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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第三話「迷宮で遊ぼう」
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 6、「迷宮第一層 ちゅーとりある」

 ようやく迷宮に第一歩を……?

「さて、改めてまずは自己紹介しとこうかなー。あたしはシェイラ。元はあちこち迷宮探索してたんだけど、今はこのレイルの迷宮で雇われてるよ」

 先頭を歩くシェイラさんは身体半分振り返るようにして小さく微笑みながら言った。

案内役ガイドのあたしが呼ばれたってことは、君たちまったくのシロウトってことだよねー? センパイ冒険者としてちょっとは教えられることもあるとおもうからー、なんでも聞いてね? ……あ、スリーサイズと年齢は秘密だよー?」

 シェイラさんは、えへへと笑って前に向き直った。

 年齢が秘密って。

 背が高い割りには顔付きは大分童顔というか、けっこう若そうに見えていたのだけれど、年齢を秘密にするということは実は結構歳なのだろうか。

「はい、あそこに見えるのがー、レイルの迷宮の入り口ですー」

 シェイラさんが立ち止まってこちらに向き直る。案内所から十メートルほど歩いた場所、丘のふもとにぽっかりと黒い穴が開いている。周囲をレンガのようなもので固められていて、入ってすぐは下に降りる階段になっているようだ。入り口はそれなりに広く、幅五メートルほどあるだろうか。思ったより広い気がする。

「迷宮探索の心得そのいーち。まずは隊列を決めようねー」

 シェイラさんは俺達をぐるりと見回して、なにやらふんふんとうなずいている。

「持っている武器からして、前五人、後ろ三人でいいんでしょうか?」

 近接武器を持ってるのは俺、寧子さん、ルラ、レラ、りあちゃんの五人だ。リーアとシルヴィ、すらちゃんが後衛になる感じでいいんじゃないだろうか。

 しかし。

「んー、三十点かなー」

 シェイラさんは腕組みして首を九十度傾けると、にかっと笑った。

「バックアタックも考えると、後ろにも戦える人いたほうがいいのよー」

 そういってシェイラさんが示したのは次のような編成だった。

 一番先頭にハンマーを持った寧子さん。二列目にルラ、リーアを背負った俺、レラ。三列目にシルヴィ、四列目にすらちゃんとりあちゃん。漢字の「士」みたいな形の隊列だ。

 ゲーム的なイメージで前列と後列という二列編成しか頭になかった俺は、その構成に割と衝撃を受けた。しっかりと鎧を着た寧子さんが盾役で最初に敵を止める役、即座に前に出られる二列目がメインの物理アタッカー、おそらく魔法使いであろうシルヴィを中央の三列目において、最後尾に遠隔アタッカーと念のための前衛。確かにそれなりに理にかなっている。

 俺がリーアを背負っていなければ、俺とりあちゃんの位置が逆でも良かったかもな。

 欲を言えば両脇はルラレラの新聞紙ソードなどという頼りない構成じゃなくて、もう少しがっしりしたメンバーにしたいところだ。勇者候補生チームと合流した際には、ニャアちゃんが寧子さんの隣、ルラレラの位置に真白さんと真人くん、シルヴィの隣にヴァルナさんといった感じだろうか。考えるだけでも結構楽しい。

「もちろん戦闘が始まったらある程度は臨機応変にねー」

 シェイラさんが満足げにうなずいて、「んじゃ、いくよー」とスキップしながら先に迷宮の階段を降りて行ってしまった。

 俺はりあちゃんに背負ってもらっていたリュックから懐中電灯を三本とりだして最後尾のりあちゃん、ルラレラに渡した。

「……勇者タロウ殿、これはなんだ?」

 懐中電灯がわからなかったらしい、りあちゃんに使い方を説明する。

「ほぅ、これはなかなかいいものだな」

「ランタンとかカンテラの方が雰囲気でていいんだけどな。流石に用意する暇なかったし」

 ちなみに松明たいまつは火災の恐れがあるのでこの迷宮では使用禁止らしい。

 そこへシルヴィが口をはさんできた。

「いや待つがよい、そこの竜族の少女は剣を持って戦うのであろ? ならば灯りは手ぶらのわたしが持つ方が理にかなっておる」

 目が懐中電灯に興味津々だ。ヴァルナさんといいシルヴィといい、やはり冥族というのはどうやら知識欲が旺盛な人が多いようだった。

「むぅ、確かに……シルヴィスティア殿の言うとおりだな」

 しぶしぶとりあちゃんが懐中電灯をシルヴィに差し出す。手が触れないように注意深く受け取ったシルヴィはさっそくスイッチをカチカチしながら「ほう」とか「ふむ」とかつぶやいた。

 ……いや、自分が懐中電灯さわりたかっただけだろシルヴィ。

「もー、おにいちゃん、はやくいくのー」

「ごーごーなのー!」

 俺達のやりとりに、待ちくたびれたらしいちみっこどもが声を上げたので、がしがし頭をなでてやる。

「ああ、わかったから騒ぐな」

 隊列を整えて、ひとつ大きく息を吸い込む。

「んじゃ、行くぞ! みんな!」

 そうして俺達は、レイルの迷宮へと足を踏みいれた。




 地下へと続く階段は、何度かつづら折するように向きを変え、どんどんと下へ続いている。

 丘のふもとにある迷宮なので丘をくりぬいた平坦なものかと思っていたが、そうではなく地下深くへと続く構造のようだ。

 気温の差か、地上からの空気の流れが足元を通って洞窟の奥へと向かっていた。懐中電灯に照らされた壁は時折カビて黒ずんでおり、天井は高く細い懐中電灯では見通せない。

 だんだんと空気が重く湿ったものになって行き、時折生暖かな風が頬をなでる。

 ぴちょん、と小さな水滴が頬に当たった。天井のどこかから地下水でも漏れ出しているのだろう。よく見ると階段の脇には溝が彫られており、小さな流れがあるようだった。

「まだ地下一階にも着かないのに、地下鉄の駅よりもっと深いかんじだな……」

「わくわくするねっ! たろう君っ!」

 先頭を歩く寧子さんが楽しげにハンマーをぶんぶんと振り回す。すっぽぬけると危ないので止めてほしいいんだが。

「だんじょんはー♪」

「とっても、くらいのー」

「だんじょんはー」

「じめじめ、してるのー」

「だんじょんはー♪」

「おたから、ざくざくなのー」

「――♪」

 ルラとレラも陽気に歌うような声を上げている。俺の背中のリーアも時折相槌を入れるかのように楽しげな声を上げる。

「……迷宮とは、ただ階段のことか?」

 逆にはやくもつまらなそうな声を上げたのがシルヴィだ。壁に触って材質を確かめた後、期待はずれだったかのように、ふん、と鼻を鳴らした後は何か退屈そうにしている。

「いやまだ、迷宮の入り口みたいなものだぞ」

「そうは言うがな、壁の素材と石の積み上げ方を見た時点でだいたいこの迷宮を造ったのもの実力がわかるものだ。正直、あまり期待はせぬ方がよいぞ?」

「そうなの?」

「それほど古いものではなかろう。ヴァルナの話ではせいぜい百五十年くらい前の遺跡ではないかという話だったが、もっと新しいかもしれぬ。古代魔法帝国とやらは少なく見積もっても五百から三千年ほど昔に栄えたものらしいからな、ここは本物を模して造られたものだろう」

「訓練施設だという話だから、俺は新しいものでもそれでも気にしないんだけどな……」

「いや、すまぬ。タロウたちが楽しんでいるところに水を差したかったわけではないのだ」

 シルヴィは小さく頭を下げた。

「ただ、わたしが期待していたものとはやや趣が異なるようなのでな」

「あははー、あんしんしていいよー」

 不意に前方を照らす灯りに白い顔が浮かび上がった。

 シェイラさんだった。そういや灯りらしきものも持たず先に降りて行ってしまってたけど大丈夫だったんだろうか。

案内人ガイドらしいこともちょっとしとくとねー、このレイルの迷宮は、元は二千年くらい前にとある魔術師が造った迷宮を改装したものなのよー。入り口はこの迷宮が発見された後に整えられたものだから比較的あたらしいけどね」

「ふむ、さようか」

 シルヴィも多少興味が戻ってきたらしい。

「ってゆーか君たちおっそーい。あたしひとりでちょっとさびしかったぞー」

 シェイラさんが笑顔で文句を言う。

「まあ、いいかー。はい、あと数メートルで地下一階だよー」

 壁に手を当てて、シェイラさんがすぅっと闇の中に消えた。先ほどから灯りも持たずにと思っていたが、なるほどここのスタッフなだけに歩き慣れているのだろう。

 果たして何歩も歩かないうちに床が平坦になった。階段と比べて道幅もやや広がったようだ。左右のルラレラに照らしてもらう。迷宮の道幅はだいたい六メートルほどだろうか。二車線道路の幅くらいというと想像がつくだろうか。横に並んで歩くだけなら十人くらいはいけそうだ。

「……思ったより、広いんだな」

 しかし武器を振り回して戦うことを考えると横に並べるのは五人くらいだろう。

 俺達の今の隊列だと、片側に寄ると反対側の壁が見えないくらいだ。この広さだとバックアタックだけでなく、気付かないうちに側面からとかありそうで怖いな。

「ようこそ、レイルの迷宮へ!」

 壁際からシェイラさんの声がして、カンテラらしき灯りが灯った。腰の辺りにぶら下げているらしい。

「さて君達はこれからこの迷宮を探索するわけですがー、覚悟はいいかなー?」

 にやにや笑いながら、シェイラさんが壁の何かを触った。

「覚悟って、もちろん! んっ?」

 拳を握って答えた瞬間、足元に違和感。

 床が。

 消えた?

 考えるより先に、ルラとレラを両手に抱きかかえていた。

「わひゃあ」「きゃあ」「きゃーの」「やーの」「――♪」「おっ」

 左足に誰かが。

 ちくしょう、両手がふさがってどこにもつかむとろが。

 両脇にぐぐっと加重がかかり、落下が止まる。

 顔が何か柔らかいものに押し付けられている。

「ふ、ふおおーっ! ねいこちゃんがんばるーっ!」

「ぶらんぶらーんなのー」

「ままがんばれなのー」

 わずかに見上げると寧子さんのおしりが目の前に合った。落とし穴のふちにハンマーで引っかかった寧子さんが俺の脇下を足で引っ掛け、引っ掛けられた俺はルラレラを両手に抱えて背中にはリーア。俺の左足には誰かがつかまっているようだ。位置的にりあちゃんか?

「みんな無事か? りあちゃん、すらちゃん?」

「スラリン殿は私が抱えている!」

 俺の左足からりあちゃんの声が聞こえた。

「すまぬ、この狭さでは咄嗟にハネを開くことが出来ず」

「いいからもう少しがんばれ」

「あのー……鈴里さん」

 シェイラさんがなんか壁操作してたっぽいけど、あの人が何か仕掛けを発動させたのか?

「……って、あ、シルヴィは?」

「わたしならここにおる。すまんの、とっさのことで自身にしか魔法をかけられなんだ」

 シルヴィの声は上からした。見上げるとシルヴィが宙に浮いていた。

「その魔法、俺達にも掛けてもらえますか?」

「しばし待て」

「あのー……鈴里さん、聞こえてます?」

「ふおーっ! た、たろう君っ! おしりがくすぐったいよっ!」

「すみませんもう少し我慢してくださいっ!」

「……おー。まったくの初心者とは思えないねー」

 慌てふためく俺達を見下ろすように、穴のふちにしゃがみこんだシェイラさんがのんきな声を上げた。

「ちょっと! シェイラさん! あなたがこんなことしたんですか?」

「そうだよー。迷宮あるあるーそのいーち。”はじめのいっぽが落とし穴”。あると思いまーす」

 言いつつ、シェイラさんが穴のふちにかろうじて引っかかっていた寧子さんのハンマーを蹴り飛ばしたらしい。

「ああ、たしかにある意味てんぷれー、ってひどいよシェイラちゃんっ?!」

 浮遊感とともに俺達は。

 ――ぼすんと柔らかいものの上に落っこちた。

 海綿というかスポンジというか、何か柔らかいものが大量に敷き詰めてある。

「……???」

「ぽよんぽよんなのー」

「ふっかふかなのー」

「――♪」

「ふひゃは、たろうくんっ! お尻の下でもぞもぞしないでっ! くすぐったいよっ!」

「むむむ、まさかすぐ下に床があろうとは」

「……だから、鈴里さん、私足が着いてるから大丈夫です、って何度か言おうとしたんですけれど」

 俺はなんとか起き上がって、ルラの懐中電灯を借りて周りを照らした。

 壁になにかプレートがかかっている。

「”注意一秒ケガ一生、最初の一歩も慎重にね(はあと)”……」

「うふふー。この迷宮に初めて挑むひとたちはー、必ずここに落ちてもらう決まりなのでーす」

 穴の上からのーてんきな声とともに、ロープで出来た縄梯子が下ろされてきた。


 ……いや、落としたのあんただろう。

 とりあえず、上に戻ったらシェイラさんを一発なぐろうと思った。

 人数多いと動かすのが大変……。ここ何回かほとんど喋ってないキャラいるし。

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