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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第三話「迷宮で遊ぼう」
72/246

10、「迷宮第一層 まっくらやみだ! まっくらだ!」

「……んしょっと」

 エヴァーフォールで落下し続けていたシェイラさんは、驚いたことに五回目で壁を蹴ってエヴァーフォールから自力で抜け出した。ぐるんと床で一回転して落下の勢いを殺し、肩をこきこきと鳴らしながら立ち上がり、服の埃を手で掃ってこちらを見つめてにやりと笑う。

「抜け出し方のお手本を見せたのはサービスですよー」

 シェイラさんは床に転がった時にひびが入ってしまったカンテラをちょっと持ち上げて、火を消した。彼女が壁をコン、と叩くと隠し扉が現れ、倉庫のようになっているそこから新しいカンテラを取り出し、また火を灯して腰につける。

「……まぁ、弁償しろとは言いませんけどねー。ガイドにちょっかいだすのは止めてほしいものですー」

 ちょっとだけ不機嫌そうに言って、また壁に手を触れるとエヴァーフォールの落とし穴がふさがった。

「え、ああ。すみませんつい、かっとなって……」

 シェイラさんを逆にエヴァーフォールに落として少し気持ちが晴れたこともあり、彼女がそこから見事に自力で抜け出してしまったのを見て少し冷静になった。

 確かに時折ろくでもない罠を仕掛けてくるとはいえ、シェイラさんがきちんと案内をしてくれているのは確かだし、ある意味で罠に仕掛けてくるのも案内のひとつと言えなくもないわけだ。

「ん、じゃいこっか」

 コン、とシェイラさんがまた壁を叩くと、隠し扉が開いた。ぽっかりと暗く開いたその横穴は、どうやらワープゾーンをぬけるための迂回路であるらしかった。

 ……あれ? さっきそこ備品いれるロッカーみたいになってなかったか?

 シェイラさんが新しいカンテラを出した倉庫のようなものはどこに消えたんだろう。

 疑問に思ったが、シェイラさんがさっさと中に入ってしまったので調べる間もなく後に続いた。




「……つぎはー、ダークゾーンですよー。周りが暗いから気付かずに踏み込んじゃうことも多いと思うけどー、よーっく見ると真っ黒なのでわかりやすいですよ」

 ワープゾーンの無限回廊を迂回路でぬけて少し歩くと、黒い壁のようなものが道を塞いでいた。ルラレラに懐中電灯で照らしてもらうが、壁の表面で止まってしまう。かといって本当に黒い壁であるといわけではなく、火乃木の棒を差し入れてみると、特に抵抗なく突き抜けてしまう。

「……これどういう理屈なんだろう」

 ゲームだと魔法の灯りすら一瞬でかき消えてしまい、まったく何も見えない罠だ。これとワープゾーンや、落とし穴との組み合わせなどはかなり凶悪なトラップとなる。

「わたしも初めて見るな」

 シルヴィが前に出てきて、黒い壁に手を突っ込んで「ふむー」となにやらうなずいている。

どうやら魔法の灯りを中で灯そうとしたらしい。

「魔法が打ち消されるわけではないようだが、灯りは見えぬな」

 何度か試して、結局なんで光がかき消されるのかわからなかったらしく、シルヴィは腕組みして唸り始めた。

「まっくらやみだーなのー!」

「やみのなかにいる!なのー」

 ちみっこどもが、懐中電灯をもったまま、楽しげに中に入ったり出たりを繰り返している。

 魔法の灯りだけでなく、懐中電灯の明かりもダークゾーンでは無効化されてしまうようだった。

「はいはい、ダークゾンーンの解説とかしちゃいましょうかねー?」

 シェイラさんがにやにや笑いながら、黒い壁の前に立った。

「具体的な理屈はあたしも知りませんけどね、ダークゾーンってゆーのは目に見えないくらいちっちゃな粒がいーっぱい充満してる状態らしいですよー? この粒に遮られて、光が遠くまで届かないようになってるのです」

「粒?」

 あれか、煙が充満したようなのを想像すればいいのか? あれは灰色とか黒だけど確かにほとんど何も見えなくなる。しかし、煙のような微小な粒が空中に漂っている状態だとするとかなり身体に悪そうな感じが。

「あー、吸っても別に大丈夫ですよー?」

「……いや、でも身体に悪そうな感じが」

「それより、注意することがあるので聞いてくださいねー。一応、当迷宮では松明禁止なので大丈夫とは思いますが、ダークゾーンではこういった火が大変危険ですので気をつけてくださいね。見えなくても、燃えてますから」

 言いながらシェイラさんは腰のカンテラの灯りを小さく絞った。

「カンテラみたいなのは一応大丈夫ですけどね、うっかりどこかにぶつけて割ってしまったりして火事にならないとも限りませんから。あ、お客さんたちが持ってるその機械の灯りは問題なさそうですねー」

 ちょっとうらやましそうにルラレラの持つ懐中電灯を見つめてから、シェイラさんが黒い壁を指差した。

「じゃ、いきますよー。中はほんとーに真っ暗ですからー、前の人の服の裾をしっかりつかんで、反対の手は壁に当てるのが鉄則ですよー。一列でいきまーす」

 ふむ、ここは素直に従うべきか。じゃあ、これまでと同じような隊列で寧子さん、ルラ、レラ、俺、シルヴィ、すらちゃん、りあちゃん、でいいかな。

 そう考えて皆を見回して。

「……あれ?」

 誰か忘れてるような。ってゆーか何人か足りなくないか。

 まず、先頭歩いてたはずの寧子さんの姿が見えない。それに後ろの方にいたすらちゃんも見当たらない。それに、なんか肩が軽いなーと思っていたら背負ってたリーアもいないじゃないか。

 まて……リーアはどこで居なくなった? 俺がエヴァーフォールに落っこちた時か?

「ちょっと待って、人数がたりない」

「ままなら、ひゃっはーって叫んで一人でとつにゅうしていったのー」

「いつの間に。あの人はほんとうに……もう。すらちゃんとリーアは? 誰か知ってるか?」

「すらりん殿なら、今、少し席を外している。ん、戻ってきたようだ」

 りあちゃんが答え、シルヴィが照らすと迂回路の方からすらちゃんがやってくるのが見えた。

 席を外すって、トイレとかだったんだろうか。灯りも持たずに大丈夫なのか。いや、元がスライムな分、明かりとかなくても実は結構平気だったりするのかもしれない。

「……リーアはどこだ?」

「おにいちゃんが背負ってたのー」

「おにいちゃんがおんぶしてたのー」

「いや、さっき落とし穴に落ちたときから居なくなってた気がする」

「――♪」

「ん、今リーアの声がしたような」

 見回すがリーアの姿は見えない。

「あいたっ」

 髪の毛を引っ張られて振り返るが誰もいない。この感じは、リーア?

「――♪♪」

「う」

 ぎゅうと、首に抱きつかれて息が詰まりかける。

「そらとぶおさかなさんなのー」

「ふらいんぐふぃっしゅなのー」

「リーア!」

 見上げると、下半身がお魚状態になったリーアがふわふわと空中を泳いでいた。

「♪」

 どうやらずっと俺の頭の上に居たらしい。ってゆーか空とべるんかい人魚はっ?

『そらをおよぐ たのしい』

 ぱたぱたとホワイトボードを振ってリーアが笑う。

「心配させるなよ、もう」

「おにいちゃん居なくなってるのにきがついてなかったのー」

「しつはけっこう薄情なのー」

「ぐは、いや確かにしばらく気がついてなかったけどさ」

「……ふむ、わたしの使った浮遊の魔法スゥ・ヴィンを自分の物にしたようだな」

 シルヴィがリーアを見てなにやらうなずいた。

「いや、そろそろ先進んでいいかなー?」

 待ちくたびれたようにシェイラさんが言って、俺達は一列になって彼女の後に続いた。




「……ほんとに真っ暗だな。何も見えん」

 壁に手を当ててゆっくりと進む。ゲームとかだとダークゾーンでも普通に戦闘とかやっていたが、どう考えてもこれは無理だ。壁から手を離したら、もう自分がどこに居るのかもわからなくなりそうだ。

「……あん、おにいちゃんどさくさまぐれにへんなとこさわっちゃいやなのー」

「すまん、変なとこにあたっちまったか?」

 前を歩くレラが声を上げたので、襟首をつかんでいた手を緩める。背の差があるのでレラの首の後ろの所をつかんでいたのだが、首筋がくすぐったかったのかもしれない。

「はいはい、セクハラは禁止ですよー」

 シェイラさんがからかう様な声を上げる。

「いや、そんなことしてませんって」

「……ん、あの。やめて、ください」

 後ろからすらちゃんの悩ましい声が。

「どしたのすらちゃん?」

「……太郎さん、本当に前を歩いていますか?」

「俺、疑われてるっ?!」

 ってゆーか何をされたんだすらちゃん。

「む」

「ひゃん」

「きゃ」

 かわいい悲鳴が次々あがる。

「ちょ、もしかしてなんか居るのかここ?」

「……勇者タロウ殿、ほんとうに貴方ではないのだな?」

「この場に男はタロウだけだからな、疑われてもしかたあるまいが。しかしわたしに手を出さなかったタロウがこのようなことをするとも思えぬ」

「いや、だから何されたのさっ?! てゆーかシルヴィは俺のベルトつかんでるだろ?」

 声だけというのはなんとも。

「あん、おにいちゃん、そんなとこさわっちゃいやなの……」

 声で区別はつきにくいが、今度ははルラのようだ。

「いやだから俺何もしてないって!」

 何かパタパタいう音がする。これは、リーアか?

 リーアは空を飛べるようになったらしいので、俺の頭上に浮いている、はずだ。離れ離れにならないように、ロープで腰の所を結んで端を俺のベルトにくくりつけてある。

 あ、真っ暗闇だからホワイトボードに何か書いても読めないんだ。リーアもどこか変なとこ触られたんだろうか。

「リーア、お前もなにかされたのか?」

 頭上に声をかけるとホワイトボードらしきものでパタパタと頭をはたかれた。

 だから俺がなんかしたわけじゃねーっつーの! ってゆーか空飛んでるやつをどうやって触るんだ?

 そう思ってから、リーアがあまりそういった羞恥心が薄いことを思い出した。

「リーア?」

 埒があかないと思ったのか、リーアが俺の首に抱きつくようにして俺の頬に何かを書いた。

「……え」

 へんなの、いる。鏡文字になるからわかり難かったが、リーアが俺の頬に書いた文字は、そう言っているように思えた。

「し、しっぽはダメだっ!」

「ど、どこさわってるんですかっ! あ、ちょっと」

 りあちゃんとすらちゃんの悲鳴が聞こえた。

「む」

 シルヴィのつぶやき。あれ、そういやシルヴィに触れてエナジードレインとか平気なのか?

 それに俺には何も触れてこないのは、やはり女性を目的とした何かなのか?

 ……あれ。そういや一番先頭を歩いてるはずのシェイラさんも被害がなさげ、だよな?

「まさか、シェイラさんが何か仕掛けてたりします?」

「……」

 沈黙が答えだった。同性ならイタズラで済むってことかいっ!

 と思った瞬間、尻に異常な感覚を感じて背筋がぞわりとする。静電気のような、体毛が怖気る感じがすごくキモチワルイ。

「うひぃ」

 思わず声を上げてしまったら、腰の辺りに何かが抱きついてきた。

「ちょ、何?」

「たたた、たろーくん! ようやく見つけたよっ!」

「……って、寧子さん?」

「くらいのよーっ! 何にも見えないのよーっ! ひとりで怖かったのよーっ! こころぼそかったのよぅ!」

「いや何も聞かずにひとりで突っ込んでった寧子さんがわるいんでしょうがっ!」

 どうやらひとりでダークゾーンに突入した寧子さんが、暴れまわっていたのが原因だったらしい。しょうがないので俺とレラの間に割り込ませることにする。

「電車でごー!」

「いや電車ごっことかじゃありませんから」

 急激に落ち着いた寧子さんがまたテンション上がって変なこと叫び始めたのでツッコミを入れる。

「……あの」

 後方からすらちゃんのためらいがちな声が聞こえる。

「結局、私の下着を取っていったのは、その、女神さまのお母様、だったってことなんでしょうか? あの、返して、もらえないでしょうか」

「……え、おぱんつ? あたし知らないよっ?」

「は? 寧子さんが何かやってたんじゃないの?」

 割と前科の多い寧子さんだから絶対原因だと思ってたんだが。

「……ふむ。ガイド、少し無茶をするが許せ。次元裂断魔弾ディ・レッシュ

 不機嫌そうなシルヴィの声がして。

 バキン、とすごい音がして空間が割れた。ひびが入ったように黒い空間に白い亀裂がいくつも出来て、闇が砕け散る。

 呪文を詠唱したってことは、神代魔法か?

「いやダークゾーンを力技で破壊とかー、やめてほしいんですけどー?」

 呆れたようなシェイラさんの声。それは先頭ではなくなぜか俺のすぐ側で聞こえた。

 シェイラ腰につけていたカンテラの明かりと、すぐ後ろのシルヴィが持っていた懐中電灯の明かりが復活し、周囲をわずかに照らす。

 ……頭にぱんつを被った、白い骨がいた。

「ひょ? みつかってしもうたー」

 ぺしん、と頭蓋骨をひとつ叩いて、スケルトンがカラカラと笑う。

 特徴のある仕草からして、どうやら以前あったスケルトンと中の人は同じようだ。

「あの、返して、ください」

 真っ赤になったすらちゃんがスケルトンに手を伸ばす。

「わるかったなぁ、嬢ちゃん」

 スケルトンはぱんつをすらちゃんに渡すと、カラカラ笑いながら闇の中に消えていった。

「……で、シェイラさんこれどういうことですか?」

「ダークゾーンで姿が見えないことをいいことにー、お客さんから装備を剥ぎ取るトラップなのですよー。スケルトンとか視覚かんけいないですからねぇ」

 まあ、アンデッド系は生命感知というかそういうので襲ってくるらしいしなぁ。

「地下一階は娯楽施設ですからね、チケットと引き換えで、ちゃんと後でお返しする予定でしたが、スケさんがちょっと悪ノリしちゃったみたいですねぇー」

「――♪」

 リーアが闇の中に声を飛ばす。どこか遠くでカシャンと軽いものが崩れ落ちる音がした。

『かたきはとった!』

 どうやら腰骨を砕いてやったらしい。

「リーアさん、ありがとう」

 ぱんつを握り締めて、恥ずかしそうな顔ですらちゃんがリーアに礼を言う。


 しかしシェイラさん、マジでなんとかしないといけないかもしれないな。

 俺はこの迷宮の底意地の悪さに、はぁと深くため息を吐いた。

 おかしい……。今回でどらごん戦まで終わるはずだったのに。

 前回リーアのことすっかり忘れていたせいで、浮遊能力を獲得することに!

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