3、「異世界の三女神」
キャラ増えすぎて収拾つかなくなってきました……。
ドアの向こうには、三人の人影があった。
「……だからいいかげんにしろっ、て言ってんでしょーがっ!!」
白いスクール水着のようなものを来た十歳前後の女の子が、頭から湯気をたてるようにして、魔法少女風のコスプレ衣装を着た十五、六の少女に食って掛かっている。
「……あたし、別にいいかげんなことしてないしぃ~?」
魔法少女は、スク水幼女の怒鳴り声などどこ吹く風とばかりに小さく肩をすくめている。
「も、もう、おねえちゃんたちやめてよぅ、またセカイを割っちゃうつもり?」
そんな二人の間を灰色のドレスを着た二十歳前後の女性が、あわあわといったりきたりしている。
……なんだかとてもカオスだ。
「勝手に異世界人つれこんじゃってさ、ネラ、あんた何様のつもり? わたしのとこのティラとフィラが選んだ勇者じゃ気に入らないっていうわけ?」
「ちょ、リラおねえちゃんおちついてってば!」
白スク水幼女が、魔法少女につかみかかろうとするが、灰色ドレスが背中から羽交い絞めして止める。
「そんなこと言ってないしぃ~。あたしはただ、勇者がいるなら魔王も呼んだ方がおもしろくなると思っただけだよ、リラねーちん」
にしし、と魔法少女が馬鹿にしたように笑った。
「あー、いっそのことイラのとこの勇者ロナだっけ、あの子も呼び戻して最強女神決定戦やりなおす?」
「……冗談じゃないわ! あんなのに勝てるわけないでしょうがっ!」
白スク水幼女がまた声を荒げてじたばた暴れる。
……勇者ロナって、ロアさんの別名ってゆーか物理攻撃に特化した形態じゃなかったっけ。
いったい何をやったんだあの人は。
「なんにしてもさぁ、もう呼んじゃったわけだしぃ?」
魔法少女が魔法のステッキのようなものを肩に担いでニヤニヤ笑う。
「……だから、そのニヤニヤ笑いを止めなさいってば!」
怒鳴った白スク水幼女の背中に、突然何かの機械が現れる。両肩から長く伸びた二門の砲身。両脇の下からも二門の砲身がじゃきんと伸び、金属の翼が放熱板のようにじゃらりとその背に広がる。ふわりと宙に浮き、その四門の砲身をすべて魔法少女に向け、うがーと唸る。
なんというか機械仕掛けの女神? モビルスーツ少女というか。
対する魔法少女も。
「んー、やる気? ケンカなら買うよー」
くるりと魔法のステッキを回してその先端を白スク水幼女に向ける。その先端に何か力が集まっていき、光が灯る。こちらは見かけどおり、魔法少女のようだった。
「……おねえちゃんたち、やめてってばぁ~!」
間に挟まれた灰色ドレスの女性だけが、ただおろおろとしていた。
そこで、流石にいつまでもぼんやり眺めてるのもあれだし、俺はとりあえず声をかけてみることにした。
「……あのー、取り込み中のところ悪いんですけどすみません」
「……は? 何よあんたら。ってゆーか、どうやってこんなとこに来たの?」
声をかけると、白スク水幼女がぎろり、とこちらをにらみつけた。
「ども、俺は鈴里太郎といいます。こちらのルラとレラの世界で勇者やってます」
ペコリと頭を下げると、ルラとレラが両手を上げて「ルラなのー」「レラよ」と声を上げた。
「……え?」
「……は?」
「……?」
なぜか三人の女神がぴたりと動きを止めた。
よくわからなかったが、こちらの用件を告げておくことにする。
「今回、ティラちゃんとフィラちゃんに招待されまして、ちょっとそちらの世界で遊ばせていただきますのでご挨拶に参りました」
もういちど頭を下げると、三女神が再起動した。
「わ、わたし聞いてないよ?」
「あたしも聞いてないし」
「……あらあら、ようこそいらっしゃいました。あたしは灰神イラです。皆様を歓迎しますわ」
灰色ドレスの女性だけが、にこやかにお辞儀を返してくれた。ほんわかした雰囲気が、闇神メラさんに似ている気がする。
「……こほん」
白スク水幼女が、小さく咳払いをすると、背中に展開していた謎の攻撃ユニットがパタパタと音を立てて折りたたまれてゆき、どこかに消えてしまった。
もういちど、小さく咳払いをしてから、白スク水幼女は気を取り直したように口を開いた。
「……わたしは白神リラよ。女神ルラ様、女神レラ様、ご来訪を歓迎いたします」
魔法少女も佇まいを直して、杖の先に灯った光をロウソクの火を吹き消すようにしてふき消したあと、きちんとこちらを向いた。
「あたしは黒神ネラだよ。創世の女神様、ならびに勇者殿ご一行の来訪を歓迎するね!」
三人そろって、歓迎の意を表してくれる。
「ありがとうございます」
代表して頭を下げると、魔法少女の装いの黒神ネラさんが上から下までジロジロと俺を見つめてきた。
「……んー、そういや今、リラねーちんの勇者たち、あたしの領域で冒険してたね。ってことは、ダンジョンもぐりに来たのかなっ?」
「ええ、真白さんに誘われまして」
「ほほう、なるほどー。うん、じゃあたっぷり楽しんでいってね! リラねーちんのとことか、イラのとこにはあたしの領域みたいな迷宮はないからねぇー」
うふふと黒神ネラさんは微笑みながら、ちらりと白神リラさんの方を見る。
「く、わ、わたしのとこにも迷宮あるもん!」
白神リラさんが口をとがらせる。
「リラねーちんのところはファンタジーじゃなくてSFだからな~」
黒神ネラさんがニヤニヤ笑う。
「ああ、世界が三つに分かれていたんでしたっけ?」
聞いてみると、白神リラさんのところは科学の分野が発達していてSFっぽい世界だったらしい。といっても、どうやらスターウォーズのような感じで不思議科学っぽいようだったが。
対する黒神ネラさんのところは魔法の分野が発達していて、俺が期待するような中世ファンタジーっぽいところらしい。
灰神イラさんのところは科学と魔法が半々くらいで、中途半端に現実ぽい感じらしい。聞いた感じだとルラレラ世界はこのイラさんの世界に近いっぽい。ちみっこの話によると、ルラレラ世界はセラ世界が三つに分割されなかった場合であるらしく、中庸というか結果的に科学と魔法が中途半端に混ざった感じになったのだとか。
「まぁ、興味があればわたしの領域にもいらっしゃいよ」
白神リラさんは、腕組みして小さく微笑んだ。
「はい。機会がありましたら」
とりあえず挨拶は済ませたので、お暇しようとしたら、黒神ネラさんが神殿まで送るというのでお言葉に甘えることにした。
「……じゃ、転送するね。向うのあたしにもヨロシク!」
黒神ネラさんがパチンと指を鳴らすと、俺たちは見知らぬ場所に立っていた。
闇神メラさんの神殿に似ている。ここが黒神ネラさんの神殿なのだろう。
「時間通りね」
ぐるりと周りを見回していると、こちらに気がついた真白さんが声をかけてきた。
「ああ、どうも。お世話になります」
「すらちゃんと、りあちゃんも初めまして! あら、あとそちらの方は?」
真白さんがシルヴィを見て首を傾げた。
「冥族に縁があったと話しましたよね。紹介します、こちらはシルヴィスティア・サークリングス。シルヴィ、向こうが俺と同じ世界の雪風真白さんとその仲間たちです」
「シルヴィスティアだ。こちらの世界の冥族は、同族間で情報共有する固有魔法を持っていると聞いて学びに来た」
シルヴィは他の人には目もくれず、つかつかと真白さんの側にいたヴァルナさんの下に歩み寄り、下から見上げるようにして右手を差し出した。
「ふむ……。わたしはヴァルナ・ローディアだ。異界の同胞よ、歓迎しよう」
ヴァルナさんはシルヴィの幼い容姿に少し戸惑っていたようだが、俺のときとは違って右手を差し出した。どうやら冥族同士では握手しても問題ないらしい。
しかし、シルヴィとヴァルナさんが握手した瞬間、バチンと火花が散った。
「ぐ……」
「む? どうしたヴァルナ殿?」
苦しそうに膝を突いたのは、ヴァルナさんだった。
「……異界の同胞は、なかなかに強力な精気吸収能力をおもちなのだな。まさか同胞に精気を奪われるとは、思いもしなかった」
ヴァルナさんは苦笑しながら埃を払いながら立ち上がり、再度シルヴィに右手を差し出した。
「いや、ヴァルナ殿すまぬ」
シルヴィは頭を下げ、懐から何か液体の入った瓶を取り出し、手に塗り始めた。かすかに香るこの匂いは、以前俺も全身に塗った香油であるらしい。
そうして再度シルヴィとヴァルナさんが握手を交わす。今度は火花が散ることはなかった。
「……面白いものをお持ちですな。まさか薬品でわたしたちの精気吸収を抑えるとは。実に興味深い」
ヴァルナさんがなにやらしきりに感心して、シルヴィと情報交換を始めたようだった。
「よく来たね、異界の勇者くん。歓迎するよ」
「……え?」
真白さんに案内されて神殿の主の所に案内された俺は、思わず首を傾げた。ここは黒神ネラの神殿であるからして、主が黒神ネラかもしくはその巫女であるはずなのだが。
真白さんが黒神ネラとして紹介してくれたその人は、先ほど女神の控え室で出会った黒神ネラさんとはまったくの別人だったのだ。
「黒神、ネラさんですか?」
「そうだよ? さっき天上界であったじゃん?」
にやにや笑いでネラさん?がからかう様に俺を見つめてくる。
「言ったじゃない、向うのあたしにもヨロシク!ってさぁ~」
「……どういうことですか? 全然別人のように見るのですが」
「それは、身体が別人だからしょうがないね! あたしのユーザーインターフェース端末は昔リラねーちんとケンカしたときにぶっこわされちってさぁ、この身体はあたしの巫女のものなのよ」
そこまで言ってから不意にネラさんの雰囲気が変わった。
「……どうも、黒神ネラ様の巫女をしております、ネーナです」
小さく一礼してから、また雰囲気が変わる。
「ってわけ!」
憑依してるみたいなものだろうか。それとも、表の人というかネーナさんの意識もあるようだし、同居といった形が近いのだろうか。
――なんにしてもこっちの世界はまたいろいろと複雑なようだった。
環境変わって、二月三月は残業大目で平日まともに書く時間が取れなくなりそうです。更新頻度がさらにおちるかもしれません。