2、「めがみさまといっしょ」
「……いくつか聞きたいことがあるんだが」
なぜか俺の部屋ですっかりくつろいでいる双子の幼女を横目に、俺はスーツから部屋着に着替えながら尋ねた。
「すりーさいずはないしょ!」
「おとめのひみつなの!」
「いや誰もそんなこと聞いてないから」
だいたい上から下まですっとんな幼女にそんなの聞いてどうするよ?
「それよりれでぃのまえで着替えなんてやめて欲しいものだわ」
「みたくなきゃ目をそらしゃいいだろうが。そう言うレラはなんで俺のパンツを凝視するんだ?」
にやにやしながら興味深げに俺の着替えを見つめる和服幼女に軽くでこぴんをかましてやると、「あいたっ」とちいさな悲鳴をあげて涙目になった。
「ここ俺の部屋だから遠慮なんかしないぞ?」
ふん、と鼻を鳴らして部屋着にしている作務衣に袖を通す。
「(ひそひそ)ろしゅつきょうだわ」
「(ひそひそ)ろしゅつきょうのへんたいね」
「(ひそひそ)そのうち、ほーらおじょうちゃんここをみてごらん、とかいいだすわ」
「(ひそひそ)そのうち、ほーらおじょうちゃんこれを手でにぎってごらん、とかいいだすわね」
「……いやお前らなー」
ため息を吐いて双子にでこぴんをかます。
「笑えない冗談はやめてくれ」
つかこいつらどんな教育うけとるんだ。あの軽い母親にしてこの子ありということなのだろうか。
ため息を吐いてベッドの上で胡坐をかく。
「……そう、じゃ冗談はここまでにして。言ってごらんなさい、何をききたいのかしら?」
いそいそと寄ってきた和服幼女が、にやにやと笑みを浮かべながら俺の左膝の上に座った。背中を俺にもたれかからせて、後頭部をこつんと俺の胸に当てる。
「……」
洋風幼女も無言で俺の右膝に腰掛けて、下からじーっと俺を見上げてくる。
「……なんでお前らそんなにくっつくんだ?」
「あら、何がふまんなのかしら?」
「おにいちゃん、わたしたちのこときらい?」
「いや真面目に聞いているんだが」
流石にこんなちみっこ共に擦り寄られても変な気を起したりはしないが、初対面の子供に好かれるような何かが俺にあるとは思えなかった。
親戚のガキ共も俺が小遣いやるまでは寄ってきやがらないしな。しかももらうもんもらったらあいつらすぐいなくなるしっ。
「……いごこちがいい。なにか、あんしんする」
しばらく、うんうんと唸った末にルラが言ったのはそんな言葉だった。
「おにいちゃんには、女神をひきつける何かがあるのかもね?」
レラがにやぁ、と笑って小さく舌を出した。
「わけわからん」
何にせよ、好意を寄せられるのは悪い気分ではなかった。
夜なのでちょっとどうかとも思ったが、買い置きのおやつを双子に出してやる。
「……それ喰ったら帰れよ。親は迎えに来てくれるのか?」
膝の上でぽりぽりとリスのようにおやつを頬張るちみっこどもの頭をなでると、微妙な顔で二人とも俺の顔を見上げてきた。
「ママに聞いてないの?」
「わたしたち、これからはおにいちゃんのところでお世話になる予定なんだけど?」
「は?」
聞いてませんがそんなこと。
「わたしたちの食費とか、その他もろもろが必要経費として振り込まれているでしょう?」
レラに言われてスマホでeバンクサービスの口座を確認してみると、給料日でもないのに結構な額が振り込まれていた。
「交通費は電車代として、必要経費って何のことかと思ってたらお前らの世話しろってことなのか?」
くそ、あの母親、育児放棄なんじゃねーかっ?
「学校とかどうするんだお前ら?」
「めがみにゃがっこうもー」
「しけんもなんにもな~い」
「それは妖怪とかおばけの話だろうがっ! 平日昼間は俺仕事あるしお前らにかまってられないぞ?」
「ん、その辺はだいじょうぶ。おにいちゃんのおへや、暇つぶせそうなものがいっぱいあるし」
「げーむもまんがもいっぱーい」
「……これって真面目に警察に通報とかすべきなんじゃないか?」
俺、誘拐犯扱いされたりしないだろうな……?
思わずつぶやいた俺のわき腹を、レラがむにゅうとつねった。
「なんだよ?」
見つめると、またむにゅむにゅとわき腹をつままれた。
ちょっとお腹出てきてるの気になってるんだからやめてほしい。
「だめ……?」
ルラも反対側をむにむにとつまんできた。
何がしたいんだかよくわからん。
「……あーもう、わかった。何も聞かずに面倒見てやるから」
ドラえもんとかオバQとか、ああいう不思議な存在が突然訪ねて来た家って、なんでああいうのをあっさり受け入れちゃうんだろうな?
ため息を吐いて。俺は状況に流されることをよしとした。
結局その日は三人ベッドで川の字になって眠った。早いとこせめてもう一組は布団用意しないと狭くてしょうがない。
――明日から三連休だ。