世界はXXで出来ている その4
「俺がいじったこれ、テストプレイみたいなのって出来ないのか?」
せっかく魔法とか作ってみたし、簡単なバトルとか出来ないものだろうかと思って尋ねると、ナビが「テストバトルが御座いますよ」とウィンドウをどこかから引っ張ってきた。
「キャラクターと敵のデータを選択しますと、テスト的に戦闘を行えます。魔法やアイテムを作成した際に、実際にどのようになるのか試すのにご利用ください」
「ふむ」
ん? キャラクターを選ぶ?
「俺が直接戦うことはできないのか?」
「一度セカイを作成しない限り、セカイに降りてテストすることは出来ません」
「なるほど」
それはそうだな。まぁ、俺のデータもあることだし。これ使えばいいよな。
くっくっく……。ついに、復讐の時はきたっ!
キャラクターに俺のデータを選択する。そして、当然敵に選択したのはあの時手も足もでなかったゲロイムだ。
装備とかも選べるようだったので、一応ひのきのぼうとおなべのふたを装備させておく。
……おや?
ひのきのぼうのデータを見ていてちょっと気になったので詳細を表示させると、クリティカルヒット率が十六分の一となっていた。パーセントでいうなら、6.25%だ。意外に高い。
雑魚敵を一匹倒すのに四回くらい武器を振ると仮定したら、四戦闘に一回くらい首をはねる計算だ。攻撃力自体は低い武器だが、これは十分に実用範囲だと思う。
……ただの棒かとおもってたけど、意外にすごいんだな。
ふと気になって破魔の剣ソディアのアイテムデータを調べてみると。クリティカル率は四分の一になっていた。
……前ゲロイムと戦ったとき、俺、何回剣振ったっけかなー。まぁ、世の中そんなもんだ。
ため息を吐きながら、戦闘準備を整える。
「ん、これでいいのかな」
「はい、では戦闘開始いたします」
ナビがひょいと画面端に姿を消した。
代わりに画面によくあるRPG風の戦闘画面が表示される。画面上部のステータスが表示され、真ん中にはゲロイムのグラフィックと、俺の姿をしたキャラクターのグラフィックが表示されていた。キャラの背後、やや斜め上から見下ろしたような構図で、ゲロイムと対峙する俺のキャラは、ひのきのぼうとおなべのふたを構えている。
「……どうやって戦わせるんだ?」
と思った瞬間、画面下部にコマンドが現れた。
「こうげき、じゅもん、どうぐ……ね。ふむ」
とりあえず、攻撃を選択してみると、俺のキャラがゲロイムに向かってひのきのぼうを振り下ろした。
『――勇者たろうの攻撃! しかしダメージを与えられなかった!
ゲロイムはまごまごしている』
画面下部にシステムメッセージらしきものが表示される。まんまどこぞのRPGのようだった。
「よし、じゅもんいってみるか!」
『――勇者たろうは エターナルフォースブリザードを唱えた!
→ゲロイムは死んだ!』
先ほど創った魔法のエフェクトが画面上に吹き荒れ、と同時にゲロイムが一瞬で凍り付いて点滅し、ボシュン、という効果音と共に消える。
「うははー!」
思わずガッツポーズをとる。これならいける。ヤツと十分に戦える!
「……んー、おにいちゃん?」
「よろこんでるところわるいけどー」
膝の上のちみっこたちが、微妙な顔で俺を見上げて言った。
「この魔法は、めがみとして却下なのー」
「ひゃくぱーせんとの即死まほうだなんて安易すぎるのー」
「う……、そうか?」
いや、まあ、お試しでつくった冗談みたいな魔法ではあるが。確かに言われてみると安易過ぎるよな?
「せいしんりょく依存でさいだい25%までならきょかするのー」
「ちなみにいまのおにいちゃんのすてーたすだと、4%くらいになるのー」
「いや、それは流石に使う意味がなさすぎるぞ?」
4%だと二十五回魔法を使ってようやく一回敵が死ぬ、くらいだ。武器で攻撃するならともかく、魔法でそれはちょっと実用的でない。
しかし実際のゲームの即死魔法ってそんなもんだよな。うむぅ。惜しいがこの魔法は封印するしかないか。ロアさんの使った魔法とか、どんな感じなのかサンプル見たいところだな。
「ん。ちょっと聞いていいか? 俺が今直接ソースコード書いたみたいに魔法を前もって記述しておけるなら、なんで神代魔法ってソースコードないんだ?」
いや、白魔法もソースコードないんだっけ? 黒魔法だけC言語で書かれたソースがあったが。いったいどういうことなんだろう。
俺が尋ねると、ちみっこたちが、わかってないなぁというように小さく肩をすくめた。
「システムで用意すると、記述されたことしかできないわ」
「そして、システム上で用意すると誰でも使える物になる」
「実現する手段だけ用意して、中身は自分で組み立てるようにすれば、理屈上はなんでも出来るってこと」
「だから、おにいちゃんも自分で理論を組み立てて、それを実現する方法を考えてみてね?」
言いながら、レラがキーボードをカタカタと打ち、テキストファイルに何かを書き込んだ。
「ロラさんが使った精霊核融合のサンプルコードよ」
「基本的な考え方をそのまま書いただけで、ロラさんが実際に詠唱したコードではないけれど」
「ん、ありがとう」
わずかニ十行ほどの短いコードだった。さっそく解析を試みる。
ふむふむ、えーっと。これはたぶん、座標を指定して、そこに何かを移動させて……いや物体の座標を直接書き換えてるから転移、しているのか。あれ、たった……それだけか?
そこまで考えて首を傾げた。
「……って文字通り核融合かよ!」
どうやら同じ座標上に物質を重ねることによって大爆発を起こすという理屈らしい。
「わかった? おにいちゃん」
「実際にはそのままだと爆発範囲の指定も出来ないから、もう少し工夫を凝らして使いやすくするものだけど」
「そういう着想そのものが神代魔法といってもいいわ」
「白魔法はその簡易版といったところね」
「んー。要するにそれっぽい理屈をきちんと考えれば、おっけーということだな?」
「そういうことなの」
単に即死魔法だから即死、じゃ許さないが、何か理屈を考えればいけそうだな。
よくある即死魔法の理屈って、あれだっけ、脳の血管に血栓つくって脳卒中みたいな状態にする魔法だっけか。だから生物系にしか効かないとか制限あったよな。
「よし、ちょっと色々創ってみる」
「がんばるのー」
「ん、こんなもんか」
適当知識でそれっぽいコードを組み上げた。よくマンガや小説の類で見かけるような、トンデモ科学っぽいが、通常の物理法則とは別の手段として、いくつか直接データを書き換えることができるので、割と好き勝手できるっぽい。
基本的に出来ることは、動きの向きを変えること、くっ付けること、離すこと、座標の書き換えなどだ。これらのことを通常の物理法則を無視して行えるのが魔法ということらしい。
例えば、単純に周囲を照らす光の向きをそろえて対象に当てるだけでレーザー光線のような攻撃手段になる。そういう細かい理屈や小さな手法を積み重ねて目的とする魔法を創り出す作業はなかなか面白いものだった。
「ちょっとまた、試してみるかなー」
またテストバトルをやってみようとして、ふと、悪戯というか思いついたことがあったので試してみることした。
敵キャラクターとして、ロアさんのデータを利用。
プレイヤー側は、俺、みぃちゃん、リーアの三人パーティにする。
「ロアさんなら、なにやったって死にそうにないしなー」
それになんかなんかラスボスっぽい雰囲気あるしね。
「……おにいちゃん?」
「それはやめたほうが……」
ちみっこたちがなんだかあわあわしていたが、俺は気にせずテストバトルを開始した。
別にこないだ修行といいつつ無茶振りされた腹いせしようってわけじゃないんだよ、うん。
『――破壊神ロアがあらわれた!
「あっははは~っ! んー、タロー。あたしに剣を向けるとかマジ死ぬ気?」
破壊神ロアは、ぶきみにほほえんでいる!』
「……あれ?」
さっきのテストバトルとなんかノリが違う。なんか勝手にセリフらしきものまで表示されてるし。それに破壊神ロアって。
ちょっと驚いたものの、とりあえずコマンドを選択する。
俺のキャラが呪文、みぃちゃんは攻撃、リーアは魔法だ。リーアは補助系の歌魔法を覚えているらしく、まほうコマンドから表示された魔法を適当に選択した。
って今気がついたけれどデータ直接見られるってことは、結構いろいろやばくね?
グラフィックデータはおろか、ステータスから技能から何から何まで全部見ることができるんじゃ?
『――破壊神ロアは うでを組んでにおうだちした!
――勇者たろうは ひかりのらせん を唱えた!
→ミス! ダメージを与えられない。
――みぃのこうげき!
→破壊神ロアに 25986667のダメージ!
――トリストリーアは 楽しげに歌をうたった!
→勇者たろうのこうげきりょくが2ばいになった!
→みぃのこうげきりょくが2ばいになった!』
「……ちょ、みぃちゃん強すぎね?」
前スカウターで調べた時、数値バグってるのかと思ってたけどまさかマジだったのか?
そして全然平気そうに仁王立ちしているロアさんもまた無茶苦茶だ。あれだけのダメージを受けたにも関わらず、傷ひとつ付いたように見えない。
『――破壊神ロアの攻撃!
→勇者たろうに 999999999999のダメージ! 勇者たろうは死んだ!
→みぃに 999999999999のダメージ! みぃは死んだ!
→トリストリーアに 999999999999のダメージ! トリストリーアは死んだ!』
「……いや、無茶苦茶すぎだろ?」
強いのはわかっていたけれど、それにしたってあんまりすぎる。
「んー、なんかおもしろそうなことやってるじゃない?」
「いや、速攻でぶちのめされて面白くもなんとも……ない」
背後からの声に反射的に答えてから、その声の主に気がついた。
おそるおそる、振り返ると。
ロアさんが腕組みして仁王立ちしていた。その隣にはみぃちゃんも居て、なんだか口をへの字にしていた。
「……えーっと、いらっしゃい?」
「こんばんわ~。おじゃまするわね?」
にこにこと微笑むロアさんが、とても怖かった。
「データの管理者であるちみっこちゃんたちが許可した以上、あたしが文句言うのも筋違いだとは思うけどさ、あたしらのデータ利用して遊ぶのは、ちょっとねー。やめてほしいかな? そのデータって、あたし自身でもあるし」
「ちゃ、ちゃんとおにいちゃん止めたの!」
「でもおにいちゃんが勝手にやっちゃったの!」
膝の上のちみっこたちがぷるぷると震えていた。
「……えーと」
俺は膝の上からちみっこたちを降ろして、その場で土下座した。
「すみませんでしたっ!」
「……まぁいいけど。変なことにつかったりしてなければ」
ロアさんがちょっと息を吐いた。
「……変なことって?」
「いちおう、確認するけれど。あたしらのキャラから装備ひっぺがしてはだかにしたりはしてないわよね?」
ロアさんの問いかけに、ぶるんぶるんと首を横に振る。
そっか、魔法とか戦闘とかそういうことしか考えていなかったけれど、向うのデータそのものを触れるってことは、色んなことができてしまうわけで。
「……あやしいのです」
みぃちゃんが、じとーっとした目で俺を見つめていた。
いや、まだ何もしてないですからっ!
「なるほど、そういう方法で神代魔法とか使えるんだ。へぇー」
ロアさんに経緯を説明すると、興味深げに何度もうなずいて、俺が書いた魔法のソースコードを眺め始めた。
「ええ、次に向うに行った時には、魔法の修行とかもお願いしますね」
「ん、いいよー」
ロアさんは小さく笑って、それからちょっと首を斜めにして俺のパソコンの画面を指差した。
「ところでこれ、ナニ? なんかまた幼女ふえた?」
つつかれたナビは「ひゃぁん」と体をくねらせて涙目になった。
「へ、へんなところつつかないで下さいませ」
「あ、こいつはセカイツクールの案内用のAIです」
「……ふーん」
ロアさんは何度かナビをつついたあと、「じゃあ、帰るわね」と来た時と同じように突然出て行ってしまった。みぃちゃんを残して。
どうやら今日はうちまでみぃちゃんを連れて来るのが目的だったらしい。
みぃちゃん曰く、「まだ添い寝の約束を果たしてもらってないです」とのこと。
ちみっこたちならともかく、流石にみぃちゃんくらいになるとちょっと恥ずかしいのだが、拒む理由もないので「了解」と返す。
そろそろ寝なきゃなぁ、と思ってパソコンの電源を落とそうとしたら、ナビがじーっと俺を見つめて来た。
「……お別れですね、太郎様」
「あ、電源落とすと消えちまうんだっけか」
今更のように思い出した。
「はい。ですが……課金していただけますと、今後もセカイツクールをご利用いただけますよ?」
「……露骨に宣伝してきたなオイ」
「ちなみに評価版のままですと、毎回三百の質問が……」
「くそ、嫌がらせかよっ!」
「さらには先ほどお作りいただいた魔法のデータも保存できませんので、再度作り直しになりますが」
「ぐ」
ナビがニコニコと微笑みながら、胸の前にダイアログを表示させた。
「今なら、たったの五万五千円で、製品版のシリアルナンバーをご購入いただけますが、太郎様、どうなさいま・す・か?」
日本円なのかよっ!とか結構高いなっ!とか思ったが、出せない額じゃない。
第一せっかくつくった魔法データを保存できないっていうのはもったいなさ過ぎる。しょうがないので俺はため息を吐いて五万五千円を振り込んだ。
「毎度ありがとうございました~!」
ナビがニコニコと微笑んでぺこりとお辞儀をした。
それから、黒い笑みを浮かべて続けて言った。
「……ちなみにスマホ版は別料金となっておりますので」
って……まだ金取る気かよっ?!
いちいち向こうにパソコンを持ち込むわけにも行かないので、俺は向うで魔法を使うために泣く泣くスマホ版の料金も振り込んだ。
しかし、これで次からは「俺TUEEE」が出来るはずっ!
次に向うに行くのが、とても楽しみでしょうがなかった。
なんかとっちらかってる感じですけれど。
閑話も大分ながくなっちゃいましたので、次は登場人物紹介をやるかやらないか迷ってるところです。もしくは第三話はじめちゃうかもデス。