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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第二話「異世界を歩こう」
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 9、「運命の邂逅」

 川の水で顔を洗って、ソディアで素振りを適当にする。

 ロアが居ないので代わりにソディアが姿勢が悪い、もっとしっかり握れなどと言ってくるが、どうせ今日もまた草を薙ぎ払うのだからそこまで真面目にやることもないだろう、と適当に聞き流した。

 汗をかかない程度に身体を動かした後、俺はその辺の細長い草を何本か刈って束ね、リーアの捕った魚を縛ってソディアの剣先にぶら下げた。

”仮の主殿……我を棒きれ扱いは止めて欲しいのだが”

「そうかたいこと言うなよ」

 腰にぶら下げたらズボンが生臭くなるしね。

 ソディアを肩に担ぎつつ、リーアをお姫様だっこするように抱えあげると、リーアはおなかの上にノートを乗せて「――♪」と俺を見上げてきた。

「そういやどうしてリーアって喋らないんだろうな?」

 今更だったが何とはなしに尋ねてみると、

『歌はまほう』

『ことばもまほう』

『はなすもまほう』

『わたしはまほうつかわない』

 というよくわからない答えが返ってきた。

「まぁ、意思の疎通は出来るわけだし、無理して話す事も無いよな」

 俺はひとつつぶやいて、丸太小屋へと戻ることにした。




 丸太小屋からは味噌汁のいい匂いが漂ってきていた。

 やはり日本人は米と味噌汁だよね! これにリーアのお魚を焼くなりすれば立派な朝ごはんの完成だ。

「ロアさん、おかずとってきましたよー……っ?」

 鼻歌交じりに丸太小屋の扉を開けると、そこには地上の楽園が広がっていた。

 というかぱんつ一枚状態のロアが、「へ?」と口をぽかんと開けて突っ立っていた。どうやら濡らしたタオルで身体を拭っていたところだったらしい。

 小ぶりではあるがつんと上を向いたその双丘は形がほどよく整っていて、とても美味しそうだった。俺はロリコンじゃないので完全なまな板には興味が無いが、こう手のひらにすっぽりと収まるくらいのつつましやかなふくらみは大好物ですっ!

「……タロー、あたし戻ってきたらちゃんとドアをノックするように言ったよね?」

 ロアが慌ててタオルで胸元を隠すようにして俺を睨んだ。

「みごとならっきーすけべなのー」

「おにいちゃんならきっとやるとおもってたのー」

 同じく身体を拭いていたらしい、すっぽんぽんの幼女二人が楽しげに両手を上げた。

「……というか、わざとです?」

 みぃちゃんは既に身支度を終えた後だったらしく、鍋の中身を紙皿に注ぎ分けている最中だった。

「で、いつまで乙女の柔肌を凝視してるのよ?」

「……すみませんでしたっ!」

 ロアから殺意にも似た威圧を感じて、俺はあわててリーアを床に下ろすと、外に飛び出してドア閉じた。




「今日は舟で川を下りましょう」

 十分後、おそるおそるドアをノックした俺に、何事も無かったようにロアが言った。

 どうやらさっきのは無かったことにしろ、と言うことだと察して、俺もあえて重ねて謝ることはしなかった。

「下流の方には街があるみたい。最初に真っ直ぐ東じゃなくて、北東に向かったのは正解だったみたいね。川を下れば、半日で街まで着けそうよ」

 なるほど。最初の地点からは東の町まで四日という話だったから、大分時間が短縮されることになるな。

「……舟なんかあるんですか?」

「あたしのポーチに入ってるわ」

 なにそのなんでも入ってるポーチ。ロアえもんって呼んじゃうぞ?

「……了解です」

 ソディアから魚を外して用意しておいた木の枝を突き刺し、暖炉の灰に突き立てる。

「あ、リーアはどうしましょう?」

 振り返ってロアを見ると、冷たい目で見つめ返された。

「タローがペットにしたんでしょう? 自分で責任取りなさい」

 確かにそうだけれど。このまま連れて行ってしまってよいものか。

「リーアはどうする?」

 ベッドの上でごろごろしているリーアに問いかけると、リーアは小さく首を斜めにした。

『わたしはたろうのペット』

『いつでもたべられる』

『もっていく とうぜん』

「……あれ。リーアさん。ペットって非常食の認識?」

 どうやらリーアとの間には根本的な認識違いがあるような気がする。アレだろうか、お魚を水槽で飼うのはスプラッシュの場合、いつでも食べられるようにってことなのか?

「いやでもこの家とか、出て行っちゃってだいじょうぶなの?」

『手紙おく』

 リーアがノートを一枚破って、ペンでかりかりと何か書き始めた。

「いいのかなぁ……勝手に連れて行っちゃって」

「すべての幼女はここにあつまるなのー!」

「いくぜひゃくまんにんなのー!」

「いや初代プレステのキャッチコピーじゃないんだから、そんな人聞きの悪いこと言わないの」

 はしゃぐちみっこどもにとりあえずツッコミを入れて、腕を組む。

 しかしリーアは俺についてくる気があるようだけれど、実際のところ誘拐みたいなものなんじゃないだろうか。

「でも、気にする必要はないの」

「実際の所、ロラさんやみぃに出会ったことのほうがいれぎゅらーだわ」

 悩む俺に、ルラとレラがにやにやと嫌な笑みを浮かべて言った。

「シナリオは書いてないけれど、イベントのネタはいっぱいつくったの」

「すてきな冒険をしてみせてね、おにいちゃん?」

 そういやテストプレイみたいなものなんだけっけか。ってことは、これはリーアを仲間にするイベントだと思えばいいってことか?

 中途半端にゲームのようであったり現実に存在する世界のようであったりするものだから素直に割り切れないものの、俺の中でリーアを置いていくという選択子は無いように思われた。

「……じゃ、改めてよろしくな、リーア」

 ベッドに腰掛けてリーアの頭をなでると「――♪」と小さく鳴いた。

 ふとリーアの手元を覗き込むと、両親に宛てたらしい手紙には「おとなになりました」とだけ書かれていた。これで通じるのかと疑問に思わないでもなかったが、足が生えたら一人前で自由に生きるということなのだろう。

「あ、そうだ。ちょっとリーアのこと調べていいか?」

 せっかくだからスカウターでステータスを確認しておこうと思いつき、リーアに確認する。

『よい』

『すみずみまでしらべる』

「ん、じゃちょっと調べるぞ」

 でろんとベッドの上に転がったリーアにスカウターのターゲットを合わせる。


  名前  :トリストリーア

  種族  :飛沫族スプラッシュ

  職業  :歌姫

  レベル :12

  戦闘力 :10

  好感度 :50%


  称号  :「沈黙の歌姫」


  コメント:ぴっちぴちのにんぎょさんなの。

       うたわないけれどおうたが得意なの。

       言葉を話さないのにはちょっと秘密があるわ。

       おにいちゃんにお姫様だっこされてばかりでちょっとずるいの。



 リーアのレベルや戦闘力が普通なことにちょっと安心する。あくまで雰囲気だという話だが、それにしたって俺以外のみんながとんでもないレベルとかばかりだと、正直やる気なくしちゃうしね……。

 職業の歌姫というのはどういうものなのだろう。よくある詩人系の呪歌とかなにか魔法効果のある歌でも歌えるのだろうか。言葉を話さないからきっとメロディだけラララとか歌うのだろうと思う。

 ふむ、みぃちゃんが陸、リーアが海ときたから、空系が欲しい所だな。

「(ひそひそ)おにいちゃんが海陸空そろえたいとか思ってるの」

「(ひそひそ)これくたーなの」

「だからお前らは俺の心を読むなって」

 ちみっこどもにチョップしてやると「「いたいのー」」とそろっておでこを押さえてしゃがみこんだ。




 魚が焼けたので、ばたばたやってる間に少し冷めてしまった味噌味の雑炊を軽く暖め直して朝ご飯をすませた。ご飯を済ませた後は荷物をまとめ、簡単に中を片付けてから小屋を出る。

 もともとあまり物が無かったし、リーア自身も持っていくものはほとんどないようだった。

『もっていく』

 と俺のリュックに詰め込むようにお願いしてきたのは、小さな手鏡くらいだった。

  あとは干した魚などの食料で、ただ腐らせるのももったいないのでなるだけ詰め込んでおく。ついでに裏の菜園からも持っていけるだけハーブや野菜を採った。

 最後にリーアが書いた手紙をテーブルの上に乗せて、俺達は丸太小屋を後にした。



 ロアが川に小舟を浮かべ、俺にオールのようなものを渡してきた。どうやらこれで漕げということらしい。

 素直に受け取って船の中ほどに座ると、俺の後ろにちみっこ二人が並んで座り、俺の前にみぃちゃんがちょこんと腰掛けた。船の舳先にロアが立つと、ちみっこが多いとはいえ流石に小さな舟はもういっぱいだった。

「……沈まないだろうな?」

 漕ぐことを考えたらリーアを抱えたままなのは難しいし、ちみっこふたりを俺の膝の上に乗せるわけにもいかない。

『ふくぬぐ』

『ふねおす』

 リーアがバンザイしたのでワンピースを脱がしてやると、するりと川にもぐりこんで舟の後ろに回りこんだ。

「悪いな」

 なんだかこんな幼い少女をこき使っているようで心が痛む。

『つかまっていればおぼれない』

『およぐのがしごと』

 自分の出来ることで役に立とうというその心遣いがありがたかった。

「ありがとな」

 頭をなでてあげたかったが流石に手が届かなかった。

「んじゃいくよー」

 ロアが舟の先頭に立って、長い棒のようなもので川底を突く。

「しゅっぱつしんこーなのー」

「ごーごーなのー」

「あぶないから座ってろ」

 立ち上がってはしゃごうとしたちみっこどもを押さえつけた。




『川のじょうりゅう、森、山、きがいっぱい生えている』

『おうち 父がつくった』

『すこしじょうりゅうにみずうみがある』

『かりゅう街がある』

『にんげんいっぱいおおきな街』

『もっとかりゅう海』

『父と母がいる』

 小舟を後ろから押すように泳ぎながら、リーアがとりとめもなくノートに言葉を書き綴る。

 ときおり「――♪」と楽しげに声をあげながら。

 川岸はずっと草原が続いていたが、ときおりリーアの丸太小屋と同じような建物が見えた。もしかしたら他のスプラッシュの人たちの家なのかもしれない。あるいは漁師小屋みたいなものだったりするのだろうか

 リーアに会ったあたりも結構川幅があったが。下流になるにつれてどんどん川幅が広がってくる。ニ、三時間も下るとすっかり向こう岸が見えないくらいになってしまった。

「ずいぶんでかい川だったんだな」

 いやもう川っていうより河だな。

「あともう少し下ると街に着くんじゃないかな」

 棒が川底に届かなくなったらしく、ロアは棒を仕舞って先頭に座っている。

「まだ川幅広がるんですかねぇ」

「河口付近だと一キロ越えるんじゃないかな?」

「それはでかいですねぇ」

 のんびりとして、それでいて意外と川の流れは速いのか、あるいはリーアがずっとバシャバシャ後ろからおしてくれているせいなのか、舟は思ったよりもスピードが出ていたようだ。

 街に近付いたらリーアを舟にあげてやらないとな。




 街に近付くと、俺達の乗っているような小舟や漁船らしき小型の船などを見かけるようになった。あまり人目に付かないうちにリーアを船にあげることにする。みぃちゃんをロアが膝の上にのせて、リーアを俺の足の間に挟みこむ形だ。

 タオルで水気を拭きながらリーアを引っ張り上げると、リーアは小さく頭をぷるぷると振って髪の水気を飛ばした。

「こら、水が飛ぶ」

「――♪」

 楽しげに鳴くリーアの頭にタオルをかぶせてゴシゴシこすった。

「しかし、思ったよりでっかい街なんだな」

 遠くに見えてきた街は、川を挟んで両側に広がっているようだった。でっかい石造り橋が左右の街をつないでいるようで、橋の上を馬車や人が行き来しているのが遠目にも見えた。

 街はまだはっきりとは見えないが、あまり高い建物はなく、ほとんどが石かレンガのようなものを積み上げて作ってあるように見えた。どこか懐かしい外国の風景のようには思えたが、特に異世界っ!という感じはしない。

 住んでいる人は違っても、どこもあまり変わらないものなんだろうかとぼんやり思った。

「街に着いたら手分けして情報を仕入れましょう」

 みぃちゃんを膝に抱えたロアが言った。

「はい、でも何を聞きます?」

 ゲームならイベント情報が聞けるのだろうけれど。

「なんでもよ。タローは冒険のネタか仲間になってくれそうな幼女の情報でも聞いたら?」

「なんで幼女限定なんですかっ!」

「だって、ねぇ? タローのまわりってあたし以外はちいさな女の子ばっかりじゃない」

 膝の上のみぃちゃんの頭をなでながらロアがにやにや笑う。

 否定できないのが悔しいが、別に俺は狙ってやってるわけじゃない。たまたま出会ったのが小さな女の子だったというだけなのだ。

 ……ってなんかロリコンの言い訳みたいだな。




「あたしとみぃちゃんは別行動するから、後で落ち合いましょう。ソディアを持ってればタローの居場所はだいたいわかるし、こっちからそっちを探して合流するから好きに行動してていいわ」

 船着場に着くと、小舟を大事そうにポーチにしまってロアが言った。小さいとはいえ、人が何人も乗れる船がにゅるりとポーチに吸い込まれる様は不気味だった。

「了解です。あ、こっちから連絡をとりたい場合はどうしたら?」

「女神ちゃんたちがなんとかできるんじゃない?」

 ちみっこどもを見ると、俺のスカウターをびしりと指差した。

「一度スカウターでしらべると、さーち機能がつかえるの!」

「めがみぱわーでちょくせつれんらくも可能なの!」

 なんとかなるっぽい。

「今日はもう日曜ですし、俺、向こうに戻るので、三時間後くらいに合流予定ってことでいいですかね?」

「りょーかい。じゃ、いきましょみぃちゃん」

「ん」

 ロアはみぃちゃんの手を引いて、さっさと行ってしまった。何か目的があってこの世界に来ているようだから、それに関する情報を集めたいのだろう。

 ……内緒にされてるみたいでちょっと嫌だな。

「とりあえず、あの鐘楼みたいなの目指してみるか」

 船着場でロアとみぃちゃんと別れた俺は、目立つ塔を目指すことにした。

 だいたいああいうところって広場になってたりして、人が集まる場所になってるんだよな。

 リーアを背中に背負って、ロアたちと反対の方向に歩き出す。

 そうだ、リーアに靴とか買ってやらないとな。

「リーア、まずは靴買いに行こうか?」

『くつ?』

「あ、ちょっとまっておにいちゃん」

「ここのおかねもってないのー」

「あ」

 言われてはじめて気がついた。俺この世界の通貨とかもってないじゃん。

 せっかく来たのに何も買えないのはちょっと悔しいな。なんか手軽に小銭稼ぐ手段とか無いかな。よくある異世界モノだと手持ちの雑貨とかが何気に高く売れたりするんだが……。

 みぃちゃんが布使ってた時には紙とか貴重なのかと思ったけれど、リーアは平気でノートを使っているしそんなに高く売れないような気もする。

 考えながら、鐘楼の広場にたどり着いた時、何かが聞こえたような気がした。

 周りを見回す。

 時折みぃちゃんと同じように獣の耳を持つ人を見かけるが、大体は俺と同じ普通の人間の姿をしているようだ。服装もあまり凝ったつくりのものは無いようだが、普通にシャツやズボンを着ている。俺の格好も特に目立ったりはしていないようだ。

 広場の真ん中にはちょっとした噴水があり、水を噴き上げている。広場を囲むように周りには露店や屋台が立ち並んでおり、通りを行きかう人々との活発なやりとりでざわめいている。

 しかし、特に変わった所は無いようだった。

 今のはなんだろう。

 そのとき、屋台で串のようなものを買っていた客が不意に空を見上げて指差した。

「――~~~~~~~~~!!!」

 誰かが何か叫んでいるような?

「ん、なんだ?」

 指差された方を見上げると、東の空から何かが一直線にこちらに向かって飛んでくる所だった。

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