世界はXXで出来ている その2
ちょいと短めです。
パソコン関係の専門用語とか多いですが、割と適当ですので雰囲気だけなんとなく感じていただければ。
「さてさて、さっそくですが何をご案内しましょうか?」
うちのPCのディスプレイはそれほど大きいものでもないので、だいたい十センチほどだろうか。メイド服を着た三頭身ほどにデフォルメされた、アニメ調のキャラクターは、なにやら小さくリズムを取るように身体をゆすりながら、満面の笑みでこちらを見つめていた。
アニメ調、と言いはしたが、実際の所アニメーションというには動きが細かすぎる。
予め決められたパターンの動きを再生しているだけとはとても思えないほど動きが自然で、また表情もびっくりするほど多彩だ。
……単純に大量のデータ量を用意すれば現在の技術でも可能、とは思うのだが。
あいにく俺のパソコンはそんなアニメがぬるぬる動くような高性能ではない。
それにちょっと待て、俺のパソコンにはマイクなんてついてないんだがどうやってこちらの話す言葉を理解しているんだ? それにカメラとかも付いてるわけじゃないし、どうやってこちらを認識してるんだろう?
「……あの、太郎様? その、そんなにじっと見つめられると、恥ずかしいのですが」
ナビはそう言うと、両頬に手を当ててふるふると恥ずかしそうに身体をゆすって、セカイツクールのアプリのウィンドウの後ろにひょこりと隠れてしまった。
デスクトップアクセサリーとかでこういうのあったよなー。アクティブなウィンドウの上に寝そべってみたり、ときどき画面上をふらふら散歩してみたりとか。
……あの手のって、マウスでつついたり出来たよな。
ふと思いついて、ウィンドウの影からひょこりと顔だけ出したナビの頭にマウスカーソルを合わせると、矢印が手の形に変わった。
これは、そういうことだな。
マウスの左ボタンを押しっぱなしにしてぐりぐりナビの頭をなでまわしてやる。
「ひゃぅ」
ナビがかわいい悲鳴をあげたで、なんだかにやにやしてしまう。
「も、もう、遊ばないで下さい!」
「……」
無言でナビのほっぺにカーソルをあわせて左クリック連打。
ぷにぷにぷにぷに。
残念ながら触感は感じられないが、楽しい効果音がしてナビが「ふひゃあ」とまた悲鳴をあげた。
なんだか楽しくなってきた。なでなでとつんつんの他に何が出来るんだろう。
ふと思い立って、ナビのスカートの裾にカーソルを合わせる。
「え、何を?」
マウスの左ボタンを押すと、手のアイコンが何かをつかんだ形に変わった。
……よし、これならいけるんじゃね?
そのままマウスを画面上の方にドラッグすると。
ぴらり、とナビのスカートがめくりあがった。
「~~~~!!!」
「いや……なんでトランクスはいてるんだ」
てゆーか、やっぱり男なのか? なんだかすっかり冷めてしまった。
はふう、とため息を吐くと肩を叩かれた。
「おにいちゃん……」
「……さすがに、それはちょっとどうかとおもうのー」
振り返ると、ちみっこたちが微妙な顔で俺を見つめていた。
「ぐすん、ぐすん。太郎様、ひどいです」
画面を見ると、ナビがぺたりと女の子座りでしゃがみこんで泣いていた。
……いやだから、お前どっちなんだ。
「えーっと。気を取り直して、だな、どうやってセカイを創るのか教えてもらえるか?」
何度も謝って、頭をマウスでなでなでしてやって、ようやく泣き止んだナビに向かって話しかけると、ナビはメガネのふちを右手でちょい、と持ち上げて俺を見つめてきた。
「一番簡単な方法は」
言いながらナビが、入力欄のあるダイアログボックスを胸の前に表示した。
「このダイアログに、0から9までの数字、あるいはA~Zまでの英字を10個指定するだけで、ランダムにセカイが形成されます」
「そりゃ簡単だな」
「はい、ですがこれはデフォルトで用意されたセカイの、一部のパラメータを変更するだけようなものですから、正直セカイを創るとは言えないですね。もっとも36の10乗という膨大な組み合わせがありますので、遊ぶだけでしたら十分ではありますね」
「ふーん」
ぱっと想像もつかないが。キャラクターの組み合わせが百万通り!とか謳ってるゲームとかで色違いのぞいたら実質せいぜい二十くらいしかない、なんてあったしなあ。
「今のは一番簡単な方法でしたが、セカイツクールはその気になれば素粒子の構成からいじることが出来ますよ? 物理法則すら思いのまま! もっともまともに存在可能なセカイを構築するのは至難の業でしょうね」
「いや、簡単なのと差がありすぎだろう!」
マウスでぴしり、とツッコミを入れてやるとナビが「はにゃーん」と微妙な笑みを浮かべた。
「まぁ、オススメはご自身の存在する世界をベースにして物理法則等に少し手を入れるか、便利な道具を作成して遊ぶことですね」
「ふむ」
俺が今居る世界って、寧子さんと、お姉さんが作ったとか言ってたよな?
……考えたくないが、この現実世界すらJavaで出来てたりするんだろうか。
仮にそうだとして、俺、自分の世界のソースコードなんて見たくないなぁ……。考えたくもない。世界がそんなあやふやなものだなんて。
「なぁ、ルラレラ、お前らの作ったっていう、あの異世界のソースコードって見せてもらえるか?」
「ん、いいの」
「うつくしいそーすこーどに、おそれおののくがいいの!」
ちみっこどもが、むっふーと息を吐いて俺の膝の上に乗ってきた。
「ちょっといじるの」
「うちのさーばーにあくせすして、ソースコードをだうんろーどするの」
「ひゃ、ひゃあ~」
ナビがマウスで画面外に放りなげられた。ちみっこったちがキーボードをカタカタと叩いていくつも画面を表示させる。
「ん、そういやお前ら携帯電話にセカイツクール入ってるんだよな? ナビみたいなのは居るのか?」
扱いが雑なのが気になって尋ねると。
「うざいからそっこーで消したのー」
「ナビゲーターなんてつかうのはシロウトだけなのー」
なんて言われてしまった。
確かに、マイクロソフトのOfficeシリーズとかにヘルプのオフィスアシスタントとかあるけど、慣れると確かにウザイだけだよな、ああいうのは。
「じゅんびできたのー」
「ふははー、よーくみるがいいのー」
小一時間ほどでセッティングが終わった。
ドヤ顔で胸を張るちみっこどもの頭をなでてやって、さっそく適当にソースコードを開いてみる。
「えーっと……」
「あ、おにいちゃん用にでーたべーすのスキーマもつくっておいたの」
「前回むこうを出たじてんのデータをこぴーしてあるの」
「……実行したら俺のパソコンの中にルラレラ世界できちまうんじゃないだろうな?」
というか、世界がまるごと入るようなパソコンって。
「もちろん、こぴー世界だけどちゃんと動くの!」
「でばっぐ起動ならとくにもんだいないの!」
しれっと、そんなことを言うちみっこどもに、ちょとだけ恐怖のようなものを感じた。
……すらちゃんとか、りあちゃんとか、居るんだぞ?
そんな世界を簡単に、複製とか。
このパソコンの中に?
ぶるぶるとかぶりをふる。動かさなければいいだけの話だ。
……そういう話でも、ないのだろうか。
寧子さんから気軽にもらってしまったセカイツクールを前に。
俺はその重みに、ちょっと息苦しさを感じ始めていた。