったいどれくらい滑り落ちるのだろう。

 数分、あるいは数秒だったのかもしれないが、何度も蛇行しながら螺旋状に下って、俺達は最下層にたどり着いた。

「危ないぞ、どいてくれ」

 後から続いて皆が滑り降りてくる。あわてて場所を空けながら懐中電灯で周りを見回す。どうやら小部屋になっているようだ。

「真白さん、ちょとだけ潜ったことある、みたいな言い方だったけど、最下層へのショートカット開通してるとか、もう、かなり探検すすんでるんじゃないの……?」

 ちょっと不満げに滑り降りてきた真白さんを見つめると、ついと目をそらした。

「それより、隊列を整えたらさっそく冒険です!」

 ごまかすように真白さんが言って。

 こふー、という謎の音に全員が振り返った。

「……っ?」

 シュートの降り口に、異様な面を被った誰かが、首を横に九十度傾けた姿で、奇妙に体をくねらせて立っていた。インドネシアとか、東南アジアのみやげ物でありそうな、木彫りの面。

「誰だっ?」

 ……って、いや、あの服ってもしかしてシェイラさんか?

「って、シェイラさん?」

 シュートに巻き込まれて、一緒に降りてきちゃったんだろうか。

 俺の問いかけに謎の人物は答えることなく、異様な面の奥でただ、こふー、と息を吐いた。

 首を傾けたまま、そのままくるりと身体を回転させ。

 気がつくとその背に異様な長さの大剣を背負っていた。身長の倍はあるだろうか。三メートルはありそうな巨大な剣を、軽々と背負ったまま、くるり、くるりと身体を回転させている。


「……シェイラ、さん?」

「こふー」

 背負った大剣が、ぱかりと二つに分かれる。

「こふー」


 そうして、いきなり、襲い掛かってきた!

 こふー。

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