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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第一話「女神と書いてようじょと読む」
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 4、「ねこみみ注意報」

「直接会うのは初めてだから、初めまして、でいいのでしょうか」

 俺は三池みいけ寧子ねいこと名乗った白衣の女性にとりあえずおじぎをする。

鈴里すずさと太郎たろうです。突然お邪魔してすみません」

 色々な疑問はとりあえず胸にしまいこんで、最低限の礼儀を通す。これでも一応社会人だからな。訪れる前に先方に連絡するのを忘れてたとか社会人失格な気もするが。

「……んー。真面目なのはいいけれど、もうちょっと気楽にいこうよたろー君? 電話で話したときは途中から大分くだけたかんじになってたじゃないの」

 三池さんがずいぶんとフランクに、俺の肩をばんばんと叩いて笑う。見た目は日本人だがメンタルは欧米の人に近いのだろうか。

「いえ、謝礼をいただけるということであれば、三池さんは雇用主ということになりますし」

「あーもう、こまかいことはいいんだよ~」

 またバンバンと俺の肩を叩いて三池さんが笑う。

「それより三池さん、って呼び方やめてほしいかなっ? ねいこちゃん、もしくはララちゃんって呼んでくれるとうれしいんだけどっ?!」

「……ララ?」

 ちゃんづけは置いといて、彼女の名前にララと呼ぶ要素なんて無かった気がするんだが。

 しかし娘がルラにレラなら母親がララというのもおかしくない気はする。もしかしたらリラとかロラとかもいるのかもしれん。

「ララっていうのは、あたしの女神としての名前でぃ~っす、えっへん!」

 むふーと鼻を鳴らして胸を張る自称女神さま。何がとは言わないが子供がふたりもいるにしては大分控えめだ。

「……」

 やっぱりこの人も病気なのかと胸の中で深くため息をついたが、ツッコミはやめておくことにする。流石に、子供がいる年齢になってこれは手遅れ過ぎる。いや、仮想現実なんて作り上げてしまうくらいだからかえって病気の方がいいのか?

「たろー君、意外に……えっちなんだねっ?!」

 俺が見つめてしまった場所に気がついたのか、わずかに頬を染めて自称女神さまは胸を隠す素振りをみせた。

 ……いや、腕を組んで下から持ち上げるようにするとかむしろ強調してますから。天然かこの人。

「……えーっと、ここから異世界に行くと聞いてきたのですが」

 話を進めなくてはならない。帰りに買い物もしなきゃいけないしね。別に話題をそらそうという意思が働いたわけでは決してない。断じてない。

「んー。ほんとはキミの自宅からでもうちの双子ちゃんが居れば異世界いけるんだけどね。とりあえず初回ということもあるし、あたしも直接たろー君に会ってみたかったから連れてきてもらったのよ」

 自称女神さまはうんうん、と小さく頷いて、俺の服の裾をつかんでいるちみっこ共の頭を軽くなでた。

「この子たちも懐いているようだし、うん、うちの子たちを今後ともお願いしますね? たろー君。ってわけで、さっそく異世界、いっちゃうー?」

 自称女神さまがぱちんと指を鳴らすと、カプセルベッドのふたが静かに開いた。

「えっと、事前説明とか注意とか何もなしですか?」

「それもテストのうちと思ってちょうだいなっ? さぁ入った入った~。とりあえずはまずは異世界を体験しちゃってね? それからいろいろ質問とか受け付けちゃうよ」

 促されて、カプセルの中に横たわる。靴とか履いたままでいいんだろうか。

 悩んでいると、いそいそとルラとレラが俺の脇に潜り込んできた。

「え、一緒にはいるのか?」

「わたしたちといっしょじゃないと、いけないの」

「だからいっしょに行くの」

 両側からぎゅっと抱きつかれてとまどっていると、自称女神さまがにやにや笑いながら「両手に花だねっ! ひゅーひゅー。でも無理やり手出したらあかんよ~? 同意の上なら……おっけぃだけどねっ?」とか言いながらカプセルのふたを閉めた。

「いやこいつらちみっこだしっ! 俺ろりこんちゃうし! 変なことするわけないからっ!」

 思わずがばりと起き上がって叫んだら。

「……は?」

 見渡す限りの草原だった。

 腰を少し越えるくらいの緑の細い草が、風に吹かれてさわさわとゆれている。

 まさか、ここがもう異世界なのか?

 何の脈絡もなく突然とか。ちょっとあんまりじゃなかろうか。

 謎のカウントダウンとか、一瞬真っ暗になって~とかもうちょっとそれっぽい演出が必要なんじゃないか?

 立ち尽くす俺の袖が、くいくいと引っ張られた。

 視線を落とすと。

「おにいちゃん」

「わたしたちのセカイにようこそ~」

 俺の両腕に抱きついたままのルラとレラが、そろって微笑んだ。





 自分の姿を見下ろす。カプセルに入る前の綿パンにTシャツという適当な格好のままだった。

 ゲームのようなセカイといっていたから、アバター作成画面みたいなのがあるかと思っていたが、どうやら現実の姿そのままが再現されているようだった。ちょっと残念だった。

 自分の手足を触ってみる。大きく深呼吸してみる。耳をすましてみる。

 感覚の再現度はほぼ百パーセントと思われた。仮想現実すっげー。本当に自分の身体そのままみたいに感じられて、まったく違和感が無い。

 ……いや、カプセルに入ったとたんに眠らされて、いきなり草原に放り出されたということも考えられなくはないが。

 周りに見える草が異世界の物かどうかはぱっと見た限りではわからなかった。現実の雑草だって名前なんか知りはしないし。それに、俺にそこまで手の込んだどっきりを仕掛ける意味など無いだろうから、とりあえずはこの異世界を楽しんでみることにしよう。

 仮に騙されたんだとしても、それはそれなりに面白い体験になりそうだ。

 世界を遊べというからには、現実では体験できないようないろいろがあると期待してもいいのではないだろうか。基本が剣と魔法のファンタジー世界と言っていたし、魔法とかぜひ見てみたい。使えるものなら自分でつかってみたいしな。

 ……しかし。この手の仮想現実とか異世界ファンタジーモノでありがちな、ステータスとかウィンドウとかそういったゲーム的な機能はないのだろうか。

 さっきからいろいろ念じたり、ステータスとつぶやいてみたりするが一向にそういった機能らしきものが起動する様子がない。

 ふむ……。

「……で、何をどうすりゃいいんだ?」

 双子の頭をなでると、ルラとレラはそろって首を傾げた。

「さっきからおにいちゃん、なにをやっているの?」

「ぶつぶつへんなことつぶやいたり、なにもない空中を指でつついてみたり」

「いや、ここ、仮想現実で作られたゲームの世界なんだろ? システム画面とかステータス画面みたいなのどうやってみればいいんだ? 最低その辺りくらい説明してもらわないと何も出来ないぞ?」

「……ままがゲームを例に出したせいでおにいちゃん勘違いしてるの」

「……ここはわたしたちの創ったセカイよ? げーむの世界じゃないわ」

「は?」

 何を言っているのかよくわからなかった。

「つまり、ここにいるのはおにいちゃんそのもの」

「ゲーム的な機能なんかないわ」

「ここでおにいちゃんに出来るのは、げんじつのおにいちゃんが出来ることだけなの」

「ただし最低限、命の保障だけはされているわ。その意味ではおにいちゃんにとって、ここはゲームみたいなセカイなのかもしれないけど」

 双子が交互に、俺を諭すようにゆっくりと言う。

「よくわからんが……RPG的な世界じゃなくて、異世界での生活を楽しむタイプのゲームなのか?」

「あるいみではそうよ」

「世界を遊んでってそういうこと。ゲームじゃないんだけどね」

 ……ふむう。VRMMORPGとか言われて、異世界で勇者になれとか言われて、俺TUEEEE出来るかもなんてちょっとだけ思っていた自分が恥ずかしい。

 中二病はさすがに卒業したが、それでも俺TVゲームのRPGとか結構好きなんだよ……。

 ちょっとがっかりだった。

「もちろん、そこらへんにもんすたーはいかいしてるばしょもあるし」

「おにいちゃん、腕にじしんがあるなら俺TUEEEEできるわよ~」

「お前はこころを読むな」

 てりゃ、とレラのおでこにちょっぷする。

「いたいの……」

 涙目のレラの頭を強引になでて恥ずかしさをごまかす。

 しかし、これからどうしたものか。

 見渡す限りの草原。道は無く、人も動物の姿も見えない。適当に歩くにしたって何か方向を決める当てさえも無い。

 どこか人のいる街とかにとりあえず行ってみたい所だな。草原の只中でここが異世界です、なんて言われてもまるで実感が無いし。

「なにかきぼうがあるなら、言ってみて?」

「なんでも希望にそえるとはかぎらないけれど、少しだけならなんとかしてあげる」

 双子が俺の服の袖をくいくいとひっぱる。

「……いや、うーむ。そう言われてもな。ここまで何も無いと」

「なんでもいいよ?」

「そうそう、かわいいオンナノコに会いたいとかでもいいわよ~?」

 レラがにやにや笑う。

「確認するが……ここって俺の知っている現実世界とは違う世界なんだよな? 剣と魔法のファンタジー世界っぽいことを言っていたが……」

「そうよ」

「そうね」

「そうすると、だな、よくあるゲームみたいに、人間とは違う異種族とかいたりするのか?」

「……審議中」

「……おにいちゃん、じんがいふぇち?」

 双子の視線が痛い。

「いや、あれだよ、エルフとかドワーフとか、ああいう人間以外の種族とか見たらここが異世界って実感できるかな~と……」

「……通常の人間以外の異種族はいるけど、えるふやどわーふはいないの」

「いちおうオリジナルのセカイだから、手垢のついた既製品っぽいのはじょがいしたの」

 うお。そういえばこいつら中二病だった。

 あれか、独自名称のへんてこりんなオリジナル種族とかがてんこもりなのか? ああいうのって結局呼び方が違うだけでよくある異種族だったりするんだけどな。

「ん、じゃあ、例えばだな、例えばねこみみの生えた人間とかは、いるのか?」

「(ひそひそ)……ケモノ属性だわ」

「(ひそひそ)……ケモナーだわ」

「いや、居ないならいいんだよ、言ってみただけだから……」

 割と有名どころの異種族だしなっ! 獣人とか亜人とか。

 でもさ、ちょっとくらいいいじゃないかっ! ねこみみなでてみてーとか思ってもいいだろっ? しっぽもふりてーとか思ってもいいだろうっ?

「……」

「……」

 だめな人を見るような双子の視線に耐え切れず、つい、と思わず双子から目をそらした、その先。少し離れた所に、草原からぴこん、と飛び出した二つの茶色い三角の物体が見えた。 あれは……もしかして獣の耳だろうか? さっきまで気がつかなかったけれど何か野生の動物か?

 じっと見つめていると、ときどき、きゅぅ、と苦しげに三角の耳がへにゃる。

 その場から動かない所を見ると、どこか具合でも悪いのか。

「……おい、大丈夫か?」

 声をかけると獣耳がぴくん、と反応した。しかしその場からは動かない。どこかケガでもしているのだろうか。

「お前らはここで待っててくれ」

 ちみっこ共に声をかけて、草をかき分けて獣の耳へ向かうと。

「……あ」

 白いおしりがみえた。

「――――っ!!!」

 こちらに背を向けてお腹を押さえてうずくまっていたねこみみ少女が、ぴこぴこと茶色い耳をうごかして、こちらを振り返って声にならない悲鳴をあげた。

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