表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第三話「迷宮で遊ぼう」
74/246

12、「迷宮第一層 例えどらごんでも痛いものは痛いらしい」

 通称お台場ガンダムと呼ばれるものをご存知だろうか。機動戦士ガンダムというアニメに出てくる、ガンダムという身長十八メートルほどの人型のロボット兵器を一分の一で再現した、なんとも男のロマンあふれるシロモノなのだが。

 その元となったガンダムというアニメを俺は見たことがないのだが、ゲームの類で良く出てくる上に、そのアニメの続編は最近でもやっていたので「モビルスーツ、ちょっと見てみたい」と思って数年前、公開された当時にわざわざお台場まで足を運んだのだ。

「……ちょ、でけぇ」

 お台場ガンダムが設置されている広場の周りは高い木々で囲まれていたのだが、まだ広場から大分離れているというのに、その木々を越えて巨大なロボットの頭部がにょっきりと生えていた。その巨大さがわかろうという物である。

 設置されている広場にいたってはもう言葉もなかった。

「まじやべえ、すっげーでけぇ、ちょーかっけー」

 アニメで見ている分には機動兵器の巨大さというものは単に人や周りの背景との対比でしかわからず、それほど大きいと思わなかったのだが、一分の一で再現されたロボット兵器の存在感は半端なかった。思わず両手を合わせてありがたやーと拝みたくなってしまうほどに。

 でかい存在というのは、ただそれだけで迫力があるのだ。凄まじいまでの存在感があるのだ。


 ……つまり、長々と語ってきて何を言いたいのかと言うと。

「どらごんマジでけぇ、すっげぇやべぇ、ってゆーかマジ死ぬ」

 お台場ガンダムの比ではなく、でかかった。下から見上げたドラゴンの両肩がちょうどガンダム同じくらいだろうか。さらにその上には長く伸びた首がだらりとぶら下がり、こちらを見下ろしている。頭の先からしっぽの先までぴんと伸ばして測ったら、六十メートルはあるんじゃなかろうか。翼のようなものはないようだが、仮にあって広げたとしたら。りあちゃんの身長と翼の大きさから考えて全幅二百メートルにはなるのではないだろうか。

 なんていうか言葉も無いくらいにでかい。迫力がある。

 ファンタジー系のRPGなどで出てくるドラゴンなどは、プレイヤーの剣が届かなくてはゲームにならないのでせいぜい十メートル、大きいものでも二十はいかないものが多いように思う。だから、その何倍にもなろうかという巨体を前に、俺はどうしたものかと途方にくれた。

 でかいだけでなく、その姿もまた強烈だった。大きなウロコに似た形の部品がいくつも組み合わさって、巨体をなしている。関節らしいものは外見からではよくわからず、どういった動きをするのかよくわからない。各パーツそのものは金属の固まりから削りだしたような無骨なものであるのに、それらが組み合わさるととまるで生き物の様な滑らかさとしなやかさを感じさせる。

 ミルトティアと名乗った少女が吸い込まれた赤い球体のようなものは、その竜の心臓のあたりに位置しており、徐々に肋骨のようなパーツが組み合わさって胴体の中に収納されつつあった。時折脈打つように鳴動しており、竜の巨体が生き物なのか機械なのかよくわからなくなる。有人式ということは後者の可能性が高いのだろうが、某人型汎用決戦兵器のような生体兵器の線もありそうだ。

 こちらを見下ろす巨大な竜の首には、こめかみのあたりにするどい角がいくつか突き出している。赤く光る両の眼差しは、こちらを値踏みするかのようにわずかに瞬いていた。ときおり、ふしゅう、と鼻のあたりから排気ガスなのか何やら白い息が煙のように漏れだす。

「……こんなの、剣とか魔法で倒せるものなのか?」

 思わずつぶやいたセリフに答えがあった。

「いや、こんなの人間が生身で勝てるわきゃないでしょー」

 にやにや笑いのシェイラさんだった。

「まぁ、こんなのに勝てる人間も居ることは居るんですけどねー。あれは人間てゆーか勇者という別のイキモノみたいなー?」

 勇者なら、アレに勝てる。逆説的に言うと、勇者を名のるならアレに勝てなきゃいけないってことか?

 ……いやしかし、言われてみると若干名、鼻歌まじりでアレを真っ二つにしそうな人に心当たりがある。ロアさん、元勇者とか言ってたしな。あの魔法だけでも簡単に消し飛ばせそうな気がするし。

 だがしかし、ロアさんはこの場に居ない。

「……どうするのだ、勇者タロウ殿。私は一応、手合わせ願うつもりではあるが」

 りあちゃんが、やや引き気味ながらも意を決したように竜の首を見上げた。

「やる、さ。一応俺も勇者を名乗る手前、ちみっこどもの前で無様な姿は見せられないからな」

 火乃木の棒を握りしめてどらごんを見上げる。

「さすがおにいちゃんなのー」

「そのいきやよし、なのー」

 ちみっこたちが新聞紙ソードを掲げて叫んだ。こいつらもやる気満々のようだ。

「……みなさん、ご参加と言うことで? あ、戦闘に参加されない場合も、見物料としてお一人様チケット三枚いただきますのでー」

 シェイラさんが、にやにや笑いのままチケットを回収してゆく。俺はリーアの分まで渡したのでもうチケットの残りがない。

「はい、ではシナリオを説明しておきましょうかねー?」

 チケットを回収したシェイラさんが壁に触れると、天井からガラガラと音を立てて、鎖でつながれた、人が入れるほど大きな鳥かごのようなものが玉座の側に下りてきた。

 玉座の側にいた男が鳥かごの中に入ると、シェイラさんがまた壁を操作して鳥かごが宙に吊り上げられる。

「えー、黒い鎧を着た彼、ケイさんはー、囚われの王子様役です。悪いどらごんをこらしめて、王子様を助け出そう!というのが大まかなシナリオですね。見事助け出せたら、商品も出ますのでー頑張ってくださいねー。……まぁ不可能ですけど」

「……配役間違ってねーか? それに不可能とかゆーな」

 どうせなら囚われのお姫様を助け出したいよなぁ、俺より年上のおっさんをなんで命張ってたすけにゃならんのだ……。

「注意事項ですよー」

 俺の文句に取り合うことなく、にやにや笑いでシェイラさんが続ける。

「武器は受付で配布された非殺傷のものをご利用くださーい。あと、迷宮が崩れるような大規模な魔法は使用禁止ですー。命の危険はないですがー、少々のケガは覚悟してくださーい」

「ガイド、質問だ。大規模魔法でなけれは魔法は使用可能ということだな?」

 シルヴィがシェイラさんに確認する。

「はい、おっけーですよー? ただしドラゴンに魔法なんて、カエルにおしっこ引っ掛けるよりも無駄な行為でしょうけれどー」

「……なぁに、やりようはある」

「中のミルトティアさんだっけ? 大丈夫なのか?」

 思わず心配になって尋ねるが、シェイラさんはニヤニヤ笑うばかり。

「初心者がドラゴン殺しなんて、心配するこっちゃないですよー?」

 まぁ、見るからに頑丈そうだしな。むしろこっちがケガしないように気をつけるべきなのは確かだろう。じゃあ、俺も本気だしちゃっていいのかな。こないだせっかく色々魔法創ったわけだし、実戦でどの程度使えるものなのか試してみたいところだ。

「……シェイラさん確認。勝利条件は?」

「ミルちゃんが負けを認めるか、竜体を行動不能にするか、王子様助け出したら、ってとこでしょうかねー。先に話したとおり、シナリオクリアの条件は王子様役のケイさんの救出ですから、必ずしも戦って勝つ必要はないんですよー? もっともミルちゃんがそう簡単に救い出させはしませんけどね」

 なるほど、まったく勝機がないと言うわけでも無さそうだ。

 シルヴィの浮遊魔法もあるし、リーアも空中を泳げるようだし、これは竜を引き付けておいて裏で救出作戦、というのが正解だろうか。




「……そろそろ、準備いーい? 適当に遊んであげるから、かかってこーい」

 巨大な竜が、少女の声で挑発してくるのはなんともシュールな光景ではあった。

「いくぞ!」

 最初に決めた隊列を組んで竜に対峙する。

「はんよう竜がたけっせんへいきなのー」

「のびるすーつなのー」

 ちみっこたちが紙の盾を構え、新聞紙ソードを掲げて突貫した。

「あ、こら、早すぎる」

 竜の前足をぺしぺしと新聞紙ソードで叩いていたちみっこたちは、竜の鼻息で吹き飛ばされてごろごろと転がってきた。

「ばたんきゅーなのー」

「やられたーなのー」

 ちみっこどもは埃まみれになって、やられたーと言う割には楽しそうだ。むっふーと鼻息荒く、再び新聞紙ソードを掲げて突撃している。

「俺も魔法を試してみるか……?」

 尻のポケットからスマホを出してセカイツクールスマホ版を起動する。画面にちょこんと現れた顔を出したナビが、巨大な竜に気がついて悲鳴をあげた。

「な、な、な、なんですかアレはっ! てゆーかここどこですか? はわわわっ!」

「うるさいナビ、魔法の用意頼む。バッチファイル作っといたのあるだろ、適当にパラメータ入れて叩くだけにしといてくれ。目標は目の前の竜、迷宮なので範囲は限定」

 口で呪文を唱えるのであればそのままパラメータ指定してしまえるのだろうが、俺は実行前にパラメータを指定してやらなければならない。ソースに直書きだと汎用性がないからだ。

 いや、呪札とかみたいにある程度効果を決めて叩くだけにした魔法も作っといたほうがいいんかな。

 ふむ、という声に気がつくと、シルヴィが俺の肩越しにスマホを覗き込んでいた。

「それがタロウの魔法補助具か? かわっておるの。まぁ、わたしに先にやらせてもらおうか」

 シルヴィが頭上で両手をクロスさせると、彼女の周囲にいくつもの光球が浮かびあがった。

「ドラゴンは強力な魔法耐性を持つと言うがな、小手調べだ。下がっておれ、ちみっこども」

 シルヴィが両手を竜に向けると、光球が一斉に竜に向かった。

「ほーみんぐれーざーなのー」

「いっけーふぁんねるーなのー」

 あわててルラレラが盾を構えて逃げ出してくる。

 しかし、光球はことごとく途中で掻き消えた。ウロコの表面にすら到達していない。

 身じろぎひとつせず、竜はぷはぁ、と白い息を吐いた。

「あははー、魔法なんて無駄無駄ァ! ばっかじゃないのー?」

 ミルトティアが笑う。理屈はわからないが、ドラゴンは魔法に強いようだ。ちみっこどもが直接殴れてるところをみると物理的な攻撃は届くようだが、魔法的なものは耐性というかなんかキャンセルされているような感じを受けた。もしかしたら魔法無効化能力とかでもあるんかな。

「ふむ、面白い」

 シルヴィが笑い、別の魔法の構築を始めたようだ。

「……バリア的なものが張ってあるんかな。ナビ、組み合わせ変えていくつか作っといてくれ」

「三つほどスロットに入れましたよ、太郎様。でも今の反応を見るぎりでは魔法そのものが効かない様なかんじじゃありません?」

「……まぁ、やってみるさ」

 スマホの画面をタップして、ナビが用意してくれた魔法を起動させる。

「”星振る夜に願いを(シューティングスター)”」

 範囲を絞ったので流れる星はひとつだけ。

 天空に浮かぶ小さなゴミに指向性を与えて敵にぶつけるだけの単純なモノだ。いちいち地上に落ちてくるまで待ってると時間がかかるので、座標も書き換えていきなり敵の頭上から現れるという結構卑怯臭いものなのだが

 ……用は魔法と言う名の、物理攻撃だ。

 召喚された隕石は、摩擦熱で真っ赤に燃えで竜の眉間にぶちあたり。

 ……かちん、と小さな音を立てて弾かれて床に転がった。

「……いたいじゃないのよっ!」

 しゃぎゃーと声を上げてミルトティアが大きく口を開けた。

「痛いですむんかいっ!」

 ちくしょう、かっこつけて言う必要のない魔法名までつぶやいちまったのに、まったくの無傷かいっ?!

 万一、中のミルトティアを傷つけたらいけないとそれなりに手加減はしたものの、対物ライフルくらいの威力はあったはずなんだがな。

 しかし、これでいくつかの推論が立つ。呼び出した石はかき消されなかったということは、直接的な魔法と違って間接的に魔法を使うものなら有効な攻撃ができそうだ。

『つぎはりーあがやる』

 ぱたぱたとホワイトボードを振って、空中に浮いたリーアが人差し指をこめかみにあてて、んーっとやる。

「――♪」

 ト。

 低い音が響いたが、竜に特に影響を与えなかったようだ。

「くすぐったいぞー」

 竜がしっぽをぶんぶんとふった。

『……こしぼね くだけなかった』

 残念そうにリーアがホワイトボードを振る。

 ……いや腰骨砕くの好きだなリーア。

「私にも、やらせてもらおうか」

 木製の剣を両手で構えたりあちゃんが前に出た。背負っていたリュックはどこかに置いてきたようで身軽な姿だ。

「むんっ!」

 はねをひろげて飛び上がったりあちゃんは、真っ直ぐに竜の胸の辺り、ミルトティアが吸い込まれた赤い球体のあたりに向かった。

「見るからにここが弱点だろう? 我が一撃、受けてみよっ!」

 錐揉み回転しながら剣を前に突き出し、りあちゃんが体当たりするように竜の心臓にぶち当たる。

「……コクピット狙うのは、まぁ反則とはいわないけどさー」

 赤い球体から体半分乗り出したミルトティアが、素手でりあちゃんの木剣を止めていた。

「あんまり美しくないよねー?」

 振り払うように、床に向かってりあちゃんを投げつける。

 見た目は華奢な少女であるのに、竜を纏わなくてもずいぶんと人外の膂力があるようだった。

「くっ」

 床に叩きつけられる寸前はねをはためかせてブレーキをかけるりあちゃん。なんとか体勢を整えられたようだ。

 しかし言ってることはわからないでもないが、巨大兵器で生身の人間相手する方がよっぽどうつくしくないんじゃね?

「……そろそろ、あたしやってっていいかなっ?」

 次の手を考える俺達をよそに、じっと竜と対峙したままだった寧子さんが、肩に担いでいた木製のハンマーをぐるぐる振り回しながら言った。

「何か手があるんですか?」

 尋ねると寧子さんはにっこり笑ってハンマーを両手で持ってぐるぐるとその場で回り始めた。

「物理攻撃はー、あたるわけでしょー? ならぶんなぐるっきゃないでしょっ!!」

 ふひゃひゃ~と訳のわからない声を上げて、回転しながらどらこんの足元に寧子さんがどんどん近付いていく。

「いや、だからってあんなの殴ってどうこうできるようなもんじゃないでしょう?」

 思わず呆れてしまったが、実際言われてみるとそれしかないような気がしないでもない。一応俺の流星魔法は「痛い」と言ったわけだし。

 ……ってあれ、某汎用人型決戦兵器みたく竜の巨体と中の人って感覚とかつながってる感じなのか?

「うひゃっほーっ! ひぃっさつぅ! タンスの角に小指ぶつけろあたーっっくぅ!!! ひぃかりぃに、なっれー! ふひゃほう」

 寧子さんの気合いたっぷりの雄たけびと同時に、ごちーんとものすごい音が響き渡った。



 えぐえぐと涙目のミルトティアさんが右足を押さえて転がり落ちて来たのはそれから三秒後のことだった。

 ……例えどらごんでも、痛いものは痛かったらしい。

……しょうもないオチですみませんっ!


 あと割りとどうでもいい話。わたしたまに自分の書いたお話のタイトルとか登場人物の名前をグーグル先生に聞いてみるのですが、「週末は異世界で」と入れたら予測変換に「週末は異世界で~俺的伝説の作り方~」と表示されてちょっとびっくり。誰か検索とかしてるのかなー。

 2ちゃんの過去ログで「つまんね」とか言われてるログ見つけてへこんだり、「掲示板パート以外はイラネ」とか書かれてたりしていろいろ複雑な心境に。

 ……次からしばらく掲示板続くかもですよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ