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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第三話「迷宮で遊ぼう」
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 7、「迷宮第一層 すけるとん現る!」

 三十万文字突破っ! そろそろ一気読みきつくなる文字量……。 

「……」

 落とし穴から這い出した俺は、無言で両手の平を上に向けた。

「……」

「……」

 すかさず、同じく無言でルラとレラが新聞紙ソードを俺の手のひらに乗せた。何も言わずともわかってくれるこの阿吽の呼吸が心地よい。

 ぎゅ、と柄を握り締め、へらへら笑っている案内人ガイドのシェイラさんの脳天に振り下ろす。

 しかし、振り下ろした右手の新聞紙ソードは、なぜか微動だにしていないシェイラさんにかすりもしなかった。

 ……なんだ? この距離で動かない相手に当たらないなんて。

 一瞬、動揺したがすぐに意識を切り替え左手の新聞紙ソードで逆袈裟に切り上げる。

 しかし、その追撃すらまったく手ごたえがなく虚空を切った。

「あー、注意事項ねー」

 目の前で腕組みして笑うシェイラさん。

「地下一階は娯楽施設のため~、特定のスタッフとしか戦闘できないよー」

「……武器の非殺傷の呪いってやつですか、これ?」

 目の前で微動だにしない人間に攻撃を当てられないだなんて、呪いとしか思えなかった。

「んー、たぶんキミがへぼいだけかナー? 紙の剣にはそもそもそゆのかかってないしー?」

 シェイラさんはにやにやと笑い、無防備に背中を向けて歩き出した。

「じゃ、いくよー。ちゃんとついてきてねー」

 流石にその背中にもう一度斬りつけるような、無様なマネはしたくなかった……。




「えー、当レイルの迷宮は構造的には割とありふれたもので、二十×二十の三階構成になっていますー。だいたいこの道幅、六メートルかける六メートルを一ブロックとして、これが縦に二十、横に二十ならんでるかんじねー。あ、地図欲しければ一階のは無料であげるよー」

 ガイドっぽく簡単な説明をしながら、シェイラさんが前を歩く。

 丸められた羊皮紙っぽいそれなりに雰囲気のある地図を後ろ手にぽい、っと放り投げてきたのを、俺の背中のリーアがつかんで俺の目の前に広げてくれた。

 なるほど、壁とかきちんとレンガのようなもので出来てるし、きちんと区画整理されているようだ。

 ……しかし二十×二十とかウィザードリィみたいだな。

 一辺が百二十メートルの正方形って、大雑把に考えると学校の校庭のトラックの内側くらいの広さだろうか。広いような、狭いような。

 まっすぐ三ブロックほど歩くと、突き当りが壁になっていて通路が右に曲がっていた。

「はいちゅーもーく。ここの壁に隠し扉があるから覚えておいてねー」

 コンコンと拳で壁をたたきながらシェイラさんが言う。

「中に入ると一本道で二階への階段にいけるから、次回からはショートカットとしてごりようくださーい」

「……ふむ」

 真白さんたちはここ通っていったんかな。

 ちみっこたちに火乃木の棒で壁を叩いてもらうと、コツコツという固い音が返ってくる場所と、こんこんと軽い音が返ってくる場所があった。意外にわかりやすい。

「すいっちがあったのー」

「ぽちっとなーなのー」

 下の方、俺の腰の辺りに小さなボタンのようなものがあったらしく、ちみっこたちがなにやら操作すると壁の一部がゴゴゴと横にスライドしてぽっかりと暗い穴が現れた。

「おや、お嬢ちゃんたちはなかなか優秀だねー!」

 シェイラさんがちみっこたちの頭をなでた。

「でも、今回はこっちはだめでーす」

 操作されたのか、またゴゴゴと壁が動いて隠し通路が閉じられる。

「はい、じゃ次いくよー」

 先に立って歩くシェイラさんを追いかけながら、俺は背中のリーアに大体の扉の位置と仕掛けのある高さなどをマップに書き込んでもらった。




 右に曲がってすぐに、通路はまた右に曲がっていた。ぐるりとUターンする感じだ。しかし今度はすぐに行き止まりになっていて、木で出来たドアが据付けられていた。

「えー、このように迷宮の中にはたまにドアで仕切られた玄室とよばれる部屋がありますー。ドアに罠が仕掛けられていることなんかもありますので、あける時は気をつけるようにねー。まぁ、ここの一階は変なワナとかないので普通にあけちゃってだいじょぶだけど、ねっ!」

 言いながらシェイラさんが右足を軸にして左足でドアを蹴り破った!

「……ちなみにドアはかっこよく蹴破るのが冒険者っぽくてよいデスヨ?」

 ドアの破片を蹴飛ばしながらカンテラを前方に掲げ、シェイラさんが部屋に踏み込んだ。

 とたんに部屋の中央が何かカラカラとい軽い音がして、何か白い小さなものが組みあがっていく。

 組みあがったものは、白い、人の、骨!

「……スケルトンか!」

 すぐに、リーアを床に下ろし、火乃木の棒を持って構える。

 ちみっこたちも新聞紙ソードと新聞紙シールドを構えて、さっと前に出る。寧子さんは既にハンマーを肩にかついでスケルトンと対峙していた。

「はい、このようにー玄室と呼ばれる部屋に入ると、モンスターの類が現れることがありますよー」

 間の抜けたシェイラさんの説明を聞いている余裕はない。

「すらちゃんとシルヴィは離れて援護を! りあちゃんはリーアを頼む!」

 俺も前に出ようと、一歩踏み出した瞬間、腰のベルトをつかまれてつんのめる。

「こらこら、あわてないあわてない」

 シェイラさんだった。

「いや、モンスターでてるのに何をのんきな!」

「……ほんとド素人なんだねー。この迷宮はモンスターも含めて全部スタッフにより運営されていますのでー、ちょっと落ち着いてー」

「……えー、なぐっちゃだめってことっ?!」

 シェイラさんの言葉に、前方でハンマーを振り上げていた寧子さんがたたらを踏む。

「アー、お客さんお客さん、ようこそおこしやすー!」

 真っ白なスケルトンが、とぼけた声を上げた。

「えー、ここは第一のアトラクション、すけるとんとあそぼう、のコーナーですねん」

「……いや、骨のくせにどうやってしゃべってるんだあんた」

 思わずツッコミを入れると。

「……気合い?」

 なぜか疑問形で答えが返ってきた。




「玄室の説明はシェイラはんがしはったみたいやし、アトラクションの説明させてもらいまひょか」

 どこかちゃんぽんな方言まじりで喋りながら、スケルトンが床に正座した。

「てきとーにそのへん座っておくれやす」

 言われるままに、スケルトンを囲むようにしてみんな床に腰を下ろした。

「ウチは見てのとおりホネですねん。いわゆるスケルトンいうやっちゃな。迷宮やとイキモンを設置すんのは大変やし、ウチみたいなアンデッド系やとか、魔法で動く魔法生物の類なんかがぎょーさんおります」

 ぺん、と自身の白い頭蓋骨をひとつ叩いてスケルトンがカラカラと笑う。

「このアトラクションは迷宮でよく見かけるスケルトンの倒し方とか勉強してもらおういうコンセプトやな。えー、そこのおじょうちゃん、スケルトンの倒し方てしってます?」

 スケルトンがルラを指差した。

「だげきぶきで、なぐるのー!」

 元気に両手をあげてルラが答える。

「なかなか勉強してはるなー。でもひゃくてんやないなー。おし、そこのハンマーもったお姉さん、ちょっとウチをなぐってみてくれるかいな?」

「……え、なぐっていいのっ?!」

 寧子さんが喜々としてハンマーを振り上げる。

「……あんま本気でやらんどってやー?」

 寧子さんは立ち上がって、冷や汗を流すスケルトンの前に立つと。

「ちゃー、しゅー、めーんっ!」

 と謎の掛け声と共にハンマーを振りぬいてスケルトンの頭蓋骨をすっとばした。

 からんからんと軽い音を立てて頭蓋骨は部屋の隅まで転がっていき、ぴたりととまった。かと思ったら、ビデオを逆回しするかのように不思議な力で宙を飛びもとの位置に戻った。

「……ってかんじやねん。刃物がほとんど意味ないのは当然として、打撃武器が有効なのもたしかなんやけど、時間経てば戻ってしまうもんなんやな。そもそも筋肉や腱でつながっとらんで魔法ちゅうか不思議ぱわぁでホネがくっついとるさかい、バラバラにしたところでまた元のように組あがるだけんよ。粉になるくらい砕いたら別やねんけど」

 やべぇ、スケルトンまじやべえ。

 その名の通りマジで不死者アンデッドじゃねーかっ!

 ゲームとかだと割と序盤ででてくるような雑魚モンスターだったりするんだが、こんな倒し難いものなのか? ……いやゲロイムなんかもみぃちゃんが解説してたけどまともに倒すのは難しそうだったし、俺の認識が甘すぎるだけなのだろうか。

「……ふむ、では魔法ならいかがか?」

 シルヴィが手のひらに何か光の玉のようなものを浮かべて言った。

「それも正解のひとつやね。ただし、完全に灰にするんなら別やけど、形残るようやったら一緒やで? あー、それ試すんは勘弁しといてください」

 ブルブル震えながらスケルトンがまたぺしんと自身の頭蓋骨を叩いた。

「ふむ」

 シルヴィは素直に光の玉をかき消した。

「……あとは神聖魔法なども定番なのでは」

 神殿勤めのりあちゃんは、そっち方面の技能もあるらしく聖印ホーリーシンボルらしきものを握ってスケルトンに向けた。

「うひゃあ、それ最悪やん。ウチまだ死にとうないわ!」

「……いやあんたもう死んでんだろ?」

 わたわたと四つんばいになって逃げるスケルトンにとりあえず突っ込んでおく。

「……で、話をもどしまひょ。魔法や神聖魔法は確かに効果ありますけんども、いつもパーティに魔法使いがおるとも限らんし、居たとしてもいつも魔法を使える状態ともかぎりませんやん? そゆときあんさんらどうします?」

「……」

 俺には、打撃武器で細かく砕いて復活を遅らせるくらいしか考え付かなかった。

「……腰骨」

 ぽつり、と漏らしたのはすらちゃんだった。

「私、何かで読んだ事あります。腰骨を砕くと、スケルトンは上半身と下半身でバラバラに動くことしか出来なくなるって」

「お嬢ちゃん、大正解やー!」

 スケルトンがぺん、と頭をたたいて声を上げた。

「いやー、ガイド付きの初心者のわりにあんさんらよう勉強してはりますなぁ。つーわけでな、長々解説やら説明やらしてきましたけど、チケット一枚でスケルトン退治の体験してみまへんか?」

 表情がない骨の顔なのに、どこか商売人のような抜け目のない雰囲気でスケルトンがぺしりと頭蓋骨を叩いた。

「やるのー!」

「たいじするのー!」

 ルラとレラが、さっそくチケットを一枚ちぎってスケルトンに差し出している。

「ちょっとまったーっ! あたしが先だよっ!」

 大人気なく寧子さんがちみっこどもを押しのけるようにしてチケットを突き出したので、俺は無言で寧子さんの首根っこをひっつかんで後ろに引きずった。

 あんたの娘だろうが。押しのけて自分が先にとか、ほんともうこの人は。

 すかさずちみっこたちがスケルトンにチケットを渡し、代わりに渡された小さなハンマーを得意げに頭上に掲げる。

「腰骨はスペアがぎょうさんありますんで、何回でもいけるで。あわてんと順番にな」

「いくのー!」

 ルラが持ち上げたヘンマーをえいや、と振り下ろすと、どうやら最初から切れ目でも入れてあったのかスケトンの腰骨が真ん中からぱっかりと二つに割れた。

「おみごと! こんな風に腰骨割られるとなかなかもとにもどれへんのよ」

 じたばたと上半身だけ動きながらスケルトンが床を這う。

「ただし、移動できなくなるだけで動けなくなるわけやないんで、気をつけんといかんよ?」

 ぶんぶんと両手を振り回しながらあばれまわるスケルトン。そこにシェイラさんがどこからともなく取り出した腰骨を、「スケさん、新しい腰骨よー」と気の抜けた顔でえいやーと放りなげた。腰骨はくるくると回転しながら割れた腰骨を押しのけるようにしてスケルトンの腰にぴたりとはまる。

「ありがとう、シェイラはん!」

 しゃきーんと立ち上がったスケルトンがポーズを取り、「おおー」とちみっこたちが拍手をする。

 ……ってゆーかどこのアンパンマンだ。




 続いてレラが同様にちいさなハンマーで腰骨を砕き、寧子さんがずっとかついでいたハンマーで「ひゃっふーっ! ひぃかりぃになれーーーっ!」とかどこぞの勇者王みたいなことを叫びながら腰骨を砕く。

 流石に三回も見るともういいか、という感じになってきた。後衛組をと見ると、シルヴィとりあちゃんは「魔法があるから結構」とそろって首を横に振った。すらちゃんはどうやら人骨が不気味で近寄りたくない様子。

「……んじゃ、そろそろ次いくか」

 シェイラさんに声をかけようとしたら、くいくいと髪の毛を引っ張られた。

『りーあもやる』

 なにやら興奮した様子のリーアが、ホワイトボードをばたばたと振っていた。

「ん、じゃ、やるか」

 リーアを背負ってスケルトンのそばへ行く。

「この子がやるそうなんで」

『やる』

「ええでー。しかしお嬢ちゃんは足わるいんかいな? 大丈夫? ハンマーすっぽぬけたりすると危ないで?」

『やる』

 チケットの束をぺしんとスケルトンに投げつけて、リーアがむふー息を吐いた。

 そうしてリーアが人差し指をこめかみに当てて。

「あ、まさか」

 ト。

 低い音が響いた、と思ったらスケルトンの腰骨が粉々に、文字通り粉のようになって砕け散った。

「あひゃー、ちょ、おじょうちゃん、それあかんわ!」

 がしゃんと崩れ落ちたスケルトンが悲鳴をあげる。

『おかわり』

「ちょ、ここまで粉々にされたら再利用できんやん。堪忍してぇや」

『おかわり』

「スケさん、あたらしい腰骨よー」

 ト。

 カシャン。

 シェイラさんが新しい腰骨を投げた端からリーアが粉々にしてゆく。

「ちょ、あかんわ」

『じゅうまいわたした じゅっかいやる』

「かんにんしてーっ!」


 何がリーアをそこまで駆り立てたものやら。わんこそばのように次から次へと連続で腰骨を砕きまくったリーアは、さいごにむふーと息を吐いて。

『ほね うごく ふしぎ よくわからなかった』

 まだ物足りなさそうにホワイトボードを振っていた。

 ……いや、いいのかリーアそんなんで。

 ……リーアはなにが気に入ったんでしょうね?

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