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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第三話「迷宮で遊ぼう」
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17、「妖精さんのひみつのおはなし」

「んー、たろー君。ちょっとこっちに来てくれるかな?」

 ん?

 呼ばれて振り返ると、ちょっと離れたところでニャアちゃんと一緒ににゃんころもちを頬張っていた寧子さんが、いつになく真面目な顔で俺を手招きしていた。

 どうしたんだろう。

「……なんですか、寧子さん?」

 目を回した妖精さん、ディエンテッタを抱えたまま向かおうとしたら、寧子さんが”脇に置く”仕草をしてみせた。どうやらこの子は置いて来いということらしい。

 ちょっとだけ疑問に思ったが、とりあえずハァハァ荒い息を吐いている真白さんに預けるとやばそうなので、ちみっこたちに「この子頼むな」と言い残し、ディエンテッタを元居た箱の中にそっと戻して寧子さんのところへ向かう。

「なんでしょう?」

 声をかけると寧子さんは口の中のものを飲み込んでから、ぷはーと口を開いた。それから膝の上の黒猫ニャアちゃんのお耳をなでなでしながら、真面目な顔で俺を見つめる。

「……うちのちみっこちゃんたちも言ってたけどさ、あの子、妖精じゃないんだよ。それどころか、この世界のものじゃない」

 ひどく重要なことを告げるように、重い口調だった。いつも軽くてアッパー系な寧子さんらしくない。しかし、告げられた内容自体は想像の範疇だったので特に驚くことなく俺はうなずいた。

「ああ、やっぱり。寧子さんの世界っていうかウチの世界のネタ言ってたから、もしかしたらと思ってたんですが」

 ちらりと振り返ると、真白さんが箱の中のディエンテッタを携帯で絶賛激写中だった。ちみっこたちが横に手を広げて「おどりこさんにふれちゃだめなのー」とディエンテッタをガードしている。どこで覚えたそんなセリフ。

「あの子、まおちゃんみたくなんかでこの世界に紛れ込んじゃったんですか?」

「ちょっと待って、たろー君。まだ先があるんだよ」

「え?」

「……あの子、あたしの世界の存在みたいなんだけど。あたし、あんなの知らないのよ」

「……どういうことです? いつも自分のこと全知全能だなんて嘯いてるくせに」

 いやまぁ、いくら神さまっていったって、全世界のすべての個々の存在を知っているわけなんて無いから、そういうこともあるんじゃないかと思うんだが。

 ルラレラ世界のソースコードを見たこともあるから、あの全てを完全に把握するのは非常に難しいことも想像がつく。だから、俺は寧子さんの知らない存在があることに特に疑問を覚えなかったのだが、寧子さんは「んー」とちょっと口をとがらせて不満げな息を吐いた。

「もう一度言うよ? たろー君。アレは、あたしの世界の存在でありながら、あたしの管理の外にある」

 噛んで含めるように、ゆっくりと寧子さんが言った。

「……それの何が問題なんですか?」

 よくわからない。首を傾げた俺に、寧子さんがにゃんころもちを差し出してきたので受け取ってひと口かじる。甘いお餅だった。中華の桃まんじゅうみたいな感じだろうか。もっちもちな食感は割と癖になりそうだ。

 寧子さんも新しいにゃんころもちに手を伸ばし、はむ、と噛み付いてから俺をじっと見つめてきた。

「……例えば話、さ。たろー君はあたしの世界の存在だから、あたしがその気になればたろー君に対して何でもできるんだよ? 文字通り何でも。生まれたときから女の子だったことに設定を書き換えるなんてこともできる。この場で原子のチリに変えて、次の瞬間元に戻すことなんてこともできる。物理的な意味合いだけでなくて、こころの中身を書き換えることすら出来る。今すぐあたしのことをらっびゅーんでめろめろにすることだってね。創世神を名乗ってるのは伊達じゃないよ? あたしはあたしの被造物に対して絶対の権限を持っている」

 軽い口調で割ととんでもないことを言われた気がする。

 女神を名乗る人物は若干名をのぞいて割とフレンドリーな人が多かったので、へへー女神様ぁなどとへりくだったりすることなどなかったのだが。よく考えてみれば、この人実はけっこーやばいことできるんだよな……。ねこみみちゃん生み出すために核戦争起こそうとかしたこともあったよな確か。

「……でもね、アレはあたしの管理の外にある。構成要素があたしの世界の存在でありながら、あたしの自由にならない。まったくあたしたちと関係ない異世界の存在だっていうならまだわからなくも無いんだけど、はっきりいって、正体不明」

 寧子さんは、肩をすくめてため息を吐いた。

「……だから、気をつけてねっ! たろー君。ぜんちぜんのーなねいこちゃんにも、何が起こるか予想できないから」

「何が起こるか予想できないなら、ぜんちぜんのーと違うような気がします」

「あははー、そういわれてもしかたないねっ!?」

 寧子さんはこれまでの重い雰囲気を吹き飛ばすように明るく笑った。

「でもって、もう一点注意ねっ? あの子を冒険につれてく気なら、気をつけてね。あたしの管理下にないってことは、何かあった時に命の保障できないってことだから。ロラちゃんぐらい自力で何でもできる子だったらいいんだけどさー」

「……それって、もしかして、ディエンテッタが怪我したり、深刻な状態になっても助けられないってことですか?」

「そゆこと。たろー君とかなら胸にぽっかり穴が空いても治してあげられるんだけどねっ? だから、気をつけてあげてくださいっ!」

 にっこり笑う寧子さん。

 そういや俺、実感ないけど二回も死んでるんだよな……。りあちゃんやすらちゃん、シルヴィなんかも、何の考えも無しにつれてきちゃったけど、本当なら迷宮探検なんて命の危険があって当然の場所なのだ。自分が死んでも大丈夫だからって、無責任に連れて来ていい場所じゃないんだよな。

「……わかりました。気をつけます」

「うん、お願いしますね?」

 寧子さんがにゃんころもちを、はむはむして、幸せそうな顔でほうと息を吐いた。

 その膝の上で、ニャアちゃんが黙って寧子さんを見上げていた。

「……もしかして今のってなんか、あたしが聞いちゃマズイ話だったりするのかにゃ?」

「そんなことないよっ?」

 ごまかすように、寧子さんがニャアちゃんのお耳をなでなでした。

 ……実際どうなんだろうな。こういった裏事情みたいのって、異世界の人間に喋ってしまっていいのだろうか。寧子さんはどうも、ニャアちゃんがいることを忘れてうっかり喋ってしまったようにも見えたが。

 口止めもされてないし、いいのかな。





「あれ」

 ふと振り返ると、妖精さんの箱の側には誰もいなくなっていた。

 どこだろうと見回すと、ひよひよと宙を漂う妖精さんが、リーアとりあちゃんの所にいた。

 ちみっこたちは相変わらずしっかりとガードしてくれているようで、真白さんが悔しそうに携帯で写真を撮っている。

「――♪」

 リーアが小さく声を上げると、答えるように妖精さんがくるりと宙を舞う。

「おさかなさーん!」

 ディエンテッタが、叫びながら、両足のニーソックスをぽいぽいと脱ぎ捨てた。それからスカートの中に手をつっこんで、ぱんつらしきものまで脱いだ。脱いだそれらを「ぽいぽーい」と投げ捨てながら、ディエンテッタはリーアに向かって急接近。

 いったい、何を?

 くるりと一回転したディエンテッタが、リーアの魚のようになった下半身に触れた。

 その瞬間。

 ディエンテッタの下半身が、リーアと同じように魚のしっぽになった。

「おさかなになった、わ・た・し♪」

 ぴちぴちと魚のしっぽをふりふりして、空中で何度も宙返りをする。

「なっ?」

『でぃえんてった おさかな!』

 興奮したリーアもぱたぱたとホワイトボードを振る。

「……今のは何なんだ?」

 見ているうちに、ディエンテッタが今度はまだ気を失っているりあちゃんのしっぽに触れた。

 とたんに今度は妖精の翅のかわりにコウモリのようなはねが生え、トカゲのようなしっぽと二本の足。こめかみには角が生える。

「どらごーん! ごんごーん!」

 ひゃっはー! と楽しげに声を上げ、りあちゃんと同じような半人半竜のすがたになったディエンテッタが空中を飛び回る。

「……変身能力?」

 つぶやいた俺の方へ、ディエンテッタが「ぎゅーん!」と声を上げながら飛んでくる。

「おにーさん、おなかへったっ! わたしはお昼ご飯をたべたいです!」

 俺の頭の上にちょこんと乗ると、俺の髪の毛を引っ張って催促する。

「食うか?」

 とりあえずにんころもちをひとつ差し出すと、「うにゅう」とつぶやいてから受け取った。

「おいしーけど、ちょっと食べ飽きたかな。しぇいらは売れ残りならただですよーってお餅しかくれなかったし」

 虐待されてんじゃねーのか、それって……。モノみたいに景品にされてたしな。

 そういや、シェイラさんなら何かしってるのかも。

 俺は頭の上に妖精さんを乗せたまま、売店の側のシェイラさんのところへ向かった。

「すっかり気に入られたようですねー」

 シェイラさんは売店のお姉さんと一緒にお茶を飲んでいた。お茶請けはやっぱりにゃんころもちだった。

「シェイラさん、この子、どういう経緯で景品なんかになってたんですか?」

「景品、というのはちょっと人聞きがわるいですねー。それなりに運と実力のある冒険者との縁を取り持った、というだけの話でしてー。先に言ったようにデェエちゃんが嫌がったならそこまでの話だったわけでしてー」

「ほんとうは?」

「無駄飯ぐらいを押し付ける先ができてよかったなー、ってなに言わせるんですか」

「……なるほど」

 ディエンテッタが了承するならそれでよし、嫌がるようでも先に使用者を選ぶと名言した上で交換したわけだから文句を言われる筋合いはなく。いずれにせよ交換に使った一等から五等のアイテムは回収できるというわけか。どうりでにやにや笑ってたわけだ。向こうにとっては懐が痛まないよい取引だったと言うわけだ。

「もう一度聞きますけど、どういう経緯でこの子はここに来たんですか?」

「知らないですよー? 迷子みたいなもんでしょうか。いつの間にか最下層に居たんですよね」

「わたしもしらなーい!」

 頭の上のディエンテッタが能天気に笑う。悩みがなさそうでいいな。

「でも、推測でよければ」

 シェイラさんがお茶をすすった。そういや俺ももち食ってばっかでお茶が欲しい所だな。物欲しそうにしていると、売店のお姉さんが湯のみにお茶を注いでこちらに差し出してきたので礼を言ってありがたく受け取る。

「なにか心当たりでも?」

「このレイルの迷宮はですねー、前にもちょっと説明したと思いますが元々は二千年くらい前のとある魔術師が作成した迷宮なわけですがー。この魔術師、専門が黒魔法だったったらしくてですねー。いくつも世界に穴を空けた人らしいんですよ」

「世界に穴をあける? それに黒魔法って?」

「おや、魔法に関する知識はあまりおありでないようですねー? 黒魔法っていうのは別の世界の法則や理ですからして、当然世界に穴を空けて他所の世界につなげなきゃ持ってこられないわけですよー? そのせいですがこの迷宮、特に最下層はたまに変な物が迷い込むことがあるんですよねー。世界の穴なんてとっくにふさがってるはずなんですが」

 ずずず、とお茶をすすってひと息吐くシェイラさん。

「……あるいは、世界に穴を穿つために犠牲にされたイケニエの呪いだったりするのかもですねえ? たまに妙な物が見えたりおかしなことがおこったりするのは」

 くっくっく、とまるで怪談でも話したかのように不気味な笑顔でシェイラさんが話を締めた。

「こわいはなしは、夜おといれにいけなくなるのでだめーっ!」

 頭の上のディエンテッタが俺の髪の毛を引っ張った。

「いったいお前さんは何者なんだろうな……?」

「わたし? わたしは人工生命体ほむんくるすです。きゅーきょくのせいめいたいなんだよ」

 意外なことに、本人から回答があった。

「ホムンクルス?」

「にんげんを越えるモノの試作品らしいよ?」

 ぴょこん、と俺の頭の上からとびおりて、くるんと宙返りをして、えへん、と胸を張ってみせるディエンテッタ。いつのまにかまた妖精さんの姿に戻っているようだ。

 というかお前さっきぱんつ脱いでたろ。宙返りははしたないからやめなさい。

「……」

 ホムンクルスといえば、錬金術がぱっと思い浮かぶ。あるいは、バイオテクノロジー?

 どうも異世界とは時間軸ずれることがあるみたいだし、まおちゃんもこともある。寧子さんが知らないということもあるし。もしかしたら、ずっと未来からやってきた生物兵器とかあるんじゃないだろうか、なんて考えが頭に浮かんだ。

「……ちなみに今って西暦で何年?」

「えー? たぶん1994年くらい? おぼえてなーい」

 いや過去からきたんかい。それも二十年近く前とか。道理でなんかネタが古いわけだ。

 しかし、西暦と聞かれて何の疑問も持たずに返してくる当たり、俺と同じ寧子さんの世界から来たのは間違い無さそうだった。

「……そういえば、聞いてなかったな。どうする、ディエンテッタ。俺の、俺達の冒険についてくる気はあるか?」

 宙に浮かぶ妖精さんに手を伸ばすと、ディエンテッタはその手の上にひょいと腰を下ろして、にぃ、と笑みを浮かべた。

「おいしーごはんをたべたい」

「まかせろ」

 そのくらいの甲斐性は見せてやる。

「じゃ、ついてくよ。よろしくね、おにーさん。あと、わたしのことはディエでいいの」

「そっか、よろしくな、ディエ」

 そっと手を伸ばして小さな頭をなでてやると、「ん」とちょっと目を細めてディエが微笑んだ。

 もともと第三話で妖精さん出す予定なんかなかったので筆が重いったらありゃしない……。

 次は掲示板になるか本編か微妙な所。いずれにせよたいぶ長くなってきたので地下二階はたぶん省略される予定。地下一階とか2部で終わらせるつもりだったのに10部近く書いてるし。第四話のネタがちらほら出来てきてはやく書きたくてしょうがないです。

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