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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第三話「迷宮で遊ぼう」
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 8、「迷宮第一層 お宝いっぱい宝箱?」

 すみません、だいぶ遅くなりました……。

「あんまりやわぁ……ウチもう、ダメやわぁ」

 床に崩れ落ちたまま、およよ、と泣き伏せるスケルトン。文字通り腰が砕けてしまっている。

 リーアが次から次に腰骨を粉々に砕いてしまったので、精神的にズタボロになってしまったようだった。不死者の癖に意外と精神的には脆いようだ。

「悪いな」

 まだ興奮しているリーアの代わりに謝ると、スケルトンはどうやら正真正銘最後のひとつらしい腰骨を腰にはめて立ち上がった。

「……まぁ、お仕事やしなぁ、ふぅ」

 息をしているわけでもないだろうに、深いため息を吐いてスケルトンはぺしりと自身の頭蓋骨を叩いた。

「今度からは簡単に砕けへんように、鉄製の腰骨を用意しとくわ。次は負けへんで?」

 拳を握って、リーアを見つめてカラカラ笑うスケルトン。

 オイオイ。

「……いや、さっきからちょっと気になってたんだが。スペアの腰骨とかいって次から次にとっかえてたが、スケルトンとかって別人の骨とかでも大丈夫なのか?」

 さらには鉄製の腰骨だとか。アイデンティティとか保たれてるんか? そんな風に全部のホネを取り替えても同じスケルトンであるというならば、その意識の主体はホネでなく別のところにあるんじゃないか……って。

「……にいちゃん、ちょっと。こっちき」

 不意にスケルトンの様子が変わり、やや不穏な空気をまとわせて俺に手招きしてきた。

「え?」

「……ええから、ちょっとこっちこんかい」

 引きずられるように、部屋の隅に連れて行かれる。シェイラさんのカンテラも、ちみっこどもの持つ懐中電灯の明かりもなく、ほとんど真っ暗闇だ。

 ただ爛々とスケルトンの眼窩に蒼い炎のようなものがちらついていて、それだけがわずかな灯りになっている。

「ええか、にぃちゃん。にいちゃんは大人やから言ってまうけど、ウチほんまはスケルトンちゃうねん」

 囁くような声で、スケルトンが言った。なんか声が違う。先ほどまでは何か乾いた骨をこすり合わせるようなシャリシャリした声だったのに、普通に若い女性の声だった。

「……中の人ってやつですか」

「子供らの夢こわしたらあかんねん。”迷宮いってスケルトンたいじしてきたでー”って子供らが自慢できんとあかんやろ? 造りモンのホネぶんなぐってきたでーじゃ、かっこつかんやん?」

 ……いやそういうものなのか?

 ウチのカラダをよう見てみぃ、と言われたので予備のペンライトでスケルトンを照らして間近で見ると、よく出来てはいるものの、確かに本当の骨ではなく軽石のようなものを削りだして造った、作り物のようだった。

「最近は人権団体とかうるそうてなぁ……。ホンモンの人骨とか使いにくくなっとるんよ。入手も困難やしな」

 ぺしんと頭を叩いて、スケルトンが笑う。

「まぁ、骨を模したモンに死霊術で魂込め取るわけやからまったくのニセモンてわけでもないんよ。このレイルの迷宮うろついとるスケルトンの類はほとんどウチやから、二階や三階で会ったらよろしゅうな! もっとも友好的フレンドリーなんは一階だけやけどな」

 ほなもどろかー、とまた手を引っ張られたので部屋の真ん中あたりに戻る。

「ないしょばなしなのー」

「いけないおにいちゃんなのー」

 ちみっこたちがちょっと唇をとがらせて言う。しかし、寧子さんががっかりのため息をついてる所から見て、実は女神ぱわぁとかでこちらの内緒話は筒抜けだったっぽい。

「はい、すけるとんとあそぼうのコーナーはたのしんでくれたかなー? んじゃそろそろ次いくよー」

 シェイラさんが先に立って、部屋の奥の扉に向かって歩き始めた。

「またなー」

 スケルトンがちいさく手を振って、見送ってくれた。


 最後に部屋を出る前に一度だけ振り返ってライトで照らすと、部屋の中央に積み上がる骨の山が見えた。

 誰かがまた部屋に入ってくると、また起き上がるのだろう。




 スケルトンの部屋を出ると、小さな小部屋がたくさんある通りになっていた。

 地図を見て確認する。あまり細かい説明は書いて無いが、どうやらこの小部屋のひとつひとつになんらかのアトラクションやイベントが用意されているらしい。

「えー、この先はいくつかの順路あるんだけど、キミたちどゆとこ回りたいかなー? 全部順番にまわってもいいけど」

 シェイラさん曰く、身体を動かす系や、頭を使う系などいくつかのコースがあるらしいのだが、真白さんたちを待たせているわけでもある流石に全部を回るわけにもいかないだろう。

「……どうする?」

 隊列を崩し、みんなで丸く輪になって話し合う。床にマップを広げて

「おたからざくざくいきたいのー!」

「ワープゾーンたいけんしたいの!」

 ルラとレラが地図を指差して言う。

「いいねっ! あたしはどらごんとあそぼう!のコーナー行って見たいかなっ?」

 寧子さんがマップのひときわ広い部屋を指差して言う。スケルトンと同じような感じだとするとドラゴンと戦う体験ができるのだろうか。ちょっと興味はあるが、スケルトンが作り物だったことを考えるとあまり期待も出来ないのか……?

「わたしは謎かけリドルに興味がある」

 シルヴィは頭を使う系に興味があるようだ。

「私はねいこ殿と同じようにドラゴンだな。異世界の同族と剣を交えてみるのもなかなか面白そうだ」

 リアちゃんはバトル方面か。スケルトンとは戦わなかったけど、そっち方向に興味があるようだ。

「俺はどうするかな。ダークゾーンとか回転床とか、レラも言ってたワープゾーンとか体験してみたいんだが」

 一連の迷宮トラップ体験コースってのが楽しそうなんだが、シェイラさんには一回落とし穴に落とされたからな……。あのノリでトラップにはめられるとあんまり楽しくは無さそうだ。

『りーあはもう、ちけっとない』

 ちょっと残念そうにリーアがホワイトボードを振った。

 リーアはスケルトンのとこで大ハッスルしてたからな……。

「俺のを分けてやるから、行きたいとこあれば言ってくれ」

 そう言って頭をなでてやると、リーアは「――♪」と小さく声を上げ、宝箱のマークの書かれている小部屋を指差した。ルラが行きたがっていた”おたからざくざくたいけん!”のコーナーだ。

「んー、話はまとまったかなー? じゃ近い所から、まずはお宝ざくざく体験のコーナー、いっくよー?」

 側で聞いていたシェイラさんが何度かうなずいて指でマップをなぞる。

「そのあとトラップ体験コース、謎かけ、最後がボス部屋どーんってかんじだね。悪くないとおもうよ。ボス部屋ぬけたとこが二階への階段で、売店とかあるからそこでお土産とか買って頂戴ねー!」




 シェイラさんに案内されて入った小部屋には、大小さまざまな大きさの宝箱がいくつも山のように積み上げられていた。壁のあちこちにカンテラがぶら下がっていて、比較的部屋の中は明るい。

 揺れる炎の灯りに古ぼけた宝箱。よくみるとほとんどの宝箱は鎖で床につないであるようだった。カビた臭いと、ロウソクの臭い。部屋の真ん中には宝箱に囲まれて、小さな人影が床にあぐらをかいて微笑んでいた。

「いらっしゃい、”おたからざくざくたいけん!”のコーナーへようこそ」

 男の子、だろうか。小さな宝箱を片手に、そう言ってこちらを向いて微笑んだのは、革鎧を着込んだ、盗賊風の少年だった。十歳をすこし越えたばかりにしか見えないが、この世界あまり見た目の年齢はあてにならない。

「ここは、迷宮でたまに見かける宝箱の開錠のしかたや罠について体験するコーナーだよ」

 少年はいいながら、手にした小さな宝箱の鍵穴にクギのようなものを突っ込んでカチャリと音をさせた。そうして箱を開けてみせると、中には小さなガラス玉のようなものがたくさん詰め込まれているのがみえた。

「チケット一枚で、この砂時計の砂が落ちきるまで挑戦できるよ。みごと鍵開けに成功したら中のお宝はお客さんのもの! さぁさぁ、やってみないかい?」

 ……なるほど、景品つきのアトラクションなのか。割とおもしろそうだな。

「やるのー!」

 さっそくルラがチケットを少年に突き出した。

「はいよー、この部屋にある宝箱ならどれに挑戦してもかまわないよ。必要な道具はここにあるものならどれを使ってもいい。あと、大きい宝箱ほど仕組みが簡単になっているから、お嬢ちゃんはまずは大き目のをねらうといいよ」

 少年はそう言ってクギやら針金のような道具を床に広げ、砂時計を片手にルラを見た。

 ルラはしばらく部屋の中を見回していたが、何かひっかかるものがあったのか、ルラ自身が中に入れそうなほど、かなり大きな宝箱の前に立った。

「これにするのー!」

 クギを握り締めて、ルラが両手を上げた。

「それじゃ、準備はいいかな?」

 少年が砂時計をひっくり返す。

「制限時間は、だいたい五分だよ。がんばって」

「がんばるのー!」

 ルラがさっそく大きな宝箱の鍵穴にクギを突っ込んでかちゃかちゃやりはじめる。

 隣でレラも興味深そうに眺めている。

「……ふむ」

 シルヴィが小さく息を吐いてつぶやいた。

「ん、どうかしたのか?」

 声をかけるとシルヴィはまたつまらなそうに息を吐いた。

「いや、わたしは開錠の魔法カ・チュを使えるのでな……。流石に魔法を使うのは禁じ手だろうかと思ってな」

 ……対スケルトンといい魔法使い万能だなっ!

「あー、魔法使いなんだね、そこのお姉さん。上級者向けのもあるけど、やってみるかい?」

 少年はそばに転がっていた小さな宝箱を拾い上げると、こちらに向かって突き出した。

 小さいほど難しいといっていたから、手のひらサイズの宝石箱のようなその宝箱はかなり難しいものなのだろう。

「……ほう」

 興味を魅かれた様にシルヴィが息を吐いた。

 シルヴィが少年から宝箱を受け取り、ぴんと人差し指で鍵穴を弾くと、赤い光の模様が浮かび上がった。

「美しいな、この呪紋は。幾重にも重ねられた積層型魔方陣か」

 シルヴィがチケットを一枚少年に差し出し、その場に胡坐をかいて座る。指先で空中に浮かんだいくつもの幾何学模様をつついて、笑みを浮かべた。

 俺にはよくわからんが……よだれでもたらしそうな感じだな。まぁ、シルヴィが楽しめそうならよかった。たぶん、知恵の輪的な感じなのだろう。

「まいどありー」

 少年がルラのとは別の砂時計をひっくり返した。




「あいたのー!」

 どうやらものすごく単純な構造だったらしく、二、三分でルラは宝箱の鍵開けに成功した。

 大きな宝箱の中に入っていたのは、デフォルメされた大きなドラゴンのぬいぐるみだった。

ぎゅうと抱きしめてルラが嬉しそうに微笑んでいる。

「むー、わたしもぬいぐるみほしいのー!」

 レラがチケットを少年に渡して、寧子さんと一緒にルラが空けたのと同じくらいの宝箱を探している。

「楽しそうだな……」

 近くの宝箱に腰掛けてぼんやり見つめる。

 なんか思っていた迷宮探検とは大分違ってしまっているが、これはこれで結構面白い。俺も一回くらい宝箱に挑戦してみるかな。

 シルヴィは「むむむ……」とうなりながら延長でチケットをもう一枚渡していた。赤い光の魔方陣はどうやら八割がたは解除されたっぽいのだが、残る二割がかなり難しいらしい。シルヴィが唸りながら、ああでもないこうでもないと魔方陣に手を突っ込んでいじっている。

 すらちゃんはあまり興味はないのか、俺と同じように宝箱にすわってどこかぼんやりとしている。こっちの異世界にきてからすらちゃんはなんだかずいぶん大人しいが大丈夫だろうか。

 声をかけようとしたら、ホワイトボードをぱたぱた振るリーアに気がついた。

『たろう りーあもたからばこあける したい』

「ん、そうか」

 リーアを背負って、少年のところへつれて行き俺のチケットを一枚渡す。

「この子がやるんで」

『かくにんする この部屋の中なら、どれでもよい?』

 リーアがホワイトボードをばたばた振って少年に見せた。

「うん、ただし他の人が一度開けたのはだめだよ」

 少年がうなずくのを確認して、それからリーアが俺の背中から降りた。

「ん、リーアどうした?」

『みみをふさぐ』

「え?」

 問いただす間もなく、リーアが大きく口を開けて。

「――――♪ ――――♪♪ ――――♪♪」

 歌ではない。ただの音だ。でも、聞こえない。可聴域を超えている?

「な、なに?」

『あいた』

 にこりと笑って、リーアが少年の足元を指差す。

 どうやら床に小さな隠し扉があったらしく、それがぱかりと開いていた。中にはコインやガラス玉、ぬいぐるみなどがぎっしりつまっていた。どうやら宝箱の中身を入れるための倉庫になっていたらしい。

「……あのー、これは流石に困るんですが」

 少年が乾いた笑いを浮かべる。

『おたから ざくざく えっへん!』


 ――胸を張るリーアに、俺はだまって拳骨をひとつ落とした。

 なんかオチ担当がリーアばかりに?

 しかし地下一階だけでもうニ、三回かかりそうなかんじ。二階と三階までいったらどれだけなるのやら。どこかですっぱりまとめたほうがいいのかな……。

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