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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第三話「迷宮で遊ぼう」
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13、「迷宮第一層 この世で最も理不尽にして非常識な存在、それは」

「えーっと、こちらの勝ち、ということでいいんだよな……?」

 巨大な竜型の機動兵器から転がり落ちてきたミルトティアにちらりと目をやり、それから少し離れた場所でこちらを見物していたシェイラさんの方を見る。

 シェイラさんは首を横にかくんと傾けて、「ミルちゃん、ふぁいとー」と気の抜けた声をあげた。しかし、ミルトティアさんはえぐえぐと涙目で首を横に振る。

 シェイラさんは首をかくんと傾けたまましばらく黙っていたが、やがて深くため息を吐いた。

「……しかたないですねー」

 言いつつ壁に触れると、囚われ役のケイさんが入っている巨大な鳥かごのようなものが、ガラガラと鎖の音を響かせて床まで降りてきた。黒い鎧を着たケイさんもなんだか複雑な表情をしていたが、気を取り直したようにひとつ咳払いをして鳥かごからでてきた。

「……よくぞ囚われの我を助け出してくれた、勇者たちよ」

 芝居がかった口調で、ケイさんの良く通る声が部屋に響き渡る。囚われの王子様の役所なのだろう。やや大仰ではあるが、立ち居振る舞いはホンモノの貴族のように様になっていた。

「褒美として、この剣を授けよう」

 ケイさんはつかつかとこちらに歩み寄ってくると、腰に下げていた何か金属製の筒のようなものを寧子さんに向かって差し出した。

「やっふぃー! れああいてむ、げっとだぜぃ!」

 寧子さんは満面の笑みで奪い取るようにその金属製の筒を両手で頭上に掲げ、たたたと俺のところに駆け寄ってきた。

「たろーくん、やったよ! ひゃっほい!」

「ああ、はい、すごいですね、寧子さん」

 方法はともかく、結果的に中の人が負けを認めた以上、勝ちは勝ちだ。つい、ちみっこどもを褒める時のように寧子さんの頭をなでてしまってから、年上の女性に失礼だったかなと思い直して手を引っ込めようとしたら、その手をぐいっと引っ張られて謎の金属の筒を渡されてしまった。

「ぷれぜんとだよっ! 今後の冒険に役立ててくださいっ!」

「え、ありがとうございます」

 子供っぽい所のある寧子さんだから、さっそく振り回しでもするのかと思っていたら意外だった。

 ……しかし、これ、剣ってケイさんは言ってたよな?

 リレーのときに使う、バトンくらいの大きさの金属の筒だ。筒とは言っても穴は片方にしか空いておらず、その穴も窪み、と言った程度のものだ。どう見ても剣には見えないのだが、こういう形状のもので「剣」といってしまうと、ある期待が湧き起こってしまう。

 もしかして、あれか、ライトセーバーとか、ああいった類のやつかもしかしてっ?!

 おそらく窪みのある方が刃の発生する方だろうと見当をつけて、両手でそっと筒を握り締めると、右手の親指が当たるあたりに何かボタンのようなものがあるのに気がついた。

 ぽちっとな、と迷わず押す。が、特に反応はない。

「……これどうやって使うものなんですか?」

 ケイさんを見ると、右手をくるっとさかさまに回転させるジェスチャーをしてみせたので、ちょっと不思議に思いながら窪みの方を下に向ける。すると。

「おお!」

 窪みから何か水銀のような、液体の金属だろうか、たらりと流れ落ちた。そのまま一定の長さまで伸びると両刃の刀身の形状になる。わずかに反っていて、両刃ながらもまるで日本刀のような形状だ。

「なんかすっげー!」

 ライトセーバーではないようだったが、これはこれでなんか凄そうな武器だ。鞘がなく、使うたびに刀身を形成するということは、お手入れなんかもいらないんじゃ?

「……その剣はいにしえつるぎと呼ばれる武器だ。扱いに慣れると、ある程度刀身の形や質を自由に出来るようになる。作られた当時は割とありふれた武器だったらしいのだが、製法が失われた現在では、永劫の夢幻迷宮で稀にしか見つからない、それなりに希少なものだ。大事にして欲しい」

 ケイさんが説明してくれる。

「へぇー」

「ここにはないが、いくつかの付属品を付け替えることで属性を持つ剣にもなるらしい」

「おおー!」

 炎の剣とか、氷の剣とか、やっべーあこがれるっ!

「……まさか、初心者に持っていかれるとな」

「……なんかすみません」

 思わず頭を下げると、ケイさんは苦笑して首を横に振った。

「いや、気にすることはないよ」

「いや、気にしろー!」

 不意に上がったかわいい声の方に目を向けると、ようやく泣き止んだらしいミルトティアが両手を振り回すようにして頭から湯気を立てていた。

「すっごく痛かったんだからっ! でも、しょうがない、負けちゃったしっ! でも痛かった!」

 怒ってるんだかなんだかよくわからない。なんかループしてるし。

「ところで、こっちのドラゴンって、みんなああいう機動兵器に乗って戦うものなんですか? それともああいうものに乗って戦う人のことをこちらではドラゴンと呼ぶんですか?」

 いきなり戦闘になっちゃったので、ほんとに目の前の少女がドラゴンなのかすらきちんと確認できていなかった。何とはなしに聞いてみると、ミルトティアはパチパチと何度か瞬きをして俺を見つめてきた。それからりあちゃんの方に目を向けて、もう一度俺を見た。

「……あんたたちがどこから来たのかしらないけど、今の質問の答えは、両方とも正しい、だよ。竜体を操るには竜族ドラゴンの因子が必要だから、必然的に竜体を操る者は大体が竜族ドラゴンってことになる。そして成人した竜族であれば概ね自分用の竜体を持っているもの」

「あ、じゃあ見た目は普通の人間みたいだけど、りあちゃんとおなじ竜族なんだ?」

 ミルトティアにはりあちゃんのようなこめかみの角もなければ、しっぽも生えていない。だから竜族じゃないのかと思っていたがどうやら同じ種族であるらしい。

「……ややこしい話になるんだけど、あたしは竜の呪いを受けた人間であって、純粋な竜族とはちょっとちがうわね。ま、あんまり他人にべらべら話したい内容でもないので詳しくは聞かないで」

 ひらひらと手を振って、この話はおしまい、と笑う。

「すまぬが、ミルトティア殿、もう一度手合わせを願えないだろうか」

 こちらの話が落ちついたところを見計らって、りあちゃんがミルトティアに声をかけた。

「出来れば、あの巨体ではなく、生身で剣を交えたい」

 りあちゃんはどうやらあの機動兵器との戦いが不完全燃焼だったらしい。俺も結局魔法一発試しただけだったし、いいところは全部寧子さんに持っていかれたし、微妙にもやもやが残っている。

「えー、もう景品ないし、だいたいあたし、生身の方が強いよう? それでもよければ相手したげるけど。あ、もしかして生身なら勝負になるかとおもってた? 残念だねっ!」

「な!」

 りあちゃんが声を上げた。言われたとおり、あの理不尽な巨体ではなく普通に剣を交えればそれなりに勝負になるだろうという目論見だったのかもしれない。

「……貴様、私を馬鹿にしているのか?」

 りあちゃんが顔を紅潮させて、ミルトティアをにらみつけた。

「ん? 気に障ったのならごめんね。さっきは全然いいところなかったから、もういちど竜体と戦いたいっていうならわからなくもなかったんだけど、一見弱そうに見える中身と戦いたいなんてゆーからさぁ、思い違いを正しとこうと思ってね」

 ミルトティアは邪気のない顔で笑った。

 それからおもむろに拳を握って、天井に向けて軽く振るった。

 ごぎん、と何かが砕ける音。

「な」

 見上げると、巨大兵器の竜の首が、ぐらりとゆれて落ちてくるところだった。

 素手の、しかも直に当たったわけでもない攻撃で、あの巨体の首を砕くとか、何者ですかこの人はっ! つーかおまえは聖闘士かっ?!

 なんてゆーか、ロアさんに通じる無茶苦茶さが……ってまさか。

 ミルトティアは、落ちてきた巨大な竜の首を片手で受け止めると、無造作に床に転がした。ずん、と軽く地面が揺れ、巨大な竜の首が虚ろな目を虚空に向ける。

「一応あたし、元勇者だからね。そのつもりでかかってこーい!」

 腕を組んで仁王立ちし、勇者を名乗るドラゴン少女が不敵に微笑んだ。




「……勇者って、みんなあんな感じなのか」

 ってゆーか、俺、ああいう無茶苦茶なのになるのを期待されてるのか?

 思わずルラレラを見つめると、ちみっこどもはにへら、と相好を崩して俺の服の裾を掴んだ。

「おにいちゃん、かっこよくなってね!」

「おにいちゃん、すてきなでんせつをつくってね!」

 きらきらした眼差しで見つめられると、ため息を吐く他ない。ごまかすようにちみっこどもの頭をがしがしと撫で回す。

「……で、二回戦目どうする?」

 機動兵器も無茶だった気がするが、中身も割と非常識だった。俺達が束になって傷一つつけられなかった巨体を、空の拳であっさり打ち砕くようなとんでもない少女相手に、俺達が出来ることなどあるだろうか。

「もともと手合わせを望んだのは私だ! 私だけでよい」

 りあちゃんが、紅潮した顔のまま、やや鼻息荒く吐き捨てた。先の非常識な一撃を見ても、戦意が衰えないのはなかなか凄いと思う。

 俺の視線に気がついたのか、りあちゃんは口をへの字にする。

「……あんなもの、なにかの仕掛けに決まっているだろう。素手の拳で出来るわけがない。はったりにきまっているっ!」

 どうやら興奮のあまり、頭にすっかり血が上ってしまっているようだった。ミルトティアさんの馬鹿にするような態度もアレだったが、今のりあちゃんは俺にケンカを吹っかけてきた時のようなよからぬ感情に囚われているような気がする。最近はすっかりまるくなっていたが、りあちゃんはこういう怒りっぽいところもある子なんだよな。

「……まぁ、ちょっと落ち着こう」

 りあちゃんの両肩に背後から手を乗せる。

「な、何をタロウ殿?」

 驚いたようにりあちゃんが肩をすくませるが、かまわず優しく肩を叩く。

「勝ち負けはおいといて、純粋に手合わせしたいってことなら俺もいくつか手助けはする」

 軽くマッサージするように、その小さな肩をなでてやる。

「ただ馬鹿にされたから、って怒りを相手にぶつけるだけならやめとけ。ケガするぞ?」

「しかしっ! あのような! ……いや、すまぬ勇者タロウ殿」

 あるいは、以前自分が俺に突っかかってきた時のことを思い出したのだろうか。あのときはりあちゃんの方が俺を挑発したのだったが、逆にミルトティアに挑発されて自分のことしたことを思い出して冷静になったらしい。

 少し落ち着いたりあちゃんの頭に、ぽんと手を乗せる。

「ちょっと、りあちゃんを調べてもいいか?」

 これまで使う機会がなかったスカウターの電源を入れる。カーソルを切り替えてりあちゃんに合わせる。

「む? 何をするのかは知らぬが、否はない」

「敵を知り、己を知れば百戦危うからずってな」

 許可を得たので、りあちゃんのステータスを表示させる。



  名前  :リア・ティーグ

  種族  :竜族(女)

  職業  :神殿騎士

  レベル :21

  戦闘力 :320

  好感度 :80%


  称号  :「りあちゃん」

       「ちびどら」

       「蒼天のサファイア・竜姫ドラゴンプリンセス


  コメント:まおちゃんの従者のどらごんさんなの。

       どらごんだぞー、なの。

       ひをふくぞー、なの。

       意外と根は素直なおんなのこなの。



 ソディアを持った俺が、戦闘力55だったっけか。

 やっぱりあちゃん、言うだけの実力はあるっぽい。

「今のりあちゃんの強さは、320ってところだ」

 ミルトティアさんにカーソルを合わせる。

 カーソルを合わせた瞬間、にやり、と笑ったので、どうやらみぃちゃんやロアさんと同じようにこちらが何かしようとしていることに気がついているらしい。

 何も言わないので許可を得たと解釈してボタンを押す。



  名前  :ミルトティア

  種族  :竜神(女)/人間形態

  職業  :ケイのお嫁さんの予定(永久就職)

  レベル :15272

  戦闘力 :23253345

  好感度 :10%


  称号  :「竜殺し」

       「竜呪の勇者」

       「かわいいお嫁さん候補」


  コメント:変り種のどらごんさんなの。

       わるいどらごんを倒したときにかけられた呪いで

       どらごんになっちゃったの。

       ちなみに変身すると戦闘力がはねあがるの!



 ……なんとなく、そんな気はしていたけれどレベルと戦闘力がハンパない。

 みぃちゃんがおなじくらいだったかな。ロアさんレベルでなくてよかったと言う所だけれど何にしたってとんでもない強さであることは間違いない。

「……その、りあちゃんに対して、みるとてぃあさんの強さはだいだい2300万ってところだ」

「……っ?!」

 りあちゃんの小さな肩が、びくんとはねた。俺が肩に手を乗せているせいで振り返ることが出来なかったのだろう。後頭部を俺の胸に当てるようにして下から俺の顔を見上げてきた。

 黙ってうなずくと、その小さな肩がすとんと降りた。

「そうか、私もまだまだ修行が足りんな。相手の強さすら見極められなくてどうする」

 信じられない、と声を上げるかと思ったが、どうやら素直に俺の言うことを信じたらしい。

「……やめとくか?」

「いや、かえってやる気がでたな」

 りあちゃんはちいさく微笑んで、木剣を構えた。

「そっか」


 りあちゃんの、ちょっといいとこみてみたい。

 俺は、その小さな肩をそっと押し出した。

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