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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第三話「迷宮で遊ぼう」
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 2、「事情の二乗」

 ちゅーとりあるどころか、ぷれいんぐまにゅあるにも到達せず……。

「……んじゃ、あたしらは行くわね」

 ロアさんが小さく手を振ってどこかへ行こうとしたので、俺はいってらっしゃいと手を振り返そうとしてふと、疑問に思った。

「ロアさん、前回確か調べる方針を変える必要があるとかなんとか言ってましたっけ。今日はどうするつもりなんですか?」

「んー」

 ロアさんは、闇神メアさんをちらりと見て、

「ここの神殿の記録を見せてもらおうかなと思ってるよ?」

 と言った。

「ロアさん、何か調べてるんですよね? うちのちみっこどもに聞いたら早いんじゃないですか?」

 何しろ、この世界の創世神だしな。調べられないことなんかないんじゃないのか?

 ルラレラの頭にぽんと手を乗せると、ルラとレラがしゃきーんと謎のポーズを取った。

「このせかいにおいては、ぜんちぜんのーなのー」

「なんでもきくがいいのー」

「……んー」

 ロアさんは、ちょっと寂しそうな、悲しそうな、複雑な表情をして首を横に振った。

「例えがよくないかもしれないけどさ、タロー。あんた、ある朝起きたら、いきなり人類が絶滅してたらどうする? 神さまがさ、”君が人類最後の生き残りだ”なんて言って来たら、それを信じる?」

「……へ?」

 それは、ロアさんたちの調査に関することなのだろうか。人類が絶滅だって?

 ……俺なら、俺ならどうだろう? 俺の世界で考えると神さまっていったら寧子さんか?

 あの人なら、ごっめぇ~んついうっかり出来心で人類滅ぼしちゃいましたっ!とか言いそうだが、それを俺は素直に信じることが出来るか、ということか。

 正直に言って、なんとも答えずらい。

 咄嗟に答えることが出来ず、思わず詰まっているとロアさんは小さく指を振って言った。

「ああ、答えなくていいよ。この例の場合で言うなら、あたしらの答えが”本当に最後の一人なのか、自分の目と耳と足で確かめる”だってことなのよ。すべての家を一軒、一軒、訪ねて回って、どこかに生き残りはいないか、確認しなければ気がすまないってこと。神さまの言うことなんだから、もしかしたらそれは絶対的に正しいのかもしれないけれど、それでも自分自身の目で、耳で、足で、全てを使って確認しなきゃ納得できない、ってこと」

 みぃちゃんの頭にぽんと手を乗せ、ロアさんはちょっとだけ目を伏せた。

「だからね、要するに、ちみっこ女神ちゃんたちに調べてもらったとしても、それがどういう結果だったとしても、望む望まないに関わらず、結局のところあたしら自身で調べないと気がすまない、ってことなのよ。気持ちはありがたいんだけどさ、あたしらの好きにさせてちょうだいな?」

「……はい。すみません、余計なこと言っちゃったみたいで」

 思わず謝ると、ロアさんは首を横に振った。

「気にしないで」

 ロアさんは、ひらひらと手を振ってメラさんと一緒に神殿の中に入っていった。

 どうもあの口ぶりだと、全てが徒労に終わることをわかった上で、それでもあきらめきれない何かを捜し求めているような。


 ……黙ったまま、何も言わなかったみぃちゃんの表情だけが、少し気にかかった。




「なにやら重そうな話であったが、放っておいてよいのか?」

 シルヴィがロアさんたちの背中を見送ってそう言ったが、俺は黙って首を横に振った。

「助けてくれと言われれば、出来ることはしてあげたいと思うんですけど。何も言わないのにこちらからあれこれ押し付けがましくするのも良くないかと」

「ふむ、まぁ事情はそれぞれか」

 ふん、と鼻をならしてシルヴィが腕組みをした。偉そうだが、どうにも様になっている。

「して、異世界に行くという話しであったが……?」

「ああ、はい」

 俺はりあちゃんとすらちゃんに手招きして、事情を簡単に説明した。

「……と言うわけで、こことは別の世界のダンジョンに潜りに行くんだけど、りあちゃんとすらちゃん、よかったら一緒に行かないか?」

 二人に手短に話をすると、りあちゃんはムスっとした顔になり、すらちゃんはそのりあちゃんの背中に隠れたまま、こちらをちらちらと見つめてきた。

「……勇者タロウ殿。一応確認しておきたいのだが、そちらの世界では遺跡探索というのは違法行為ではないのだな?」

 りあちゃんが眉をしかめたまま、腕組みして俺に問いただしてきた。

「……えーっとだな」

 俺はオフ会の時に昼食を取りながら真白さんたちに聞いた内容を思い出しながら口を開いた。

「そもそもの成り立ちがこっちと向こうじゃ違うらしいんだ……」

 このルラレラ世界では、俺が期待するような、誰かが造った迷宮などというものはほとんど存在せず、迷宮探索というとかつての住居跡であるとか、何がしかの施設の跡であったりとか、そういった遺跡の探索、発掘といった作業が主になるらしく、国の研究機関などの許可された一部の人間しか行えないものであるらしい。

 つまり、俺ァ冒険者でぃ!ひゃっはーダンジョン潜るぜ~!などと勝手に遺跡に潜って遺物を漁るのは、当然、盗掘、ということになる。もっとも実際お金になるので、そういった盗掘は後がたたないらしく、これがルラレラ世界で冒険者と呼ばれる輩がが嫌われる理由のひとつでもある。

 これに対し、セラ世界ではかつて魔法による巨大な帝国が存在した時期に、魔道士たちが自身の知恵と技術を誇る手段として、迷宮を造るのが流行ったらしい。その時期に作られた何千、何百といったそういう迷宮が今でもかなりの数残っていて、それらを利用した遊戯、スポーツとして迷宮探索競技というものが現在でも行われているのだそうだ。

 ……というようなことをりあちゃんに説明すると、りあちゃんは、むふー、と鼻から息を吐いた。なんだか目が輝いている。

「……つまり、物語で語られるような冒険ができるのだな。是非お供させて欲しい!」

 りあちゃんに、がっしりと両手を握られてしまった。

「ああ、ありがとうな」

 がっくんがっくん揺さぶられながらうなずく。

「で、すらちゃんはどうする?」

 りあちゃんの背後に隠れたままのすらちゃんに声をかけると、すらちゃんはりあちゃんの背中からちょっとだけ顔をだして、一瞬だけ俺を見つめたあと、つい、と目をそらして、はぁ、と深いため息を吐いた。

「……なぜ、太郎さんはそう平気な顔をしていられるのですか。私は、恥ずかしさのあまりあなたの顔すら見つめていられないのに」

「……ん、俺、すらちゃんになんかしたっけ?」

 首を傾げるが、特に思い出せない。先週は、何したっけか。

「ああ、そういえば太郎さんにとっては一週間近く前のことになるんですね……。私にとっては、つい一昨日のことなんですが」

 下を見つめてもじもじとするすらちゃん。頬がやや赤い。

 先週って……何か俺やらかしたっけ?

 首を捻っていると、ちみっこどもに服の裾を引っ張られた。

「すらちゃん、エロイムだいぼうそうだったのー」

「おにいちゃんに、えろえろな行為をせまったのー」

 言われてようやく思い出した。

「あー、あれか。香辛料でなんかおかしくなっちゃったやつか!」

 なんか指をなめさせられたり、ちょっとえっちぃ行為をしちゃったやつだ。先週はそれより、シルヴィとのあれこれが印象に強く残っていてすっかり忘れていた。

「……太郎さんは、ひどい人ですね。忘れるなんて」

「いや、あれって酔っ払ったようなもんだろ? むしろ、忘れた方がお互いのためになるんじゃないのか?」

 俺だったら酔っ払って醜態さらした記憶なんて、お互いになかったことにしたい。

「……はぁ」

 すらちゃんは深くため息を吐いて、どうやら気持ちを切り替えたようだった。そそくさとりあちゃんの背中から出てきて、小さく首を傾ける。

「ところで、今日は魔王ちゃん様は? たしか、今日はいらしゃる予定ではなかったでしょうか?」

「あー、それなんだが……」

 すらちゃんはどうやらある程度まおちゃんの記憶も持っているようだし、簡単に時間のズレについて説明をする。

「……なるほど。ということは、今日はこれから訪れるというそちらの世界に魔王ちゃん様がいらっしゃるわけですね。でしたら、私もご一緒させてください」

「いや、向こうで会えるとは限らないぞ? まおちゃんどこに居るのか知らないし」

「行けばたぶん、わかりますから。それでも結構です」

「そういうもんなのか」

 すらちゃんには、何かそういう特殊能力でもあるのだろうか。俺はなんとなくうなずいて、じゃあ行こうか、と出かけるメンバーに声をかけた。




 電車の中ではりあちゃんが大はしゃぎしていた。

 うは、だの、うほ、だの感嘆の声を上げてはバタバタと電車の中を走り回っている。初めて電車に乗った幼稚園児みたいだ。

 すらちゃんは、窓の外を流れる星の世界に少しだけ目を見張ったものの、落ち着いた様子で椅子に腰掛けていた。

 シルヴィは一人、少し離れた場所に座って、興味深げに電車の中や窓の外を眺めていたが、すぐになにやら瞑想でもするかのようにまぶたを閉じてなにやらぶつぶつとつぶやき始めた。

 ……何か、呪文でも詠唱しているような。

「あ、そうそうおにいちゃん」

「ちょっとだけ寄り道するのー」

 両脇に座るちみっこたちが俺の服の裾を引っ張って言った。

「ん、まあ、指定された時間に向こうにつくんだし、真白さんたちを待たせることはないよな?」

「だいじょぶなの」

「じかんかからないの」

「おう、じゃ了解だ」

「それじゃ降りるの」

「ごあいさつするの」

 いつの間にか、何度か訪れたことのある”ここではない、いつかどこか”駅に到着していた。

「……あれ、寧子さんのとこいくのか?」

 みんなに降りるぞーと声をかけ、リーアを背負ってから電車を降りると、ちみっこたちはそろって首を横に振った。

「セラおねえちゃんのセカイの神さまにごあいさつするの」

「ちゃんとすじをとおしておくの」

 ああ、そういえばロアさんも異世界を訪れるたびにそこの神さまに挨拶してるみたいなこと言ってたっけ。

「ん、案内してくれるか」

「らじゃったの」

「いくのー」



 ちょこちょことちみっこたちが俺の服の袖を引きながら先を歩き、誰かはぐれたりしてないか時折後ろを振り返りながら先に進む。

「……ここは、いったいどこなのだ?」

「ここが異世界であるのか?」

 りあちゃんとシルヴィが、周りをきょろきょろと見回しながら疑問の声を上げるが、俺はそれに答える言葉を持たなかった。

 というか、ぶっちゃけこの駅ってどういう存在なんだろう。名前の通り、ここではないいつかどこか、なのだとしたらあるいは特異点というやつなのかもしれない。

「……ここ、私、というか魔王ちゃん様が迷い込んだ駅、のような」

 いつの間にかすらちゃんが俺の服の裾をつかんでいた。また、どこかの異世界に放り出されるのを恐れたのか、ずいぶんと手に力が入っている。

 大丈夫だよ、と頭に手を乗せると、子供じゃないんですから!とちょっと口をとがらせた。

「ついたの」

「ここなのー」

 ちみっこたちに案内されて着いた先には、普通のドアがひとつあるだけだった。

「……女神の控え室って」

 寧子さんのところは、三毛猫の実験室、とかいう木製のプレートが掲げられていた気がしたが、ここのは普通に紙に書かれてぺたりとドアの前に貼り付けてあった。

「ごめんくださいなのー」

「おじゃましますなのー」

 ちみっこたちがドアをえいやと開け放つと。


「……だからいいかげんにしろっ、て言ってんでしょーがっ!!」

 ――いきなり怒声が響き渡った。

 用事が重なって書く時間が取れずやや中途半端に。なるだけ四日はあけないようにしたいのですが遅れてすみません。

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