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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第三話「迷宮で遊ぼう」
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 4、「ぷれいんぐまにゅある」

 遅れました。


「――さぁて、そろそろ行きましょうか?」

 挨拶やら情報交換がある程度終わったあたりで、真白さんがきりりと表情を引き締めて言った。

「ん、こっちは特に問題ない」

 俺はそう答えてから確認を忘れていたことに気がついた。

「あ、ちょっと待った」

 まだヴァルナさんと話をしているシルヴィのところへ駆け寄る。よく考えたらシルヴィにはダンジョンに潜るかどうか確認してなかったのだ。シルヴィの目的はこちらの冥族との情報交換だったわけだから、必ずしも俺たちに付き合う必要はない。

「俺たちは迷宮探索に行きますが、シルヴィはどうします? ここで待っていてもらってもいいんですが」

「いや、ヴァルナ殿の話ではなかなか面白そうな娯楽施設のようであるし。わたしも行こう。なに、それなりに腕に覚えもあるし、足手まといにはならん」

 シルヴィはそう答えて、不敵な笑みを浮かべた。見た目は幼いくせに、妙な貫禄がある。

「すみません、じゃあ、お願いしますね」

 うなずいて、真白さんに準備完了したことを告げる。

 すると、黒神ネラさんが魔法のステッキをくるくる回しながら言った。

「……行き先は、このあいだのダンジョンだよね。あたしが飛ばしてあげるよ」

 言いつつネラさんが、ぶん、とステッキを振り下ろすと、神殿の床に黒い光で魔方陣が描かれた。

「じゃ、いってきます!」

 ネラさんに手をあげて挨拶すると、「いてら~」とひらひら手を振り返してくれるのが見えた。

 魔方陣に足を踏み入れると、下に行くエレベータが動き始める瞬間のような、ちょっとした浮遊感があった。一瞬目の前が暗くなって、ふと気がつくと荒野の只中に突っ立っていた。

 ぐるりと周りを見回すと、続いて仲間達が次々と現れて行き、

「……おっそーいっ、よっ! たろう君! あたし、もう待ちくたびれちゃった、よっ!」

 なぜか寧子さんがいた。




 まぶたをこすって、もう一度確認してみたが、やっぱり寧子さんが居る。

 おかしいな、と思って、眉に唾をつけてみたが、やっぱり寧子さんが居た。

 それも、胸鎧を着て腰には長剣をぶら下げ、いかにも冒険者でござい、と言った装いで、突っ立っていた。

「……なんで寧子さんがここに?」

「いやひどいじゃないたろう君っ! こんな面白そうなことにあたしを誘ってくれないなんてさっ?」

 握った両拳をぶんぶんと上下に振りながら寧子さんが声を上げる。

「いや、だって」

「呼んでくれないから勝手に来ちゃったよ! えへへっ!」

 いい笑顔で俺の腕に抱きついてくるが、いい年してこの人はほんとに子供みたいだ。

「タロウ、その女性は誰か?」

 シルヴィが小さく首を斜めにして言った。

 そう言えば寧子さんに会ったことない人も結構いるんだよな。こちら側ではシルヴィにりあちゃんやすらちゃん、勇者候補生側だとヴァルナさんが初対面だっけか。

「あ、紹介しときますね」

 仲間達をぐるりと見回す。

「俺と、真白さん、真人くんの世界の創世神で、うちのちみっこどもの母親の三池寧子さんです」

「どぉも~っ! ねいこちゃんどぇ~っす!」

 紹介すると、ものすごく軽い感じで寧子さんが両頬に人差し指を当てて愛嬌を振りまいた。

「……あんなのが、創世神か」

 シルヴィが額を押さえて呻いたが、正直よくわかります。

「えーっと……」

 真白さんがひぃふうみぃ、と人数を数えながらぐるりと仲間達を見回していく。

「そうすると、勇者候補生側は私、真人、ニャア、ヴァルナさんの四人、週末勇者側が鈴里さん、リーアちゃん、リアちゃんさん、すらちゃんさん、シルヴィさんの五人、それにララ様を加えた全部で十人パーティってことになるのかな?」

 結構な大人数だな。これにちみっこ女神たち四人をくわえた十四人の団体様なわけだ。

「そういえばちみっこ女神たち四人は、どうするんだ?」

 尋ねると、どうやら待合室的なものがあるらしい。

「まぁ、詳しい話は受付で聞いてちょうだい」

 真白さんは、そういうと先頭に立って歩き始めた。

 受付ってなんだ?

 少し疑問に思ったが、大人しくついていくことにした。




 小さな丘を目指して荒野を少し歩くと、石造りの小さな建物が見えてきた。

「あそこが受付よ」

 真白さんが、にまにまと微笑みながら、「じゃーん」と懐から薄い金属の板を取り出した。

「えへへ、これが冒険者カードよ!」

「おー!」

 見せてもらうと、免許証サイズの磨き上げられた小さな鉄の板だった。裏側は鏡として使えそうなくらいぴかぴかだ。表にはなにやらごちゃごちゃ細かい文字が刻まれている。

「……”凍てつく吹雪スノウ・ウィンド”マシロってなんすか、真白さん?」

「いいでしょう、ふふふ。二つ名とかも刻んでくれるのよ」

 ルビまで刻まれてるし。苗字が雪風だからスノウ・ウィンドとかなんか安直な気もするが本人が気に入ってるらしいので俺が口を挟むことでもないだろう……。

「簡単に説明すると、そこの受付で入場料を払って迷宮に入ることになるわ。詳しい話は受付できいてね」

「わかりました」

 ぞろぞろと連れ立って歩いていると、石造りの建物の一角がカウンターのようになっていて中に若い女性の姿が見えた。緑色の髪、緑色の服。退屈そうに小さくあくびをしていたが、ぞろぞろと歩いてくる俺達に気がついたようで、こちらに向かってにこりと微笑んだ。

「まぁ、まぁ、まぁこんなに大勢のお客様なんて久しぶりです」

 受付の女性は胸の前で手を合わせて、嬉しそうに微笑むと、

「ようこそ、レイルの迷宮へ」

 歓迎するように両手を広げた。




「私達は初回じゃないから、先に行ってるわね。二階への階段で待ち合わせしましょう」

 真白さんは、そう言って受付の人に入場料らしき銀貨を何枚か渡すと、真人君とニャアちゃん、ヴァルナさんの腕を引いて丘のふもとにぽっかりと口を開ける洞くつに向かって歩いていってしまった。



「こんにちは。わたしは受付担当のサクリュナ・ヴィスと申します」

「……あ、ああ。こんにちはです」

 受付の女性に挨拶を返しながら、俺は思わず彼女をじろじろを見つめしまった。間近で見る受付の女性は、とても奇妙だったからだ。先に遠目で見て緑の髪、と思ったそれは、草だった。とても細くはあったが、髪の毛ではなく平べったい草だったのだ。肌もやや緑がかった白というか色というか、全体的にどことなく人間と異なっている。緑の服、と見えたのもどうやらこの髪の毛のような草を編んだもののようだ。

 ……この人、いったい何者なんだろう?

 俺が内心で首を傾げていると、受付嬢のサクリュナは目をぱちぱちと何度か瞬かせて、それからにんまりと微笑んだ。

「あら……もしかして、樹人族サクリファイスは初めてですか? 見た目の通り、植物系なんですよ」

「ああ、すみません不躾にジロジロと見つめてしまって」

 慌てて謝ると、サクリュナさんは「かまいませんよ」と笑って、それからカウンターの上にいくつか資料のようなものを並べ始めた。

「さて、お客様は当レイルの迷宮は初めてですね?」

「はい、先ほどの真白さんに誘われまして」

「本日は、どのコースをご利用でしょうか?」

 コース? 真白さんは訓練所のようなものといっていたし、その訓練コースということだろうか。何も言わずに言ってしまった真白さんがうらめしい。

「あの、どういったコースが?」

「では、当迷宮に関しての説明からさせていただきますね。あ、こちら以外の迷宮を探索されたことはありますでしょうか?」

「いえ、こちらの迷宮がはじめてになります」

「了解いたしました」

 サクリュナさんはいったんカウンターの上に広げた資料を片付けると、カウンターの横のドアを中から開けた。

「まったくの初心者ということでしたら、まずはみなさんに講習を受けていただきましょうか」

 中に入ると椅子がいくつかあり、壁には黒板のようなものがぶら下がっていた。

 そうして始まったサクリュナさんの迷宮講習はとてもわかりやすいものだった。

 簡単にまとめると、大体次のようになる。

 まずここは迷宮探索を行うための、いわば訓練施設であること。

 このような施設は他にもたくさんあること。

 多くの迷宮は訓練施設であると同時に娯楽・賭博施設であり、営利目的で経営されていること。

 注意する必要があるのは、迷宮ごとに様々なルールや仕組みが定められており、事前に必ず確認する必要があること。

「ものすごーく、平たくいいますと、迷宮探索というのは、基本的には入場料を払って入場料以上のお金を稼ぐことを目指す娯楽、ということですね。当迷宮は、娯楽施設としての要素の強い、地下一階、訓練施設としての要素の高い地下二階、賭博施設としての要素の高い地下三階の、全三階構造になっております」

 ここテストにでますよ~とばかりに黒板をぺんぺんと指示棒でたたきながらサクリュナさんが「ここまでよろしいですか?」と聞いた。

 うなずくと、サクリュナさんは続けて「では当迷宮の説明に移らせていただきますね」と板書をいったん消してしまった。

 しまったメモ取っとけばよかった。

「当迷宮では、地下一階だけを回る娯楽コース、地下二階を探索し地下三階への階段を目指す訓練コース、地下三階を探索しダンジョンマスターを倒すことを目指す賭博コースの基本三コースがあります。いずれの場合も、初回のお客様には地下一階から探索していただきます。一度各階に到達すれば次回からはショートカット等利用できますので」

 なるほど、真白さん達はショートカット使って二階にいっちゃったのかな。

「ということで、お客様。今回は娯楽コースをご利用でしょうか?」

 営業スマイルでサクリュナさんがにこりと微笑んだ。

 俺の仲間は見た目子供な連中が多いので、サクリュナさんも子供連れで遊びに来たのかと思ったらしい。

「いや、地下二階の訓練コースかな」

「ああ、地下二階以降は年齢制限がございますので、九歳以下のお子様は立ち入れませんがよろしいですか?」

「ああ、そこのちみっこ四人以外は大丈夫だ」

 ちみっこ女神を指差すと、フィラとティラは「ここで留守番してる」「ここで観戦してるの」とだらけムードだった。そういやこの子達は前回も説明うけてるんだっけ。

「わたしたちは、一階は遊ぶのー」

「わくわくだんじょんたーいむなのー」

 ルラとレラは両手を上げてやる気満々だ。

「了解しました。では、まずは皆様の冒険者カードをお作りしましょうね。次回からはこのカードをご提示いただければ入場料だけで迷宮に入ることができますので」

 サクリュナさんがちみっこたちを微笑ましく見つめて、記入用紙を全員に手渡してくれた。

「この用紙に必要事項をご記入ください。ご不明な点があればお答えいたしますので遠慮なく聞いてくださいませ」

 渡された用紙に記述する項目は、名前、年齢、性別、武器などの主な攻撃方法などで、それほど大したことは書く必要がないようだった。

「名前などは、かっこいい二つ名をつけてもかまいません。ルビもふれます。こちらに記述した内容が冒険者カードに記述されますが、内容は正しくなくてもかまいません。ただし、攻撃方法については記述したものを守って頂く必要がありますのでご注意ください。またこのカードは当迷宮でのみ有効となりますので予めご了承ください」


 俺は普通に自分の名前でいいかな。週末勇者とでも名乗るかな。

 ぼんやり考えながら用紙に記入していると、なんだかぞくりとする嫌な気配がした。思わずその気配を探すと、寧子さんが「くひゃ、くひゃ、ふひひ」と不気味な笑みを浮かべながら喜々として用紙に書き込んでいるところだった。


 ……見なかったことにしよう、と思った。

 ……4まで来てまだ迷宮に入れてないし。真面目に探索したら20くらいまでいっちゃいそうかも。

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